僕は久しぶりに京都を訪ねた。
阪急梅田から特急で終点の河原町に着いて、僕は待ち
合わせに指定された、南座に向かうため、四条大橋を足早に
歩いていた。
今日は、南座で舞台鑑賞って言う訳でもない。
僕が「さおちゃんと八坂さんに行きたい!」って言ったから、
じゃあ・・・ってことで、彼女が指定してきたのが南座前だった。
彼女なんて言ってるけど、実はさおちゃんと会うのは8年ぶり
のことだ。
大学を卒業と同時に彼女とはお互いの道を歩もうと、別れを
選択した。
共通の友人を通して、さおちゃんが一度結婚して、最近離婚
したっていう情報はあったが、取り立ててさおちゃんとどうこう
なろうなどとは全く思っていなかった。
「ともくん!」
聞き覚えのある透き通った声が耳に響く。
「やぁ! 元気だった?」
取り繕ったような生返事。
「元気だよ! 最近フリーになって、自由だし。ともくんとも久々
に会えると思ったらもっと元気になったよ!」
本音かお世辞かはわからないけど、嬉しい言葉だ。
しかも、別れたことを聞いてもいないのに言ってくれたし。
「今日は、誘いに乗ってくれてありがとう」
「うん。どういたしまして・・・って言っとけば良い?」
「うん。そういう風に言ってくれると会話が続けられる」
二人して、八坂さんに向かって歩き始めた。
八坂さん。
京都じゃない人は、
「誰に会いに行くのかな」なんて考える人もいるのかも
しれないけど、実は人ではない。
テレビドラマで「京都」って言うと、東寺(正式名称:教王護国寺)の
五重塔かここ、八坂さんの表門が出てくることが多い。
そう、八坂さんとは祇園祭でもおなじみの八坂神社のことを
親しみを込めて呼んでいるのである。
実に京都の人にとって、八坂さんは大切な存在なのだ。
「もう夕方で、観光客とは逆方向だね」
「そうね。ね、ともくん?」
「何?」
しばらく沈黙の時が続いたが、彼女はこう切り出した。
「なんで私を誘ったの?」
「え……」
唐突に聞かれて、応えあぐねていると青くないLAWSONの
前まで来てしまい、もう横断歩道を渡ると八坂さんの門に
着いてしまう。
どうでも良いかもしれないけど、ここ祇園のLAWSONは祇園の
町並みを守るという観点から、通常の青い看板ではなく、白を
基調にしたデザインになっている。
「ともくん?」
「ん?」
「なんで私?」
う~ん。
なんでなんだろう。
自分でもそこまで深く考えていなかった。
しかし、そう聞かれると適当な返事は出来ないと思って、真面目
に考え始めてしまった。
「えっと……さおちゃんにそう聞かれて正直、どう答えようかと
思ったんだけど、気付いたら……誘ってた」
そうなのだ。
ただなんとなくだった。
ただなんとなく、「さおちゃんに会いたい」って思ったから、
誘いのメールを入れたのだ。
「ふーん。そうなんだ。変なの」
「変? かな……」
「うん。普通、男は女を誘う時にもっと計画的になるんじゃない?」
「そうかな?」
「少なくとも今まで私を誘ってきた男は、別れた旦那も含めて
そうだったわ」
「じゃあ、僕は違う?」
しばらく、LAWSONの前から横断歩道を渡ることなく会話が続いて
いる感じだ。
「ともくんは、大学生の時から私のこと手に入れてやろう!って感じ
がなかったな」
「もしかして、不満だったの?」
やばい。
下手すると八坂さんはもう目の前なのに、怒らせてしまうかも
しれない質問。
「ともくんさぁ、不満な人と大学2年の時からだから、3年も付き
合える?」
「じゃあ……」
「好きだったに決まってるでしょ
」
さおちゃんは顔を赤くしながら、ちょうど青信号に変わった横断
歩道を渡ってしまった。
(つづく)
博薫堂