脚本は田口成光。監督は大木淳。特撮監督は東条昭平。この話はフィルムによっては「ウルトラマンキングのおくりもの」という題がつけられています。どちらも話の内容に合致しているとは思いますが…。またこの回から「日本名作民話シリーズ」が始まり、この話は一寸法師を題材にしています。この企画を考え出したのは熊谷健プロデューサーのようです。熊谷健さんは民話が好きで、偶然にも初めてプロデューサーを務めた「怪奇大作戦」第26話「ゆきおんな」も民話を題材にしていました。ただ、このシリーズは賛否両論あるようです。その理由は見てみればわかります。


スポーツセンターでテツオの母がテツオの退会を申し出て家に帰った頃、町ではプレッシャー星人が出現。テツオの母は教育ママでテツオを習字に通わせるためにスポーツクラブを退会させました。テツオの母はメガネをかけて髪にはパーマをかけるという典型的な教育ママの格好をしています。するとプレッシャー星人がテツオの家に現れました。恐怖におののくテツオの母。プレッシャー星人は不思議な術を使いました。何をしにきたのでしょうか? と思う間もなく MAC が駆けつけました。この回から登場の松木隊員も現場に来ています。MACはプレッシャー星人と闘って何とかテツオの家から追い出しましたが、教育ママゴンには感謝の気持ちがないようです。「大丈夫ですか?」という松木隊員を「ほっといてくださいよ。」と言って突き飛ばしました。あきれたテツオが「お礼言ってよ。」と言うと


教育ママゴン「そんな必要ありませんよ。MACがあたし達を助けるのは仕事なんざんすからね。


典型的な傲慢な教育ママゴンでいかにも言いそうな言葉ですが、「~なんざんすからね」というのは今では死語でしょう。もっともこんなのは序の口で後の展開は突っ込みどころ満載のある意味トホホな世界です。


MACステーションに帰ってからもゲンは教育ママゴンのことが気になるようで不機嫌そうです。松木隊員に声をかけられても不機嫌な顔はなおりません。見かねたダンが慰めてやり、「お前もだんだん人間らしくなってきたのかな。」といった後、プレッシャー星人のことを警告しました。プレッシャー星人は神出鬼没で不思議な術を使うとダンは聞いていましたが、術の内容までは把握していませんでした。


そしてプレッシャー星人が今度は巨大化して登場。杖を振り回して術を使っています。空には火の玉が飛び、町は破壊されました。MACは出動して攻撃を開始しましたが、マッキーはあっさり撃墜されてしまいました。この場面、そろそろ見飽きてきました。余裕の表情で宙に浮かんで寝そべるプレッシャー星人を見てゲンはレオに変身。はじめのうちは「戦え! ウルトラマンレオ」が流れて互角に戦っている…ように見えましたが、突然曲が止まると形勢逆転。レオは動きを止められてしまい、さらに小さくされてしまいました。このときのレオの大きさは人間くらいに見えるのですが…


ダン「しまった。」


不適に笑うプレッシャー星人は杖から風船を膨らませるとレオを捕まえて風船の中に入れ、飛ばしてしまいました。このときの風船の大きさはアドバルーンくらいに見えるのですが…ダンはレオが罠にはまってしまったことを悔しく思いましたが、なす術もありません。この後続くナレーションが「日本名作民話シリーズ」の迷走振りをよく表しています。


ナレーター「大変だ。レオはいったいどうなってしまうのだろう。」


そんなことを言われた視聴者は戸惑うばかり。ここでCMに入り、CMがあけると MAC ステーションでダンがいらいらと歩き回っていました。


ダン「ゲンも星人もいったいどこへ消えてしまったんだろうか。」


と言った途端に場面が変わり、多摩川の河原に。梅田兄妹とテツオがゲンを探しています。ところが教育ママゴンに見つかってしまいました。はっきり言って、このテツオと教育ママゴンのやり取りは不要だと思います。田口成光が多用するやり方ですが、物語の役に立っていないと思います。教育ママゴンは、そういうことは大人に任せろ、たった一日休んだだけで目指す中学に入れなかった人もいるんですよ、とほざきましたが、習字が中学入試に関係あるとは思えません。とにかく教育ママゴンは強権を発動してテツオを連れ去ってしまいました。トオルが厳しいんだなあといいながら石を投げると石の落ちた先で風船が木に引っかかっていました。カオルが「とって」と言ったので二人は風船のところへ行きました。


ナレーター「君達、もうわかったねえ。そうだ。この風船はプレッシャー星人がレオを閉じ込めた風船なのだ。」


このナレーションは何とかならなかったのでしょうか。トオルが木に引っかかっていた風船をとろうとしたのか棒でつつくと風船は割れてしまいました。さっきプレッシャー星人がレオを閉じ込めた時と大きさが合っていないような気がします。かなりいい加減です。ここから一寸法師の歌が流れ、その歌にあわせて番組は進みます。トオルはこう言い放ちました。


トオル「さあ、おおとりさんを探しにいこう。」


おおとりさんことレオは風船が割れたの川の中に落ちてしまったというのに。トオルとカオルはその場を走り去ってしまいました。川に浮かぶレオの人形。レオの人形はしばらく背泳ぎしていましたが、流れていたお椀にたどり着き、その中に乗り込みました。お椀が流れるそばをトオルとカオルが走っていきましたが、二人はレオに気がつきません。なぜかレオの手には櫂の代わりの木の棒箸が。一寸法師よろしく漕いでいます。このとき二家本さんは何を考えたのでしょうか。しばらくするとレオは箸を漕ぐのをやめ、空へ飛び去っていきました。そこは今まで数々の激闘(対フリップ星人戦など)が行なわれた五本松の地点です。


しばらく経ってMACステーションでダンが険しい顔をして座り込んでいると、彼を呼ぶ声が聞こえます。


ダン「ゲン!」


見るとレオがダンの足元にいます。見るとレオはダンのブーツくらいの大きさです。風船の中に入っていたにしては大きいです。本当に縮尺がいい加減です。何とかならなかったのでしょうか。


レオ「見てください。このとおりですよ。」

ダン「お前は2分30秒しか変身できないはずなのに…」

レオ「小さくされた分だけ、長くいられるらしいんです。


え? そんなの初耳です。この後のダンの言葉とそれに対するレオの答えが傑作です。


ダン「それでお前、大きくはなれないのか?」

レオ「ええ。何度もやってみたんですけど、星人の魔法が解けないんです。」


うーん。ウルトラマン第28話「人間標本5・6」では、ダダによって人間と同じ大きさにされてしまったウルトラマンは自力で元の大きさに戻っていました。L77星人のレオにはそのような力がなかったのでしょうか。いや、単に脚本を書いた田口成光が話の展開を持っていきやすくしたためにこうしただけです。この後のナレーションもまた脱力感溢れるものです。


ナレーター「というわけでレオは元の大きさに戻れなくなってしまったんだ。困ったねえ。


さてテツオが部屋にいると外にプレッシャー星人がいるのが見えました。部屋に入ってきた教育ママゴンにテツオが星人のことを話すと星人は姿を消してしまいました。ママゴンが立ち去った後でテツオが外を見るとまたまたプレッシャー星人が姿を現しました。このコントのようなやり取りもはっきり言って無駄だと思います。ダンが小さくなったレオを連れて出動。暴れまわるプレッシャー星人を見て


ダン「MACの力ではあの星人は倒せん。」


気持ちはわかるけど、それは禁句でしょう。さてテツオはママゴンを連れて逃げていましたが、ママゴンは転んでしまいました。なぜかプレッシャー星人が二人に迫ります。けなげにもテツオは自分が星人の気を引くから逃げてとママゴンに言いました。当たり前の話ですが、テツオがプレッシャー星人にかなうはずがありません。見かねたレオは「僕が行きます。」と言って飛んでいきました。この時のレオの飛行音は「ブーン」という低い音で、まるで蚊や蝿が飛んでいるような間抜けな音です。何とかならなかったのでしょうか。レオはプレッシャー星人の周りを飛び回りました。プレッシャー星人は両手をあわせてレオをぴしゃりとたたきました。まるで蚊をたたいているかのような動作です。しかし、レオが何かをしたのか、「グサリ」という音がしたかと思うと、星人は痛がりました。何かを刺した時のような音でしたが、画面を見る限りはパンチをしただけのようです。埒があかないのでダンが松葉杖に仕込まれたマシンガンを撃つと怒った星人はダンを捕まえようとしました。万事休すか。そのとき、稲妻が落ちたかと思うと銀色のマントをつけた巨人が現れました。驚いたダンはこうつぶやきます。


ダン「ウルトラマンキング」


この後のナレーションはと言うと


ナレーター「ウルトラマンキングとはレオの星でも光の国でも必ずどこかにいるといわれながら、まだ誰も出会ったことのない不思議な力を持つ伝説の人なのだ。


なぜダンがあの巨人を見てウルトラマンキングだとわかったのかが謎です。今日は突っ込みどころがたくさんあって「困ったねえ」と言いたくなってしまいます。伊上勝さんの脚本ではないのですから、もっとうまく作ってほしいです。もっとも、伊上勝さんの書く話はあまりにも荒唐無稽すぎるところが最大の魅力で、とても面白いのですが、今回の田口成光が書いた話はちょっとねえ。閑話休題。キングは大きなハンマーを取り出すとハンマーをレオに向けて振り始めました。そう。打ち出の小槌のようにレオは大きくなっていったのです。このシーンを流したいために、レオは自力で大きくなれないというトホホな展開になってしまったのです。ご丁寧にもこのときまた一寸法師の歌が流れます。しばらくレオは星人と戦いました。そしてしばらくそれを見守った後、キングは自分が身に着けていたウルトラマントをレオに投げ与えました。


ナレーター「レオは第二の故郷地球で正義のために若い命を懸けていた。そんなレオに今ウルトラマンキングは伝家の宝刀とも言うべきウルトラマントを与えたのであった。」


やっとまともなナレーションが入りました。レオはウルトラマントを傘のようなレオブレラに変形させて星人の念力を跳ね返しました。それを見たキングがレオに合図するとレオはレオブレラを星人に突き刺しました。レオブレラは星人を突き抜けてキングの元へ。キングが投げ返すとウルトラマントは腕輪に変形してレオの左腕に装着されました。そしてプレッシャー星人はレオとキングの光線で倒されました。握手するレオとキング。いい場面ですが…このとき流れるナレーションはというと


ナレーター「ウルトラマンキングが与えたウルトラマント。マントにはまだまだ秘密が隠されているんだよ。レオはますます面白くなるねえ。


今までの世界観をぶち壊すようなナレーションが流れた後、キングは去っていきました。教育ママゴンは改心し、ゲンにお礼を言うのでした。


ごらんのとおり、初期の世界観とは180度転換したかのような能天気な話になっています。初期の話の記憶が全くない私でもウルトラマンキングが登場してからの話はよく覚えています。ただここまで「子供に媚びた」かいもなく、一度下がった視聴率は回復しなかったのでした。初期の話についてきた人から見れば、この話はちょっと唖然として「困ったねえ」と思ったのではないかと思います。「レオはますます面白くなるねえ。」という台詞を書いた時、田口成光がどう思ったのかはわかりません。でもウルトラマンエースのメインシナリオライターだった市川森一さんだったら、一度自分が打ちたてた設定を否定するかのような話は絶対に書かないだろうと思います。それが証拠に橋本洋二プロデューサーにエースに復帰するよう頼まれた市川さんは「ベロクロンの復讐」という話を書き、「ヤプールが滅んだ」後でまた「ヤプールを復活」させ、まるで「ヤプールを滅ぼした」スタッフに対する恨み言をこめたような台詞を女ヤプールに言わせています。自分の書いた話が視聴者に受けなかったものの最後まで自分の信念を曲げなかった市川森一さんと受けなかった途端に自分の信念を曲げて視聴者に媚びた田口成光。その後の実績が示すとおり、市川森一さんの方が脚本家としての実力は上だったと思います。


今思えば、もっと早くからレオが普通に怪獣と戦って勝利する話をちりばめておけば、ここまで「子供に媚びた」作りにする必要はなかったと思います。この時期の話はレオの迷走ぶりを如実に表わしていると思います。レオが真にその作風を確立するのは円盤生物編になってからだと思いますが、それはまだまだ先のこと。しばらくはこのような話が続いてしまいます。