脚本は土門鉄郎と小川英。監督は児玉進。
ウルトラマンレオというテーマで「太陽にほえろ!」を取り上げることを不思議に思う方は多いと思いますが、これにはわけがあります。実は第166話「噂」を書いた土門鉄郎さんはウルトラマンレオ第9話を書いているのです。私の調べた範囲では土門鉄郎さんが脚本を担当したのはこの二本だけでした。両者を比較することによって土門鉄郎さんの作風がわかると思います。なお、「太陽にほえろ!」は脚本家が書き上げた脚本を小川英さんが目を通して修正するという態勢をとっていましたので、この脚本のあらすじを決めたのは土門鉄郎さんだと推測できます。作品によっては小川英さんが先に来ていることもありますが、その場合は小川さんの直した部分が多くなった時なのでしょう。この態勢をとったため、「太陽にほえろ!」では当時の新人脚本家を数多く起用することができました。この当時だけでも杉村のぼるさんや中村勝行さんが起用されています。土門鉄郎さんもその一人だったのでしょう。
さて本題に入りましょう。この話の主人公は山さんこと山村精一(露口茂)。メインゲストは上村香子です。
金子貞夫という男が殺されました。鋭利な刃物で心臓を一突き。金子はあくどいトップ屋でした。死亡時刻は夜中の11時前後。指紋は拭き取られているため、計画的な犯行と思われ、さらに金目の物が盗まれていないことから怨恨の線が強そうです。ゴリさんこと石塚誠(竜雷太)はマンションの管理人の安田(江幡高志)に、何か変わったことがなかったか聞き込んでいました。安田は10時半頃に若い女が金子を訪ねてきたのを見たと証言。24,5歳の美人で、金子は女を新川さんとよんでいた、さらに、女は「病院の手術で遅くなった」と金子に言い訳していたと言いました。
ゴリさんの調べで、都内の病院で働く新川という名前の看護婦は4人。うち2人には完全なアリバイがある。もう1人は休暇で旅行中。となると該当しそうなのは新川雪江(上村香子)ただ1人。早速山さんとゴリさんは雪江が働く石丸外科病院へ行きました。2人は院長(増田順司)に雪江を紹介してもらいました。早速山さんとゴリさんは雪江から話を聞きました。雪江は金子のことは知らないと言い張りました。さらに交通事故の急患で9時半まで手術があったことと病院を出たのが10時になったことを話しました。山さんは雪江に会ってほしい人がいるので七曲署まで来てほしいと言いました。
七曲署の取調室で雪江と安田の面通しが行われました。安田は雪江を見るなり、昨日見かけたのはこの人だ、と証言しました。山さんは金子の部屋へなぜ行ったのかと尋ねましたが、雪江はずっと自分のアパートにいたと言い張りました。
とりあえず雪江は帰されましたが、山さん達はしばらく雪江を張り込んで様子を見ることにしました。ゴリさんの調べで雪江の経歴がわかりました。6年前に新潟市内の看護学校を卒業。市内の病院に就職。1年後に結婚。やがて上京するが離婚。都内で再就職。しかし、金子に握られた秘密はまだわかりません。そんなことを話しているうちに雪江がアパートを出ました。雪江は京王のバスに乗り、京王線に乗って八幡山駅で下車。ちなみに乗る前に映った電車は6000系ですが、降りた電車は今は亡き5000系です。そして向かった先は障害者の施設。そこには雪江の息子が預けられていたのです。山さんは見ました。雪江が息子に足のリハビリ訓練をさせているところを。
雪江は息子を2年前にこの施設に預け、休みの日には必ず会いに来ていました。雪江は息子のこういちを一生懸命励ましました。こういちは支えなしで雪江のところまで歩くことができるようになったのです。その愛情あふれる様子を見て山さんはゴリさんに言いました。
山さん「あの人が、あの女性が刃物で人を刺すかな。」
ゴリさんは、それならなぜ雪江が嘘をついたのか、と反論しました。するとそこへ、雪江とこういちのところに老婆(吉川満子)がやってくるのが見えました。老婆はこういちによく頑張ったねえと言い、雪江とも親しそうでした。それを見ていたゴリさんは、どこかで見た顔だなあと言いました。それもそのはず。老婆は雪江が働く石丸外科病院の食堂の賄い婦で名前は黒木はつ。山さんはそのことを覚えていました。そしてはつのことを不審に思いました。
石丸外科病院で山さんははつのことを調べました。履歴書によればはつは明治44年10月6日生まれ。本籍地は「岡山県倉敷市岡本町4-6-3」で現住所は「東京都新宿区矢追町12-4-6」。いずれも架空の地名です。半年前から働いていました。息子は立派な役人だったのですが、はつは息子の世話になるのをあまり望んでいない様子。病院に来る前は老人ホームにいました。そこで山さんははつがいた老人ホームに行き、事務員(九重ひろ子)から話を聞きました。老人ホームを出るにあたって入会金300万円をきちんと返金してもらっていました。しかし、老人ホームを解約した理由はわかりませんでした。
ゴリさんは雪江の貯金を調べました。なんと300万円が口座に入っていたという。その話を聞いた山さんは、その金を支払ったのは黒木はつだろうと見抜きました。ゴリさんは驚きました。山さんははつが老人ホームを出たのは雪江に300万円を支払うためだろうと考えました。そのお金が何のために支払われたのかまではわからないが、金子はその秘密の真相をかぎつけて雪江を脅していた可能性はある。山さんはそう考えました。それを聞いてゴリさんは、雪江が10万円ずつ3回引き出している、といい、その理由がわかったと言いました。それを受けてボスこと藤堂(石原裕次郎)は、その金を金子が受け取っているかを証明するのは難しい、と応じるのでした。
以上の結果を受け、山さんは雪江から話を聞くことにしました。
山さんは黒木はつとはいつからつきあっているのか尋ねました。
雪江「自分のははみたいに思えるんです。」
山さん「ふーん。で、おかあさんは?」
雪江「5年前に死にました。」
しばらく沈黙が続いた後、山さんは言いました。
山さん「その二人目のおかあさんから、あなたは相当なお金をもらっている。」
雪江はピンセットでつかんだメスを落としてしまいました。さらに沈黙が続いた後
山さん「300万円というお金を受け取る代わりに、あなたは何を約束したんですか?」
雪江は振り返って言いました。
雪江「約束だなんて。そんな、そんなもの何も。」
山さん「あなたに不幸なお子さんがいることも私は知っている。」
しばらく沈黙が続いた後、雪江は手術道具をしまいました。
山さん「子供さんの将来のためにもあなたはお金が欲しかった。それはわかります。しかし黒木のおばあちゃんがそのお金を出したのか。なぜあなたはそのお金の中から30万円を金子に支払ったのか。私はそれが知りたいんだ。この辺で正直に話していただけませんか。」
雪江の答えは
雪江「知りません。金子なんて人、あたしは知りません。」
山さん「隠せば隠すほど我々はあなたを追い込むことになるんですがねえ。」
その後で山さんは食堂へ行き、さらに黒木はつを尾行。するとはつは雪江のアパートへ行きました。しかし、様子がおかしいのです。なんと雪江がガス自殺を図っていたことがわかりました。山さんは雪江を入院させました。雪江は一命をとりとめましたが、尋問は無理。駆けつけたテキサスこと三上順(勝野洋)とゴリさんは、これで犯人は雪江に決まり、と言いましたが、山さんの意見は違うようでした。雪江の病室でははつが、なぜ自分に相談してくれなかったんだ、と泣きました。
山さんがボスに、雪江が回復するのは2、3日後だろうと話しているところへ長さんこと野崎太郎(下川辰平)が入ってきました。長さんは新潟から上京してきた金子の両親が金子の死体の確認をするのに立ち会ったのです。それを聞いた山さんはピンと来ました。雪江も新潟出身。山さんは新潟行きを決意しました。
特急ときの車内で山さんは雪江の履歴書を見ていました。昭和24年6月4日生まれ。本籍地は「新潟県長岡市横井町6-12-5」で現住所は「東京都新宿区日之出町6-3」新潟駅に降り立った山さんは雪江が働いていた病院へ行きました。そして院長から重要な話を聞きました。なんと雪江は母を殺した疑いがあったというのです。雪江の母は骨髄腫瘍という当時の医学では治療できない難病にかかっており、苦しんでいました。そして最期の時を迎えた時、雪江は母に一本の注射をしました。安楽死させた疑いがあったのです。雪江は痛み止めの注射だと主張しましたが、彼女の異様な様子から患者が騒ぎ立て、さらに雪江が薬品戸棚の前でじっと毒薬を見ていたという証言まで出る始末。しかし、噂が流れたときはすでに母の遺体は火葬されていたため、安楽死を証明することはできませんでした。金子は新潟の日本海新聞にいてこの事件を取材したことがありました。おそらく黒木はつと雪江との間にもこの事件が陰を落としているに違いない。もしかすると、黒木はつは安楽死を願っているのかもしれない。電話で報告を受けたボスは黒木はつのことを至急調べてみることにしました。
新潟から戻ってきた山さんにボスは驚くべき話をしました。雪江の意識が戻り、あのガス自殺は自分がやったことではないと言ったというのです。山さんは、雪江が金子を殺していないことを悟りました。ボスも同意見でした。雪江の自殺を工作した者は雪江を犯人に仕立て上げようとしたのだろう。つまり、金子殺しの真犯人に違いない。山さんはゴリさんを連れ、雪江のところへ行きました。
山さんは雪江に5年前に金子が書いた記事を見せました。観念した雪江は事件の夜に金子の部屋へ行ったことを認めました。しかし、雪江は3度目の10万円を持っていただけで金子は殺していないと言いました。
山さん「それはわかっている…あんたには憎しみで人を刺し殺すことができない。私はそう思う。」
雪江「刑事さん。」
山さん「しかしそれを実証するためには証拠がいる。協力してくれますね。」
山さんは院長から外出許可を得て雪江を連れ出し、金子の部屋であの日の夜の様子を再現しました。雪江は何も言わずに立ち去ったと証言。
ゴリさん「ちょっと待った。すると病院の手術で遅くなったというのは玄関で言ったのですか?」
ところが雪江は怪訝な顔。雪江はそんなことは言っていなかったのです。さらに
山さん「管理人はどこで顔を出しましたか。」
これにも雪江は怪訝な顔。雪江は部屋では誰にも会っていなかったのです。雪江が管理人と顔を合わせたのは下の階だったのです。
ゴリさんの調べで安田が覚醒剤の売人をしていたことが判明。早速安田のところへ殿下とテキサスが向かいました。青春のテーマが流れる中、逃走する安田をテキサスが追いかけ、安田を逮捕。安田は金子殺しを自白しました。安田は二年前から金子にゆすられていたのです。事件は解決しましたが…
山さん「まだ終わってはいない。残念ながらもう一幕残っているんだ。ボス、安楽死事件の詰めを。」
ボス「頼むよ。」
山さんは雪江を尋問しました。雪江には母親を安楽死させた容疑と黒木はつとの間に安楽死の約束を交わした容疑がある。これを聞いた雪江は失望してこういいました。
雪江「刑事さん。刑事さんもやっぱり、そんな風にしか見てはくれないんですか。あたしが母を殺したと。殺してなんかいません。そりゃ、楽にさせてあげたいと何度思ったか。でもできなかった。あたしにはできなかったんです。」
山さんは雪江が金子に金を払った理由を尋ねました。雪江はこういいました。雪江は何もしていないのに病院を追い出されたのです。そして泣きながらこういいました。
雪江「今の病院でもどこからか噂が流れてあたしを白い目で見る患者さんがいます。真実が何よりも強いなんて嘘です。あたしは噂だけで故郷を追われました。今もその噂が追ってきて私を苦しめるんです。あたしを捕まえて罰を与えようとするんです。お金を払って黙ってもらう以外に一体どんな方法があるって言うんですか?」
山村は今ではそれを証明することができない、さらに300万円が黒木はつから支払われている、と言いました。これに雪江はショックを受けました。
雪江「それじゃあ、あのお金、黒木のおばあちゃんが安楽死を願ってあたしに、そう思ってらっしゃるんですか。」
山さんは黒木はつのレントゲン写真を見せ、はつが胃がんであることを伝えました。これを聞いた雪江は涙を流して泣きました。
雪江を取り調べた後、山さんが黒木はつのアパートへ行くと、はつが倒れていました。布団の中ではつは言いました。
はつ「山村さん、私はどうしてあなたがいらしたか、よくわかっています。私も雪江さんのお母さんの噂は聞きました。安楽死の。でも、それは違うんです。私があの人に300万円あげたのは、ただあの人達のためにお金を役立たせたかったからです。それに、できたら3人一緒に暮らせるアパートでも借りてと思いましてね。ただそれだけなんです。」
これを聞いた山さんはショックを受けました。山さんははつが雪江に出そうとしていた手紙を受け取りました。青春のテーマの変調曲がかかる中、山さんはそれを読みました。
山さん「あなたと暮らしたこの半年、私は本当に幸せでした。でも私のこのお金のことで、あなたが疑われることはつらいから、これでお別れします。それに、今まで黙っていたのですが、私の命は(ここではつの顔を見る)もう長くはありません。息子夫婦の家へ帰って…静かに最期を迎えます。」
はつ「でも気がかりなのは雪江さんのこと。刑事さん、あの人はお母さんを殺してなんかいません。信じてあげてください。あの人には決してそんなことは…」
山さんは言いました。
山さん「わかっています。もう信じていますよ。」
取調室で山さんは雪江に手紙を渡しました。そして言いました。
山さん「私の母親も癌で死にました。私は中学生でした。あのとき、もし私の手に毒薬があったら、私は母を殺していたかもしれません。本当に苦しいのは病人の苦しみをともに分かち合うことだと知ったのはもっとずっと後のことです。」
雪江「刑事さん…」
山さん「しかし、あなたはそれに耐えた。どこへも逃げずに、お母さんと一緒に苦しんだ。それがどんなにつらいことか私は知っている。だのに私はそういうあなたを追い詰め、いっそう苦しめたんだ。ただ300万円という金一つのために。」
雪江の目から涙が流れました。
山さん「何の理由もなく、ただ一緒に暮らしたいから300万円渡す。そういう心のふれあいがこの世にはあるんだと言うことを私は忘れていました。刑事なってこのかた、私は、こんなに恥ずかしい思いをしたことがない。」
そういって、山さんは頭を下げました。
山さん「許してください。」
雪江「いいんです、刑事さん。いいんです。あたし、悲しくて泣いてるんじゃありません。うれしいんです。だって、あたし、はじめて人に信じてもらえたんですもの。はじめて。」
この涙はすばらしいではないですか。雪江はずっと泣き、山さんはずっと頭を下げるのでした。
事件解決後、黒木はつは警察病院に入院しました。雪江とこういちはテキサスと山さんに連れられてはつを見舞いました。テキサスまで家族のような顔をしている、とゴリさん達は廊下でうれしそうな顔。そこへボスもやってきました。七曲署捜査一係の面々が警察病院に集結したことになります。はつは手術を受けることを決意し、雪江も警察病院で働くことが決まりました。ボスは雪江やはつを見ているうちに親近感がわき、まるで自分の家族を見ているようだなあ、と言いました。するとゴリさんや殿下は自分も独身のくせに「未婚のパパですな。」と未だ独身のボスをからかうのでした。
さて話のすじを見てわかるとおり、このドラマのテーマは安楽死事件。殺人事件は安楽死事件の導入に過ぎず、殺人事件の解決もとってつけた形になっています。なぜこうなっているかというと、「太陽にほえろ!」というのは刑事ドラマではなく、刑事の青春を描いたドラマだからです。だからドラマの描き方も事件のトリックを解くことにはあまり主眼がおかれておらず、刑事の心の動きを描くことに主眼が置かれています。だから本来新潟でおきたので管轄外であるはずの安楽死事件を警視庁七曲署の山村刑事が捜査して解決しますし、また事件の解決も証拠を集めるのではなく、刑事が事件関係者の心情を解きほぐして解決する形になっているのです。しかし、この時期の「太陽にほえろ!」が駄作だという印象はあまりありません。それは人間ドラマとして納得のいくものを描いていたからだと思います。今回取り上げた話も新川雪江と山村精一、そして黒木はつの心の動きがよく描かれており、納得のいく流れになっています。唐突に事件が解決するわけではなく、なぜそうなったのか、という理由が明確に描かれています。
私の知っている土門鉄郎さんの書かれた話はこの話とウルトラマンレオのギロ星獣の話だけですが、少なくともこの話は佳作だと思います。さらに余談ですが、この頃の上村香子は昔好きだった人に少し似ています。だから一時期はこの話を見るのがつらかったです。また上村香子は第250話「民芸店の女」にもゲスト出演していますが、このときも山さんと絡む役になっています。







