『Pickup Cinema』

『Pickup Cinema』

新作も思い出の作品も おすすめ映画を紹介!

(C)2026「万事快調」製作委員会

2026年製作/119分/日本 監督、脚本、編集:児山隆 原作:波木 銅出演:南沙良 出口夏希 吉田美月喜 羽村仁 成金子大地ほか  配給:カルチュア・パブリッシャーズ マスコミ試写会で2025年11月20日に鑑賞 劇場公開日:2026年1月16日

ラッパーを夢見ながらも、学校にも家にも居場所を見いだせず、悶々とした日々を過ごす女子高生の朴秀美(南沙良)。

同じクラスの矢口美流紅(出口夏希)は陸上部のエースで美少女。スクールカースト上位に君臨しているのだが、家庭内に深刻な問題を抱えていた。そして漫画家になるのが夢の辛口の岩隈真子(吉田美月喜)。

3人は自分たちの住む町に未来が見えない。そして「鬱々とした毎日からなんとか脱出したい」という考えで意見が一致する。脱出のためには一攫千金を狙うしかない…ということで同好会「オール・グリーンズ」を結成する。

校舎の屋上にほったらかしにされている温室が「オール・グリーンズ」の活動の拠点。そこで3人は不適切な課外活動を始めるのだが・・・。

恋愛や勉強とは無縁の3人。時に危ない目にあったり、小躍りするほど嬉しいことがあったり。そして卒業式は大変なことに!

こんな青春も悪くない。ドキドキしながらも爽快な気分でラストまで鑑賞できる新しい形の青春ドラマ。

大人に成長した3人のそれぞれの姿が、ラストで紹介されるのもさらなる後味の良さにつながった。

 

(C)2025 FOCUS FEATURES LLC.ALL RIGHTS RESERVED

2025年製作/124分/G/イギリス 監督:サイモン・カーティス 出演:ミシェル・ドッカリー、 ヒュー・ボネヴィル、 ローラ・カーマイケルほか 配給:ギャガ 劇場公開日:2026年1月16日 ★マスコミ試写会で2025年12月15日に鑑賞

20世紀初頭のイギリスを舞台に、壮麗な大邸宅・ダウントン・アビーに暮らす貴族クローリー家の人々と、その使用人たちの人間模様を描いたTVドラマシリーズ『ダウントン・アビー』の映画3作目にして完結編。

 

1930年夏、社交界の頂点“ロンドン・シーズン”が幕を開け、クローリー家の人々と使用人たちは胸を弾ませていた。

しかし、長女メアリー(ミシェル・ドッカリー)の離婚が報じられると、世間は大騒ぎに。この時代、上流階級での離婚は不名誉なスキャンダルとされ、メアリーは舞踏会や晩餐会から追放される。

そんな中、メアリーの母コーラ(エリザベス・マクガヴァン)の弟ハロルド(ポール・ジアマッティ)が、友人で投資アドバイザーのガス・サムブルック(アレッサンドロ・ニヴォラ)を連れてアメリカからやってくる。

ハロルドは、亡き母から継いだ遺産の大半を投資で失っていた。これで屋敷の改修費も消え、ダウントン・アビーは財政破綻の危機に陥る。父ロバート(ヒュー・ボネヴィル)からメアリーへの当主継承にも暗雲がたちこめる。孤立感と財務問題に悩むメアリーは口の上手いガスと一夜を共にしてしまう。しかし、その後、ガスが信頼できない人物だということが判明しショックを受ける。

クローリー家の名誉とメアリーの社会的立場をなんとか取り戻したいダウントン・アビーの人々。時代が大きく変わろうとするなか、さまざまな人の思惑が交錯していく。時に厳しく、シニカルに、時にユーモアを交えながら華麗な時代の終わりと新しい価値観の創造へと知恵と勇気をもって進む人々。壮大な歴史ドラマが展開していく。

この作品はゴールデン・グローブ賞、エミー賞ほか数多くの賞に輝いたTVシリーズをより深く、より豪華に描いた映画3部作の最終章。

絢爛豪華な衣装や美術。特に競馬場のシーンの上流階級のコスチュームはうっとり見とれるほどだ。さまざまな立場の多くの人が複雑に関わりながら新時代を構築していくストーリーはまさに集大成にふさわしい。

広間に一人で立つメアリーが、思い出に浸るラスト。私たち観客も15年にわたるドラマの名シーンへの感慨にふけると共に、時代の変化に柔軟にポジティブに対応していくことの大切さをメアリーと共に噛みしめることとなる。

 

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2025年製作/197分/アメリカ 監督・製作・脚本:ジェームズ・キャメロン

出演:サム・ワーシントン, ゾーイ・サルダナ, シガーニー・ウィーバー, ウーナ・チャップリンほか 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 劇場公開日 2025年12月19日 ★完成披露試写会で12月11日鑑賞

近未来の地球は滅亡の危機に瀕していた。人類は豊かな資源が眠る惑星パンドラへの侵略を開始する。

息をのむように美しいパンドラ。その豊かな資源を狙う人間の一人として、この地に降り立った元海兵隊員のジェイク・サリーは、先住民族ナヴィの族長の娘・ネイティリと恋に落ち、人間の体を捨てて彼らと共に生きる道を選ぶ。

ネイティリと共に神聖な森に住み、家庭を築いたジェイクだったが、人間との激しい闘いの中で長男を失い、失意のなか海の民メトカイナ族の元に身をひそめていた。

しかし人間の子・スパイダーをキャンプへ送り届けるために旅に出たジェイクたちを、今度はアッシュ族が攻撃する。アッシュ族を率いるヴァランは同じナヴィでありながらパンドラの神「エイワ」を憎んでいた。

時を同じくして人間もパンドラ侵略のための新たな計画を立てていた。一刻も早くパンドラの資源を地球に持ち帰りたかったからだ。

ジェイクへの復讐に燃える元海兵隊の大佐・クオリッチとヴァランが手を組み、海と空を舞台に熾烈な闘いを仕掛けてくる。自然と家族を愛するナヴィや神秘的な生き物たちまでもが激しい闘いに巻き込まれ、次々と傷ついていく。

ジェームズ・キャメロン監督によるSF超大作「アバター」シリーズの第3作。圧倒的なスケール感、3D映像美が観客をパンドラの世界へと誘う。我欲にまみれ容赦ない方法で侵略を勧めようとする人間たち。自然を尊び、自然と共に生きるナヴィ。二者を対照的に徹底的に描き、そこにそれぞれの想いが交錯する。スケールも音楽もアクションもストーリー展開も素晴らしい。娯楽大作と呼ぶにふさわしい作品だと思った。

 

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C)2025映画「ラストマン」製作委員会

2025年製作/日本 監督:平野俊一  出演:福山雅治 大泉洋 永瀬廉 今田美桜 木村多江 吉田羊 上川隆也 宮沢りえほか 配給:松竹 劇場公開日:2025年12月24日★マスコミ試写会で11月26日に鑑賞

 

全盲のFBI捜査官・皆実広見(福山雅治)は、どんな事件も最終的に解決するが故「ラストマン」の異名をもつ。孤高の刑事・護道心太朗(大泉洋)と最強のバディを組み、日本でも数々の難事件を解決してきた。本作はテレビドラマ「ラストマン 全盲の捜査官」(2923年)の続編となる映画版。

あのラストマン・皆実広見が再び日本にやってきた。早速、皆実に呼ばれた心太朗は、ある事件のため共に北海道へと向かう。そこで出会ったのは、皆実の初恋の人であるナギサ・イワノワ(宮沢りえ)と娘のニナだった。

天才エンジニアとして世界的に知られるナギサは、謎の組織に追われており、アメリカへの亡命を希望していた。皆実と心太朗は、護道泉(永瀬廉)やFBIから新たに派遣されたクライド・ユン(ロウン)、CIA、北海道警の合同チームと共に事件に挑むが、内通者によって情報が漏れ襲撃を受けてしまう

札幌や函館など雪景色の美しい冬の北海道を舞台に、激しい銃撃戦やカーチェイスなど映画ならではのアクションが繰り広げられ、やがて戦いの場は船上へ。

アメリカの大学のキャンパスで知り合い、恋に落ちたナギサと皆実。二人で過ごした学生時代を懐かしみながら遠くを見つめる皆実の心に、甘く切ない初恋の日々が去来する。

果たして皆実と心太朗は、ナギサたちを無事に救い出すことができるのだろうか。

テレビドラマのファンはもちろん、初めての人にとっても楽しめる作品。

 

(C)2024 CINE NOMINE - M6 FILMS - AUVERGNE-RHÔNE-ALPES CINEMA - SAME PLAYER - KABO FILMS - ECHO STUDIO - BNP PARIBAS PICTURES - IMPACT FILM

2024年製作/フランス 監督・脚本:アルテュス 出演:アルテュス クロヴィス・コルニアック アリス・ベライディ マルク・リゾ セリーヌ・グルサール アルノー・トゥパンスマリ・コランほか 配給:東和ピクチャーズ 劇場公開日:2025年12月26日★マスコミ試写会で11月10日鑑賞

 

宝石店に泥棒に入ったパウロ(アルテュス)と、その父親(クロヴィス・コルニアック)。逃げる途中、車をレッカー移動されてしまい路上で立ち往生してしまう。

そんな時、ちょうどサマーキャンプに出発しようとしていた障がい者施設の職員に新たな入所者と間違われ、バスへと誘導される。二人は障がい者と介護者になりすまし、一緒にサマーキャンプに出掛けることになった。

大自然の中でのサマーキャンプ。個性豊かな若者たちとの生活は驚かされることも多いが、笑顔が絶えないにぎやかな日々。さまざまなアクシデントを経験するうちに、泥棒親子の心は少しずつ変化していく。

しかし、ゆかいな生活にも終わりの時がやってくる。泥棒親子の運命はどうなるのか?そしてパウロが見つけた本当の宝物とは・・・

監督・脚本・パウロ役を務めたのはフランスの人気コメディアンで俳優・作家のアルテュス。サマーキャンプの個性豊かな仲間たちには、実際に障がいを持つ11人のアマチュア俳優が起用された。

人は誰も、出会いによって変わることができる。何時からでも人生はやり直すことができる。

この作品を観てスペイン映画の「だれもが愛しいチャンピオン」を思い出した。ヨーロッパでは、障がいのある人々に健常者が生き方を教えられるような作品が時々つくられていて、物語の豊かさや奥深さ、自然体の演技に感動させられることがある。

この作品も誰もがほっこりと、幸せな気持ちで劇場を後にできるような秀作だと思う。

 

(C)2025 映画「楓」製作委員会

2025年製作/120分/G/日本 監督:行定勲 出演:福士蒼汰、福原遥、宮沢氷魚、石井杏奈、宮近海斗、大塚寧々、加藤雅也ほか 配給:東映、アスミック・エース 公開日:2025年12月19日金 ★マスコミ試写会で11月15日鑑賞

 

須永恵(福士蒼汰)と木下亜子(福原遥)は、学生時代からの恋人同士。趣味の天文の本や天体望遠鏡に囲まれ、幸せそうに暮らしている。

しかし朝、出勤する亜子を見送ると、恵は眼鏡を外し、髪を崩し、着替える。実は、彼は双子の弟のフリをした、兄・須永涼(福士蒼汰 二役)だった。

1ヶ月前、恵と亜子はニュージーランドのデカポ湖に南十字星を見る旅に出て、事故に遭った。恵は亡くなり、亜子も目に障害を負う。

事故後、自宅を訪ねてきた涼を亜子は恵だと思い込んでしまう。涼は亜子を悲しませたくなくて、本当のことを言い出せず、その時から弟のフリをすることにしたのだ。

幼馴染で亡き恵と一緒に事務所を経営していた梶野(宮沢氷魚)だけが、真実を知り二人を見守っていたが、涼の後輩や亜子の行きつけの店の店長は、次第に違和感を覚えるようになる。

嘘を心の奥に秘めながら、かりそめの生活を送る涼は、徐々に明るく素直な亜子に惹かれていく。そんな亜子にもまた、打ち明けられない秘密があった。

大切な人との突然の別れ、珠玉のような切ない思い出、嘘からはじまり走り出す変化、互いに言い出せないもどかしさ…などが美しい大自然や星空を背景に描かれていく。過去から現在、そして未来へと続く二人の運命とはー。

「楓」の花言葉は「大切な思い出」。スピッツの名曲「楓」にのせて紡がれる切なくもピュアな愛の物語で、思いがけない展開が待ち受けている。

明るさの中に時折見せる寂しさや悲しみを亜子役の福原遥が自然体で熱演。見た目はそっくりなのに性格や趣味が異なる双子役の福士蒼汰は、微妙に変化していく心情を丁寧に演じ、魅力的だった。

 

(C)2025「栄光のバックホーム」製作委員会

2025年製作/日本 監督:秋山純 出演:松谷鷹也 鈴木京香 高橋克典 柄本明 萩原聖人 上地雄輔 古田新太 加藤雅也 小澤征悦 佐藤浩市 大森南朋ほか 配給:ギャガ 劇場公開日:2025年11月28日 マスコミ試写会で11月10日鑑賞

幼いころから野球が大好きだった横田慎太郎(松谷鷹也)。その傍らには、いつも母(鈴木京香)の姿があった。

甲子園大会に出場することはできなかったが、その野球センスをスカウト(萩原聖人)に見いだされた慎太郎は、18歳の時にドラフト会議で阪神タイガースに 2位指名される。

背番号 24を背負った慎太郎は、持ち前の負けん気と、誰からも愛される人間性で厳しいプロの世界でも立派に成長を遂げていく。

2016年の開幕戦では一軍のスタメンに抜てきされ、初ヒットを記録するなど、誰もがその将来に期待を寄せていた。

順風満帆な野球人生を歩むと思われていた慎太郎だったが、21歳の春、ボールが二重に見えるという異変が起きる。検査の結果、医師の診断は脳腫瘍という過酷なものだった。

その日から、病との闘いの日々が始まるが、彼は孤独ではなかった。家族、恩師やチームメイトら、慎太郎を愛する人々の懸命な支えが彼の心を奮い立たせたのだ。手術を受け、トレーナー(上地祐輔)とともにリハビリに努めたのだが、目は元に戻らなかった。

2019年9月26日、慎太郎は引退試合の日を迎える。

そこで彼が魅せたラストプレーは“奇跡のバックホーム”と呼ばれ、野球ファンのみならず多くの人々の心に感動を呼んだ。

しかし、奇跡のドラマはそこで終わりではなかった。

2023年7月に28歳で生涯を終えるまで、横田慎太郎選手が歩んだ野球人生を、強く優しい母の視点から描いたヒューマンドラマ。

監督をはじめ、当時の阪神球団の関係者が実名で登場し、それぞれ実力派俳優が演じているのも見どころのひとつ。

主人公の慎太郎を演じるのは元高校球児の新人俳優・松谷鷹也。講演会で慎太郎と出会い、亡くなる直前の慎太郎の元へ毎日通い、本人から譲り受けたグラブで“奇跡のバックホーム”を再現した。

主題歌は現役時代の登場曲だった、ゆずの「栄光の架橋」。2023年 9月、阪神がリーグ優勝した甲子園球場では 4万人の観客が慎太郎に向けて大合唱した。

「明けない夜はない」「奇跡ではなく、努力なんだ」「決して諦めない」「もう駄目だと思っても小さな目標を立てて、毎日それを達成していく」。映画のなかにちりばめられた言葉に、きっと誰もが前向きに生きる勇気をもらうことだろう。

 

 

         

 (C)2025「金髪」製作委員会

2025年製作/103分/G/日本 監督:坂下雄一郎 出演:岩田剛典 白鳥玉季 門脇麦 山田真歩 田村健太郎 内田慈ほか 配給:クロックワークス 劇場公開日:2025年11月21日 マスコミ試写会で10月1日鑑賞

ある日、中学校教諭の市川(岩田剛典)の人生を大きく変えるような出来事が同時に二つ起こった。

一つは、担任するクラスの生徒全員が、金髪で登校したこと。もう一つは、恋人の赤坂(門脇麦)から結婚話を切り出されたこと。

金髪デモは、髪色のことで注意を受けた一人の女生徒が不登校になったことで、校則を見直してほしいという抗議だった。

女子も男子も金髪。学校は大騒ぎになり、職員の対策会議で意見を求められるも、市川はのらりくらりと適当な返事をするばかり。

さらに金髪デモの発起人・板緑(白鳥玉季)からは「なぜ髪を染めてはいけないのか」と逆に問われ、「校則だから」としか答えることができない有様。

この騒動は、ネットニュースで取り上げられ、SNSで拡散され、教育委員会や文科省まで巻き込むことに。しかし、事情聴取されても、やはり適当なことしか答えられない市川。愚痴をこぼした赤坂(門脇麦)には「大人になりきれていない」と説教され、疎遠になってしまう。

この窮地を脱するために市川は、板緑と手を組みある作戦を実行することに…。

果たして日本中が注目する金髪デモは収束するのか。そして市川と赤坂の関係は修復できるのか?

日本独自の変な校則、学校というブラックな職場環境、拡散され暴走するSNS やネットニュースなど現代社会が抱える諸問題を背景に、金髪デモがきっかけとなり、一人の無責任な教師が、徐々に成長していく姿をコメディタッチでシニカルに描いた物語。

 

(c)2025「ナイトフラワー」製作委員会

2025年製作/124分/PG12/日本 監督・原案・脚本:内田英治 出演:北川景子 森田望智 佐久間大介 渋谷龍太 渋川清彦、田中麗奈、池内博之、光石研ほか 配給:松竹 マスコミ試写会で10月28日鑑賞 劇場公開日 2025年11月28日

失踪した夫が残した借金に追われ、二人の子を連れ大阪から東京へと逃げてきた永島夏希(北川景子)。昼は工場で、夜はスナックで、と昼夜を問わず必死で働いているが、生活は一向に楽にならず、食べるものにも困窮している。

小学生の娘にはバイオリンの才能があることを知り、伸ばしてやりたいと思うが日々の生活すら厳しい状態では叶わない。一方、息子は保育園で問題を起こし、夏希を悩ませている。

ある日の深夜、仕事からの帰路、夏希はドラッグの密売現場に遭遇する。次々と金にまつわる難題が降り注ぎ、苦しんでいた夏希は、手っ取り早く稼げる違法ドラッグの売人になろうとする。しかし、そこは恐ろしい闇世界。簡単に素人が手を出せる訳はなく、組織ににらまれた夏希は、道端で殴られる。

そこに助けに入ったのは、格闘技に命をかける・芳井多摩恵(森田望智)だった。多摩恵は、子どもたちのために必死で生きている夏希のボディガード役を買って出て、違法ドラッグの密売組織のアジトへ連れていく。多摩恵とタッグを組んだ夏希は、愛する子どもたちの為に密売人となり次第に危険な取引に手を染めていく。

犯罪で手にした金で、多摩恵や子どもたちと一緒に食卓を囲み、娘のために中古品のバイオリンも買う夏希。しばらくは落ち着いた生活が続くかと思われた。

しかし、ある女子大生の死をきっかけに二人を囲む状況が大きく変わり始めて・・・。

北川景子が初めて挑む汚れ役。借金があるため、いくら働いても報われないシングルマザー。子どものことで一喜一憂し、疲れて子どもを怒鳴りつけるが、次の瞬間、強く抱きしめて謝る。子どものために犯罪に手を染めていく母親役をほとんどノーメイク、全編大阪弁で演じた。

幼いころに母親に捨てられたという辛い過去を背負う格闘家を演じた森田望智は、役作りのために7kg増量し、プロも絶賛する格闘シーンを披露している。

周囲を固める俳優たちの演技も説得力があり、サスペンスの要素も色濃い同作品では、最後までハラハラさせられた。「あの人はどうなったのか」「これからどうなるのか」などいくつもの謎が残るが、そこは観客が想像力で物語の続きを紡いでいくものだと思う。

監督は『ミッドナイトスワン』の内田英治氏。違法ドラッグの密売という闇の世界を描きながらも、そこに生きる若者たちにとっての「母親の存在とは?」と問いかけている。

 

(C)2025「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

2025年製作/127分/G/日本 脚本・監督:中野量太 出演:柴咲コウ オダギリジョー 満島ひかり 青山姫乃 味元耀大ほか 原作:「兄の終い」村井理子(CEメディアハウス刊)配給:カルチュア・パブリッシャーズ 劇場公開日 2025年11月28日 ★マスコミ試写会で10月5日鑑賞

エッセイストの理子(柴咲コウ)は、家族とともに滋賀で暮らしている。ある晩、遠く離れた東北の町の警察から電話がかかってきた。それは長年、会っていない兄(オダギリジョー)が突然死をしたという知らせだった。

訃報を受け、家族は一刻も早く亡き兄の元へ行くよう勧めるが、仕事を優先する理子が東北に向かったのは数日後だった。

役所で理子を待っていたのは、7年ぶりに会う兄の元妻の加奈子(満島ひかり)と、その娘・満里奈(青山姫乃)。兄の遺体を発見したのは一緒に暮らしていた小学生の息子・良一(味元耀大)で、父親の死後、施設に預けられていた。

マイペースで自分勝手な兄に、幼いころから理子は振り回されてきた。ごく最近まで兄から金を無心されていたため、良い印象はなく「早く持ち運べるサイズにしてしまおう」と平服でお葬式を済ませた。その後、ゴミ屋敷と化したアパートの片づけを加奈子たちと始めるが、そこで3人は壁に貼られた何枚もの家族写真を見つける。

周囲に迷惑ばかりかけていた兄だったが、心の奥底で家族のことをどう思っていたのか。

3人は、自分たちの知らない兄の姿を互いの思い出の中から探っていく。そして理子にとっては思いもよらなかった兄の真の姿が浮かび上がってきた。

時にコミカルに、時に胸を熱くさせるエピソードを織り込みながら、家族とは、兄妹とは、夫婦とは、親子とは…を深く考えさせられる物語。

不器用なダメ男を演じたオダギリジョーの言葉や所作からは、深い優しさが醸し出され、心に染み入る。息子の良一と再会し、母親として次第に成長していく加奈子役の満島ひかりの自然な演技も素晴らしかった。そして揺れ動きながらも微妙に変化していく心情を見事に演じた柴咲コウ。

派手な場面はないのだが、画面に見入ってしまう上手い演出。スピリチュアルな要素も盛り込まれ、観終わって家族について今一度、考えさせられる人も多いのでは。