夕方 正一が正夫に言った。
「父さん やっぱり昨日言ってた、正木家に伝わる話っていうの、聞いとこうかなー」
それを聞いて正夫は嬉しそうに言った。
「よし! それでこそ正木家の後取りだ! ちょっと長い話だがいいか!」
正一は黙ってうなずいた。
「これは父さんが子供の時に正春じいさんから聞いた話だ、正春じいさんはそのまたじいさんから聞いた話だと言ってた。 昔からうちは農業一筋だったんだ。 そのじいさんは正吉、おばあさんはお正、息子は吉正って言ってたそうだ」
「へー 昔からみんな正しいが付いてたんだね」
「まーそううだな!山奥に段々畑があって、そこには隣り合った2軒の農家があった。うちの先祖の正吉とその隣には勝吉ってじいさんが住んでた、この勝吉は何かと正吉と張り合っては勝って喜ぶという、生来の負けず嫌いのじいさんだったらしい」
「ふーん クラスにもそんな奴いるよ!おれなんか勉強も出来ないのに、何でか知らないけど張りあって来るんだ、おれってカッコイイとこあるのかなー」
「そりゃそーだ、おれに似てるからな、カッコイイに決まってる!それじゃ話を続けるぞ!そして ある日だ、かわいい子犬が正吉の家に迷い込んできたらしいんだ。 それはかしこい子犬で家族はポチと名をけて、みんなでかわいがってたそうだ。それをみた、隣の勝吉は負けじとばかりに、自分も町に行って野良犬を見つけて連れて帰った。
だが犬の好きでない勝吉は名前も付けてやらず、エサもやらなかったらしい 気が付くとその名無しの犬とポチとがいつも一緒に正吉の家でエサを食べるようになってたそうだ。 そんなある日だ、お正ばあさんが川で洗濯をしている時に誤って川へ落っこちたのをこのイヌのポチが助けるという事件があった。そしてこの噂は町まで流れていって、そして町一番の金持ちの庄屋の耳に入ったんだな、それで、このかしこいポチを売って欲しいと頼んだんだ、ところがだ正吉は絶対にうらなかった。 その事がまたお金に目がくらまなかったと、正吉の評判が上がったんだなー」
横で聞いていた正子が口をはさんだ。
「昔の農家は貧乏でお金がないのに、そんないい話、断るなんて不自然よ!嘘っぽいわね! 正一この話は長いから先にご飯にしましょ、朝が来てしまうわ!」
「うん 父さんこの話おもしろいの?」
「ああっ おもしろいに決まってる! 後でな!」 つづく