おもろいヤクザ屋さん ②の2  

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 墓場のど真ん中、

案の定奴のビビッテいる様子が月明かりのなかでもよく分かった。

 小刻みに震えているのは春の夜の寒さのせいだけでもなかろう。

 「それで何の用なんや。」

 私は自分の声が震えているのを奴に悟られないようにゆっくりと一言、

ひとこと言葉を選んで喋る。
 「アンタなぁ・・

 うちの若い衆を痛めつけてくれたやろう・・・」

 明らかに奴の声が震えているのがわかる。
 これで私も少々落ち着いてきた。

 「アンタの所の若い衆と言うてもSは堅気やないか

ワシとSとのただの喧嘩や、

それがどないや云うねんあんたがどうのこうの言う筋合いもないやろう。」

 「うちの従業員やないか、

そやからうちの若い衆と言うとるんや。」
 やはり奴の声は上ずっている。

 「ワシはSがあんたの所に勤める前からあいつとは付き合いがあるんや、

ワシも結構あいつを可愛がっとったんや、
それをあいつはワシの店のおんなの娘を引き抜こうとしやがった、

そやから喧嘩になっただけの事や。
 あいつが警察に傷害やと言うて訴えて、

警察がワシんとこへ来るんなら話は分かるがあんたが何ででて来ないかんのや。」
 震えがとまって結構舌が廻りだした。

 もともと私は口が良く回る、

こうなったらこっちのペースだ。
 「それにな、あいつはアンタが、

 『新しい店を出すからおんなの娘を引き抜いて来い。』

と言ったとなワシに云うたんや、

それもうちの娘を引き抜いて来いとな!」

 これは私の作り話だSは、

 「何処かで」

と言ったのを私がわざと、

 「うちの娘」

と言い替えた、

というのもこのトッパとは直接の付き合いはないが間接的には繋がりもあったからだ。

 「ワシは何もあんたの店からとは言うてない、

そこまで言うわけがないやろ。

 それはエエとしてもこのままではワシの立場が立たんのや、

オマはんナ!

Sをドツイた時に、

 『とッパがなんぼのモンジャ、

いつでも来いと云うとけ!』

と言うたやろう。

 ワシも極道をやっとるんや、

そこまでコケにされてこのままほうっておいたらワシの格好がつかんのや。」
 いつのまにか私を呼ぶのに

“あんた”から

“オマはん”に変わっている、

奴も少し落ち着いてきやがった。
 「オウ、云うたがな、

それでどうせい云うんや、

ワシがSに謝れいうんかい?

 あいつがうちの娘を引き抜こうとしたんは悪かったと言うて謝ったら、

ワシもケガをさせてすまなんだぐらいはいうがな。」

 「・・・」

 「・・・」

 しばらくは双方とも無言が続いた。
 「ワシな、

今日はオマはんがどうしても、

 『謝らん』と言うたら、

 刺し違えるつもりできたんや。」

 おう、オウ。

 大時代的な台詞を言う。
 それも腹巻の中からドスの柄をわざわざ私に見せながら・・・

 ヤクザ映画の見すぎじゃ、

菅原文太にでもなったつもりか。
 「極道が、

 “アイツがナンボのもんじゃ”

とシロウトに言われて引っ込まれへんがな、

それぐらいの事はオマはんも分かってくれるやろ。」

 「ワシの顔をたててSに謝ってくれんやろうか?

あいつも母親と二人暮らしなんや・・・

ケガをして仕事を休んどるとなると生活も困る、

それに奴を母親から預かっとる手前、

親方のワシがなんとかしてやらないかんやろ?」

 「・・・」

 「オマはんの誠意をみせてやって欲しいんや。」

 ここまでトッパは言うと、

 「フー~」

っと小さなため息をつく。

 要するに治療代と慰謝料を出せと言う訳だ。

 「それでSは仕事を休んどるんかいな。」

 「あぁ、入院しとる。」

 私もそこまでやった覚えはないのだが。

 「それで医者代を出せと言うんか?」

 「まぁそうやな、出したってくれたら・・・」

 「それで、ナンボ出せ言うんや?」

 「それは・・・オマはんの気持ちだけでエエがな。」

 当時、

広域暴力団が指定されるなどして暴対法が強化されていた時で、

ここで暴力団員の奴が金額を云えば、

“恐喝”になる。

 「そやから幾らくらい出せ言うんや?」

 「・・・」

 「Sが先に謝ったらワシも謝るし、

医者代くらいは・・・」

奴も絶対に金額は云わない。

 「まぁ、ここでナンボ話しをしても埒がアカン・・・

 明日、ワシの事務所にでも来てくれるか?」

 「何時や?」

 「そやな午後からなら事務所におるから・・・」

 「分かった・・・

そんなら家まで送ってもらえまっか?」

 「あぁそりゃあ送るで」

 家へ帰り冷えた体を風呂で温め晩酌をしながら少々思案・・・
 あくる日10時頃に目が醒めて真っ先にSの友達のAに電話をする。

 「おゥワシやけどな・・・

Sをこの前ちょっとドツイたんやが今どうしてる?

 仕事を休んどるんか?」

 「あぁその話は聞いてますけど、

Sは昨日も仕事にいってましたよ、

顔は腫らせとったけど。」

 糞ったれがあのヤー公・・・

 ワシを型に嵌めやがった。

 いや・・マダ嵌っていない。
 1時頃になってF重機、

トッパの事務所に行く。

 奴はいた、

がだけでない。

人目でそれと分かる、

怖そ~なヒトタチ・・・

あァ怖い!

 それも三人も。

 「あぁマスター!

よう来てくれたな!」

 夕べと一転して完璧なヤクザ屋さん、

声も態度も違う。

 まァこいつらはこんなもんだ、

カンバンと周りにオトモダチがいるととにかく強い、

そして怖い!

 「それで、社長。

 ナンボ包んだらいいんや?」

 「いや、イヤ。

マスターの気持ちだけでエエんや。

 スマンナ気い使わせて。」

 ニコニコしながらも絶対に金額は云わない。

 「ハイ、分かりました。」
 私は懐から、

表面にお詫び、

裏に私の名を書いた封筒を取り出し財布から金を抜いて入れる、

それをヤクザ屋の社長さんに渡す。
 当然封はしていない。

 「これでよろしいな?」

 受け取った社長はニコニコとしながら、

 「スマンなマスター。」

 ハイお終い。
 後日、

 Sの友達のAが、

 「マスター、

Sがようけマスターから医者代を貰うたと喜んどったで。」

 「幾ら入っとったと云うとった?」
 「10万円」

 「ふ~ん、ワシが入れたんは千円だけや。

 トッパもええとこあるやないか。」
 ヤクザ屋さんも辛い稼業だ・・・

 チャンチャン


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