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 夕べは少し眠れた、といっても二時間くらいだろうか。今、母や家内はどうしているのだろうか、と考えると眠れるはずもないが、うとうととして気がつくと夜明けだった。
 刑事に聞いたのだが、母は火事の最中、皆が止めるのも聞かずにバケツで水をかけていたらしく火事のあとの病院での診察ではケガなしとの診断が、あくる日に水ぶくれが出来て入院しているらしい。

 家内も怒っているだろう、住むところはなんとかあるが生活の為のものは全て失くしてしまった。子供達も怒っているだろう、自分の達の想いでのつまった生まれた家を失くされててしまったのだから・・・
 前日のように「ウワー!」と喚きたいような衝動はおこらなかったが後悔ばかりで頭の中はグチャグチャだった。死ななければ・・・死ななければ・・・一人でいると考えることはこればかり。
 今日は日曜なので調べはないかもしれない。
 ここの住人で社署の事件で留置されているのは七名のうち五名だ、私は西脇署、七十五番は加西署からの預かりだ。ここの署の刑事が担当の場合、調べがなくても連れ出してタバコを吸わせてくれることもあるらしい。
 同房の七番が呼ばれて喜んででていった、彼はもう取り調べはすべてすんで和解か公判か待つだけだった。
 十時半頃に機嫌よく帰ってきた。ここに居るとタバコだけが楽しみなのだ。
 十一時頃担当さんが、「八番さん、調べです」
 昨日土曜日なのに取り調べがあった、が今日あるとは思ってもみなかった。
 留置場を出ると、待っていたのは坂井刑事とはじめての若い刑事だった。
 「お世話になります。」
 「はい、そんなら行こうか」
 同じ階にある刑事部屋に入り、
 「おじゃまします!」と、大きな声で挨拶をした。
 「親父、気をつこうてくれとるんやな。」
 と調べ室に入りながら刑事が云った。
 「親父さん、留置場の中でもおとなしゅうしといてな、うちの署からここの署に預かって貰ってるんやから。」
 「何云うてるんや、わしここで風紀委員に任命されとるのに。」
 「え!ここの署そんなんあるんか?」
 「冗談にきまっとるがな。それでも夕べはわりとましやったけど一昨日まで夜になると眠れず『ワァー』と喚きたいような衝動にかられます、酒が切れたせいかもしれませんが。」
 「良う辛抱してくれたな、頼むでオヤッさん面倒起こさんとってな。事件のあとも署に連れて行った後あばれてどうしようもなかったんやで、『逃げもかくれもせんわ』と言いながら若い当直のおまわりさんに手をだしとんのやで、よう酔うとったけど後はおとなしかったからから無いことにしたけれど。」
 「火事の折、喉が痛うて店の下の玄関口に置いてあった焼酎でうがいをして、あとラッパ飲みをして『逃げも隠れもせんわい』と言ったのはおぼえていますが正気になったのは、署で取り調べを受けている最中で午前二時頃やったとおぼえています。えらい迷惑をかけました。」
 「まあ後は素直にしてくれとるからな」
 「そやけど、刑事さん昨日も今日も休みなしですな」
 「おやっさんがタバコを吸いたいやろうと思うてわざわざ来とるんやで、何やったら帰ろうか? よその署やから調べに二人で来な、いかんねん。この若い人は交番勤務で今日は非番やのに無理言うてついて来てもうとるんやで。」
 と云いながら、看守から預かってきたタバコをだし火を点けてくれた。
 「今日は昼まで時間がないし一服しながらボチボチでええで、昼からは昨日の供述を文書にするわ。」
 一旦、留置場に帰って昼食を摂り午後から再び取り調べに入った。
 「オヤッさんが昨日供述してくれたのを打って文書にしていきます、わからないところがあったら聞くんで好きな時に一服してくれたらええんやけど、その間に焼けた自宅部分の見取り図と灯油を置いてあった場所、店の位置関係などを描いて欲しいんや。」
 私が数枚の見取り図を描く間、坂井刑事はキーボードを打ち続けた。
 この日は結構長時間にわたったが私はヒマでかなりの本数のタバコを吸ってしまった。
 と云っても四、五本だから事件前より結構肺はきれいになっているだろう。
 そうこうしているうちに供述調書が出来上がったようだ。
 「それじゃオヤッサン、昨日からの供述を読み上げるから聞いといてな。」
 と云いプリントアウトした調書を読み上げ、
 「全部読んで間違っているところがなければ、署名と指印を押して下さい。」

                 

 沢山の方にアクセスを頂き有難う御座います。明日から「面会」になります、宜しくお願いいたします。



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