届かぬ想い
作/大槻裕貴

「おい、武内」と国語教師が桃子を注意した。
「あ…、すいません」
 席が窓際である桃子は、またぼんやりと外のグラウンドの方を眺めていたからだ。
 桃子はとくに国語や授業が嫌いなのではない。ただ、それよりももっと強く関心を引くものがあるだけであった。それをどうしてもグラウンドの景色の方に探してしまうのである。
 桃子は学園で明らかに際立って目立つ娘であった。それは容姿が美しいというだけでは説明のいかない、特有の個性を、彼女が持ち合わせていたからだ。
 よって非常に多くの男子生徒の関心を引いたが、桃子に近づこうとする者は少ない。大抵の場合、近寄り難いからである。しかし極めて稀ではあるが、そんな男子もやはりいた。
 しかし桃子は彼らをも受け入れない。それが桃子に不可解な印象を与えていた。
 桃子には、心を寄せる男子が他にいた。
 彼は誰から見ても、あまりパッとしない男子であった。それが障害であった。彼も他の多くの男子と同じ考えであった。それでも彼には、他の者にはない、相性の良さのようなものがあった。
 何度か話すこともあって、ある程度知った仲でもある。だから桃子はそれ以上積極的な態度を取らずにいた。
「わからないはずはない」
 桃子はそう信じて疑わない。しかしその実、彼はうわの空のようである。
 歳月を追うごとに、桃子のいらだちは募っていった。
「おい、武内」
 どうしてもグラウンドの方へと向いてしまう。
 ある日、桃子はついに決意した。
 休憩時間に、他の男子生徒と廊下でヘラヘラ会話している彼を睨みながら、桃子は勢いよく彼に迫っていったのだ。やがて、彼もそれに気づき、その驚きが頂点に近づいた時、桃子は思いきり首を振ってみせた。どうやら彼はのけぞいて、尻もちをついたらしい。
 桃子は込み上げる笑いを堪えながら、頭上を見張って歩いていった。