帰り道


四人は並んで歩いていた


雪を踏む音が

やけに気持ちいい夜だった


「ねえ」


塩が言う


「次はちゃんと呼んでよ」


「うん」


砂糖は笑う


「次はもっとデカいライブする」


「アリンコ増えてたら嫌だな」


「百匹くらいにするか」


「怖い怖い怖い」


くだらない会話が

寂しかった時間を、夜を埋めて行く


住宅街は相変わらず静かだった


誰も歩いてない


でも今日は

世界に自分達しかいない感じがしなかった


川の近くまで来た時

ベーコンが空を見る


雪はまだ降っている


ずっと降っている


この国には

本当に季節ってあるんだろうか


でももし無いとしても

今日みたいな日はちゃんとある


冷たいのに暖かい日


帰りたくないのに

ちゃんと帰れる日


変わってしまったのに

また笑える日


「寒っ」


牛乳が肩をすくめる


「走る?」


ベーコンが言う


「えー子供じゃん」


そう言いながら

最初に走り出したのは塩だった


「あっずる!」


砂糖も走る


牛乳も笑う


ベーコンも走る


「ねえ!俺だけ家から遠ざかってるんだけども!」


「「「ロックじゃん!!」」」


積もった雪が少しだけ溶けた音がした



「入れば?」


砂糖が言った


暖かい空気が

玄関から逃げ出してくる


その匂いだけで

昔は家の入場料として、お菓子を必ず一人一つは持ち込みあう約束していた事を思い出していた


「お邪魔しまーす」


三人は声を揃える


懐かしい家は

少し狭くなった気がした


たぶん自分達が大きくなっただけだ


机には飲みかけのココア

散らばった紙

読みかけの本


そして

ライブのセットリスト


「あ、本当に頑張ってたんだ」


塩が言う


「何その言い方」


「いや、砂糖って途中で飽きるじゃん」


「失礼だなあ」


笑い声が重なる


暖房の音も混ざる


外で降る雪の景色が

別の世界みたいだった


「ねえ」


ベーコンが聞いた


「あのアリンコは今どこ?」


「あー」


砂糖は肩を見る


でも

アリンコはいなかった


「あれ」


「逃げたんじゃない?」


塩が言う


「えぇー」


砂糖は少しだけ残念そうだった


でも何故か

嬉しそうにも見えた


「まあいっか」


そう言って笑う


「俺のおかげで生きてるとか言ってたのに」


牛乳が笑う


「あれはロックだから」


「まだ言ってる」


「でもさ」


砂糖は少しだけ真面目な顔になる


「閉じ込めてたのは自分自身だったのかも」


しん、と一瞬だけ静かになる


「変わらなきゃって

ずっと思ってたから」


砂糖は窓の外を見る


雪はまだ降っている


「でもなんか今日、

ちょっと楽になった」


その言葉を聞いて

三人も少しだけ楽になった


理由は分からない


でも

ちゃんと分からなくてもいい事だってある気がした



砂糖の家までの道は

昔より短く感じた


たぶん大人になると

知らない間に歩幅が大きくなる


「ここ曲がったら近道だっけ」


「違う違う、それ犬いる方」


「あーいたねえ、めっちゃ吠える犬」


「今もいるのかな」


「犬の寿命の話やめてよ」


「ごめん」


そんなくだらない会話をしている間は

この三年何があったのかなんて忘れていた


砂糖の家の窓だけ明るかった


「あ、起きてる」


「音楽作ってんのかな」


「それっぽい」


だけど

インターホンを押す直前で

何故か全員止まる


急に緊張してきた


なんて言えばいいんだろう


ライブよかったよ?


なんで呼ばなかったの?


寂しかった?


会いたかった?


どれも少し重たくて

どれも少し違う


その時だった


ガチャ


玄関が開いた


「え?」


砂糖だった


そしてその肩には

あのアリンコがいた


「え、なにしてんの?」


砂糖は笑っていた

でも少しだけ

泣いた後みたいな顔だった


「いや!それこっちのセリフ!」


「なんで来てくれなかったんだよ塩!」


「知らなかったんだって!」


「えっ!?うそ!?」


「本当だよ!」


急に騒がしくなる玄関前


静かな住宅街が

少しだけびっくりしてる気がした


砂糖は頭を掻きながら


「あ〜」


と言ってから

小さく笑った


「本当は、呼ぶの怖かったんだよね」


雪が降っている


でも誰も急かさなかった


「なんかさ

変わった自分見られるの怖くて」


砂糖は続ける


「だから呼ばなかった

来てくれなかったら悲しいし

来てくれても、多分怖かった」


誰もすぐに返事をしなかった


だけどその沈黙は

嫌な沈黙じゃない


ちゃんと聞いてる沈黙だった


「めんどくさいなあ砂糖」


塩が笑う


「うるさいなあ塩」


「でも、ちょっと分かる」


ベーコンも言った


牛乳は頷く


本当はみんな

怖かっただけなのかもしれない

一人一人がちょっとずつ


変わることも

変わらないことも