『わたくし率 イン歯ー、または世界』
みなさま、暑さが舞い戻ってきましたがお元気でいるでしょうか&いるでしょうね。
さて、今日は書評です。
このシュールなタイトル。
2年前に、『乳と卵』で芥川賞を受賞した川上美映子氏の処女作(処女小説)です。
- わたくし率 イン 歯ー、または世界/川上 未映子
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こと、この小説に関すれば、上記の"処女作"という言葉さえ、なにか後ろめたい淫靡な響きを感じてしまいます。
それほどまでに、この小説は陰湿な淫靡にあふれている。
全編を通して、妄想と現実を往復する、そして妄想と言っても常人がするような直情的で俗物的なものではなく、かなり物理抽象度の高く、シュールかつ後ろめたく、情念にあふれた悪夢のような世界です。
でも、その妄想の印象は、たぶんにヒロインの結末に影響されている。
こんなシンプルな物語に、隠されたどんでん返しのような結末。しかもどちらかというと悲劇的な。
とにかく、シュールな世界です。
でも、逆にそのシュールな色から、このように主題と結末を浮かび上がらせるのはすごい。
そして、この物語を貫く主題は、仏教哲学でいうところの『空』ではないだろうか。
そのことを強烈に感じました。
わたしにとって、『わたし』は歯。
もし、あなたが『あなた』自身は"脳"であると言ったり、"心"であると言ったとしても、あながそう言うのと同じように、わたしにとって『わたし』は歯。
ファーストインパクトとしては、あまりにシュールだけど、あまりに哲学的。そして科学的。
あくまで核心は相対的なもの。
そして、不変かつ普遍なものはない。
これは、仏学の奥義ではないでしょうか。
同時に、科学的。
だって、肉体を構成している分子のどれ一つとして、あしたも同じ機関を構成している保証はないんですから(『動的平衡理論』による)。
あまりに抽象度が高く想像的な世界では、思考は同時に淫靡にもなるのかも知れない。
(これも脳科学的に無理がない。)
読みづらいけど、とても深遠な一冊でした。
ともすれば、奇をてらっているだけのようにも見えるけれども。
最後に、平安文学から鴨長明『方上記』の一節を引用して、この書評を締めさせて頂こう。
『方上記』
行く川の流れは絶えずして しかも元の水にあらず
よどみに浮かぶうたかたは かつ消え かつ結びて 久しくとどまることなし
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