(オリジナルはWhy I am not worried about Japan’s nuclear reactors.)
においてMIT(マサチューセッツ工科大学)技術者である
Dr. Josef Oehmenによる
分かりやすい解説が紹介されていたので、
以下に転記します。
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前文からつづき
福島で何が起きたのか
ここで主な事実をまとめたい。
日本を襲った地震は原子力発電所の設計値よりも5倍も強い
(リヒタースケールは対数的に働くため、
発電所の設計値である8.2と実際の8.9の間は5倍である。0.7ではない)。

日本のエンジニアリングに対して最初に賞賛すべきところで、全てが持ちこたえた。
8.9の地震が襲ったとき、原子炉は全て自動停止プロセスに入った。
地震発生から数秒後には制御棒が炉心に挿入され、
ウランの核分裂連鎖反応は停止した。
今や、冷却システムが残留熱を取り除かねばならない。
残留熱負荷は通常の運用条件の熱負荷のおおよそ3%だ。
地震は原子炉のゲイブ電力供給を破壊した。
これは原子力発電所の最も深刻なアクシデントの一つで、
発電所の停電はバックアップシステムを
設計する上で最も注意される部分だ。
電力は冷却ポンプを稼動させるのに必要だ。
発電所が停止されているため、
自分で必要な電力を供給することはもはやできない。
1時間は物事はうまく進んだ。
複数の緊急ディーゼル発電機のうちの1つが
必要な電力を供給するために作動させられた。
その後、津波が襲った。
発電所設計時に想定されていた津波よりもより
大きいものだ(上記のとおり5倍だ)。
津波は全てのバックアップのディーゼル発電機を破壊してしまった。
原子力発電所を設計する際に、
設計者は"Defense of Depth"と呼ばれる哲学に従う。
これは、まず想像しうる最悪の大惨事に耐えうるようすべてを設計し、
さらにその上で、(そんなことが起こりえるとは信じられない)
各システム障害が発生しても対処できるように設計するというものだ。
高速の津波による打撃が、全てのバックアップ電力を
破壊することもそうしたシナリオの一つだ。
最終防衛ラインは全てを第三の格納容器(上述)
の中に閉じ込めるということだ。
第三の格納容器は、全てが混在していても、
制御棒が入っていても出ていても、
炉心が溶融していてもいなくても、全てを原子炉の中に封じ込める。
ディーゼル発電機が故障した際、
原子炉のオペレータは非常用バッテリパワーに切り替えた。
バッテリはバックアップのバックアップの一つとして設計され、
8時間にわたって炉心を冷却する電力を供給する。
そしてそれはなされた。
8時間以内に別の電力源を発見し、
発電所につながなくてはならない。
電力網は地震によってダウンしていた。
ディーゼル発電機は津波によって破壊された。
そこで可動式のディーゼル発電機が投入された。
物事が悪い方向に進み始めた。
外部発電機は発電機に接続することが出来なかった(プラグが合わなかった)。
そこでバッテリが枯渇した後は残留熱を取り除くことができなくなった。
この時点で発電所のオペレータは「冷却喪失イベント」
のために用意された緊急プロシージャに移行し始めた。
これは"Depth of Defence"の一つのラインに沿ったものだ。
冷却システムの電力が完全に失われることはあってはならない。
しかし、そうなったとき、次の防衛ラインに「後退」する。
我々にはショッキングに思えるが、これら全ては、
オペレータとしての日々のトレーニングの一部であり、
炉心溶融を管理することも同様だ。
現時点において炉心溶融について様々な議論が開始している状態だ。
今日の終わりには、冷却系が復活しなければ、
炉心は最終的に溶融するだろう(数時間か数日後に)。
そして、最終防衛ラインである
コアキャッチャと第三の格納容器がはたらくことになる。
しかし、現時点において目指すべきは、
熱を放出している炉心を管理し、
技術者が冷却系を修復できるまで可能なかぎり長い間、
第一の格納容器(核燃料を格納するジルコニウムチューブ)と
第二の格納容器(我々の圧力釜)が
無傷で機能し続けるように管理することだ。
炉心の冷却は極めて重要なので、
原子炉はそれぞれの形で複数の冷却システムを有している
(原子炉冷却材浄化設備、崩壊熱除去、原子炉隔離時冷却系、
非常液体冷却システム、緊急炉心冷却装置)
現時点ではこのうちのどれがうまく行かなかったのか、
成功したのかは明らかではない。
ストーブの上にある我々の圧力釜を想像してみよう。
熱は低いが電源は入っている。
オペレータは、あらゆる冷却システムの能力を使って
可能なかぎり熱を除去しようとする。
しかし圧力が上昇し始める。
現在の1stプライオリティは、
第二の格納容器である圧力釜と同様に、
第一の格納容器の完全性を確保することだ
(燃料棒の温度を2200℃以下に保つ)。
圧力釜(第二の格納容器)の完全性を確保するためには、
圧力を時々逃がしてやる必要が有る。
非常時に圧力を逃がす能力は極めて重要なので、
原子炉は11もの圧力逃しバルブを有している。
オペレータは圧力をコントロールするために
時々蒸気を放出し始めた。
この時点で温度はおよそ550℃となった。
これが放射能漏れに関するレポートが
入ってきたときに起こっていたことだ。
私は蒸気放出が理論的に環境への放射性元素の放出と同様であること、
なぜそうなのか、それが危険ではないことを説明してきた。
放射性窒素は希ガスと同様に人の健康に害を与えない。
蒸気放出のどこかの段階で爆発が発生した。
爆発は第三の格納容器(最終防衛ライン)
の外の原子炉建屋で起こった。
原子炉建屋は放射能を封じ込めるのに
何の機能も果たしていないことを思い起こして欲しい。
まだ何が起こったかは明らかではないが、
次が考えられるシナリオである。
オペレータは蒸気放出を圧力容器から直接環境中にするのではなく、
第三の格納容器と原子炉建屋の間の空間に行おうとした
(蒸気中の放射性元素が安定するための時間をより確保するため)。
問題はこの時点で炉心が高温に達していたことで、
水分子が水素と酸素に分離し、爆発性混合物になっていたことだ。
そしてそれが爆発し、第三の格納容器の外側、
原子炉建屋にダメージを与えたのだ。
これは爆発の一種ではあるが、
チェルノブイリの爆発をもたらしたような圧力容器の内部の爆発ではない
(設計が不適切でオペレータにより適切に管理されていなかった)。
これは福島では起こりえないリスクだ。
水素-酸素反応の問題は原子力発電所を設計するときの考慮点だし
(ソビエトの技術者でなければの話だ)、
格納容器の中でそのような爆発が起こりえない方法で、
原子炉は建築され運用される。外部で爆発が生じることは、
意図的なものでは無かったとしても、起こりうるシナリオで問題ない。
なぜなら、それが格納容器に対するリスクとはならないからだ。
蒸気を放出することで圧力がコントロールされる。
圧力釜が沸騰を続けているならば、
次の問題は水位がどんどん下がることだ。
炉心は数mの水で覆われ、
炉心が露出するまでしばらくの時間猶予がある(数時間か数日)。
燃料棒の上部が露出し始めると、
露出した箇所は45分後に2200℃という臨界温度に達する。
これは第一の格納容器、ジルコニウムチューブが破壊されたことを意味する。
続いて次が起こり始めた。
燃料の覆いに対してある程度の(非常に限定的だが)
ダメージが生じる前に冷却系を回復させることは出来なかった。
核燃料それ自体は未だ健在であるが、
それを覆うジルコニウムの被覆が溶け始めた。
今起こっていることは、ウラン崩壊の副産物のいくつか
──放射性セシウムとヨウ素──が
蒸気に混ざり始めたということだ。
大事な点として、酸化ウランの燃料棒は
3000℃まで大丈夫なので、
ウランは未だコントロール下にあるということだ。
ごく少量のセシウムとヨウ素が大気中に
放出された蒸気の中から検出されている。
これはメジャープランBの「GOシグナル」のように見える。
検出された少量のセシウムによって、
オペレータは、燃料棒の一つの第一の
格納容器のどこかが破られたことを知る。
プランAは炉心への正規の冷却システムを回復させることだった。
なぜ失敗したかは明らかではない。
一つの考えうる説明は正規の冷却システムに
必要な純水が失われたか汚染されたということだ。
冷却システムに利用される水は混じり気がなく
脱塩されている(蒸留水のように)。
純水を利用する理由は、上述のウランの中性子による放射化だ。
純水はそれほど放射化されないので、
実質的に放射能フリーな状態を維持する。
水の中の不純物や塩は中性子を急速に吸収し、
より放射能を帯びるようになる。
これはどんなものであれ炉心には何の影響も及ぼさない。
炉心は何によって冷やされるかは気にしない。
しかし、放射化した(うっすらと放射能を帯びた)
水を扱わなければならないとなると、
オペレータや技術者がより困難になる。
しかしプランAは失敗した──冷却システムはダウンしたか、
追加の純水が手に入らなくなった──そこでプランBが登場した。
これが現在起こっていると見られることである。
炉心溶解を防ぐためにオペレータは炉心冷却のために海水を使い始めた。
我々の圧力釜(第二の格納容器)を海水で覆ったのか、
第三の格納容器を海水で覆い、
圧力釜を海水で浸したのかはちょっと良く分からない。
しかしそれは我々には関係ない。
ポイントは、核燃料が冷却されているということだ。
連鎖反応はずいぶん前に停止されているので、
今は極めて少量の残留熱が生成されている状況だ。
大量の冷却水が熱を除去するために利用される。
大量の水なので、炉心は大きな圧力を生じさせるような
大きな熱を生成することはできない。
またホウ酸が海水に追加されている。
ホウ酸は「液体制御棒」だ。
仮に崩壊が進行してもホウ素が中性子を捉え、
炉心冷却を加速させる。
発電所は危うく炉心溶融になりそうになった。
ここで避けられた最も悪いシナリオを紹介したい。
もし海水が利用できない場合、
オペレータは圧力が上昇しないように水蒸気の放出を続けるだろう。
第三の格納容器は、炉心溶融が起こっても
放射性元素を漏出さないように完璧に密閉されている。
炉心溶融の後に、中間生成物の放射性元素が原子炉の中で崩壊し、
全ての放射性粒子が格納容器の内側に沈殿するまで
しばらくの待機時間があるだろう。
冷却システムは最終的には回復し、
溶融した炉心は管理できる温度まで下げられる。
格納容器の内部は清掃されるだろう。
そして、格納容器から溶融した炉心を取り外す厄介な仕事が始まる。
(再び個体に戻った)燃料を少しずつ輸送コンテナに詰めて、
処理工場に輸送されるだろう。
ダメージの程度にしたがって発電所の当該ブロックが
修理されるか廃棄されるかが決められることになる。
さて結局このことで我々はどうなるのか?
発電所は現時点で安全であり、安全であり続ける。
日本はINESレベル4の事故を目にしている。
ローカルの影響を及ぼす核事故であり、
発電所を持つ会社にとっては悪いことだが、他の誰にも影響はない。
圧力弁が解放されたときにいくらかの放射線物質が放出された。
放射化した蒸気による全ての放射性同位体は無くなった(崩壊した)。
ごく少量のセシウムとヨウ素が漏出した。
もし蒸気放出時にあなたがプラントの煙突のてっぺんに座っていたのなら、
あなたは、元の寿命を回復するために禁煙しないといけないかもしれない。
セシウムとヨウ素同位体は海に運びだされ、二度と出会うことはないだろう。
第一の格納容器には限定的なダメージがある。
これは冷却水に幾らかの放射性セシウムとヨウ素が漏出したことを意味するが、
ウランや扱いにくいモノ(酸化ウランは水に溶けない)
が漏出したわけではない。
第三の格納容器内の冷却水を扱う施設がある。
放射性セシウムとヨウ素はそこから除去され、
最終的に最終処理場に放射性廃棄物として貯蔵されることになるだろう。
冷却水として使われた海水はある程度放射化する。
制御棒が完全に挿入されているため、ウランの連鎖反応は起こっていない。
これは「主な」核反応が起こっていないことを意味し、放射化には関与しない。
ウランの崩壊はずいぶん前に終了しているため、
中間生成物の放射性元素(セシウムとヨウ素)
はこの時点でほとんど消失している。これは放射化をさらに減少させる。
結論として海水のある程度の低レベル放射化が見られるが、
これは処理施設で除去される。
海水は通常の冷却水にそのうち置き換えられる。
炉心は分解され、処理施設に転送されるだろう。
これは通常の燃料入れ替えの時と同様だ。
燃料棒とプラント全体は潜在的なダメージをチェックされる。
これには4-5年かかる。
全ての日本のプラントにおける安全システムは
M9.0(もしくはより悪い)の地震と津波に耐えるだろう。
私はもっとも重要な問題は長期に渡る電力不足になると考えている。
おおよそ半数の日本の原子炉はおそらく査察されなければならないだろう。
これにより国家の15%の電力生成能力が失われる。
これは通常、ピーク負荷時にのみ利用される
ガス発電施設を通常時にも稼動させることでカバーされるだろう。
これは電力料金の上昇をもたらす上、
日本のピーク時における潜在的な電力不足をもたらすだろう。
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以上ここまで
自分の大学の専攻は電気工学であり、
分野が全く異なりますが、
エンジニアの端くれとして、
ぜひともこの記事を紹介しなくては、
と思いました。
仮に、炉心溶融(メルトダウン)が
最悪のシナリオになったとしても、
環境への影響は限定的になると願っています。
今から40年前に建築された原子力発電所が、
予想された値をはるかに超える
地震、そして津波に遭遇し、
機能不全に陥りながらも
最悪の事態にならないよう、
不眠不休の努力が続けられています。
そんな中で、根拠ない不安を煽り立てるような人達は、
現場で救助活動、復旧作業している人達に対し無礼でありますし、
不必要な混乱を引き起こして、
かえってパニックを引き起こしかねません。
正しい情報を正しく理解して、
必要な行動をとるようにしたいものです。