お父さんに喜ばれたもの

私の父は普段は穏やかで物知り

そしてとてもひょうきんな人だった

子ども好きで私の従兄弟達にも

「パパ」と呼ばれ慕われていた



ただお金にだらしなく

借金を繰り返しては

母と取っ組み合いの喧嘩をしていた


ひとりっ子だった私は

お酒を飲むと豹変する父がただただ怖かった


母も言わなきゃいいのに

2人がいい感じに酔い始めると愚痴が始まる


目の前で父が怒鳴りながら

グラスを灰皿に叩きつける姿

母が父を孫の手で首を締める姿

母方の祖母が来て仲裁に入る


今思い出しても喉の奥がキュッと締まる



父母は私が小3で離婚

翌年に再婚

そのまま別居となり

私が大学生になった頃に

再度離婚した


2度目の離婚時は私に知らされることはなく

年末に帰省した時に母から知らされた


再婚した年の父の日

私はお小遣いで財布を買った

父は小銭入れを持っていたが

幼い私が見てもカッコ悪かった


とても喜んでくれた


私はあげたことは忘れてしまっていたが

別居していた父と久しぶりに会った時

父はとても申し訳なさそうに

「これね、実はトイレに落としちゃって

1時間かけて拾って丁寧に洗ったんだけど

よれちゃった」と言った

父の職場は和式のボットントイレだった



その時はトイレに落としたということに

腹を立てて父をなじったように思う


その後はほぼ会わなくなったので

私にとって

最初で最後の父へのプレゼントとなった


今日は父の日


今、父に会えたなら…

真っ先に愛する娘を会わせたい


父が私を愛してくれていたことは

間違いないことだから

きっと喜んでくれただろう


それにしても

なにも残さないまま

死ぬのはずるい


今日は父の日