silly talkですってよ。 -20ページ目

silly talkですってよ。

妄想の産物っす。

妄想っす。

もう一度言いますが、妄想の産物っす。

マーガレットの花弁で占う。1








男の人の手…だった。


勢いで煙草を握り潰したって言う…。
櫻井さんの手。


どう見たって…。
華奢な女の子の手じゃない。

骨ばって。
無骨で…。
ちょっと深爪で…。

そんな手。


薬箱を抱えて店に戻って。
店の入口に掛けた『ちょっと出かけてます』の札をそのままに。
店の奥…。
暖簾で区切った小さな事務所みたいな、休憩室みたいな…小さな空間。
薬箱を定位置に戻して。
珈琲を淹れて。
その香る…香ばしい香りに…。
「ふぅ…」
やっと息を吐いた。

カップを右手に持って、シンクに寄りかかる。
「はぁ…」
一口飲んだ珈琲が…。

「…沁みる…」

なんだか…。

怒涛の一日だ。

何一つ変わることの無い日常だった…はずなのに。
急転直下…とでも言うのか…。

「なんか…忙しい…」


よく考えてみれば…。

総ては…。

櫻井さんの登場にはじまる気が…する。

別に櫻井さんのせいにするつもりはないけど。

「…」

違う。
櫻井さんのせいだ。


なんだか…。
ウキウキして。
ドキドキして。
モヤモヤして。
また…ドキドキして。


忙しいのは…。

俺の感情。


俺さ…。


「あーーっ」
思わず叫んで。
珈琲の入ったカップを持ったまま…。
座り込んだ。


こんなのさ…。

こんなの…。

こんな忙しいの…。


…恋、じゃん…。


恋に決まってるじゃんっ。


櫻井さんに逢えて嬉しいのも。
カズが櫻井さんを想ってるって考えて…モヤッとするのも。
怪我した櫻井さんが心配なのも。


こんなの…。


「恋に決まってる」

座り込んで。
膝を抱えて。
カップ持ったままで?

「俺、なにしてんの…」


櫻井さんの手に触れた指先が。
まだ…。
櫻井さんの手の感触を覚えてて…。



あの手に…。

触れたい…。
触れて…欲しい…っ。

と。

思考の何処かで思ってる。


でも…。

彼は男の人で。
俺も…男で。

今更だけど。

あの容姿。

女の子がキャーキャー言わないわけがない。


「あーもーっ」

またモヤッとするじゃんっ。

カップを床に置いて。
自分の膝に顔を埋めて。

なにやってんのっ。
なにやってんの俺っ。


こんなの…。

こんな感情…っ。


久しぶり過ぎて。

「よくわかんないよっ」


膝に向かって叫んでから。

「あーもぉ…」

長く息を吐き出して。
顔を上げる。


「…仕事しよ…」

切り替わらない気持ちを抱えたまま。
カップを持って立ち上がった。