向日葵は太陽に向いてます。2
とりあえず新しい取引先が出来て。
そこで思い出す…。
「あ、店っ」
自分の店の事。
「あ…悪かった。仕事中だったな…」
なんて櫻井さんは小さく呟くと。
「今夜はオープン記念のパーティー? だからさ…良かったら松本くんも来てよ?」
そう誘われれば。
悪い気はせず。
「来れそうなら…」
それでも曖昧に返事をしてしまうのは…。
自分が。
向かい側の花屋の店長…だから。
「ぁ…花屋って、朝…早そうなイメージだもんな」
俺の無言の中に何かを悟ったのか。
櫻井さんは言って。
「俺はだいたいこの時間には店に来てるから…松本くんの都合で花、刺しに来てよ?」
それはきっとこれからの仕事の話で。
でも…。
「刺す…って…」
「え? 違う?」
「違わない…ですけど…」
刺すって表現が可笑しくて…。
思わず笑った。
それから背筋を伸ばして。
「じゃ、生けに来ますね」
そう言うと。
「…生ける…ね」
櫻井さんは納得したみたいに笑って。
「よろしくお願いします」
と頭をぺこりと下げた。
花束の残りを抱えて櫻井さんの店を出る。
それが何故か…。
…名残惜しくて。
そんな感情の自分に戸惑う。
道を跨ぐ数歩。
それが…。
なんだか長くて…。
まるで櫻井さんと俺の距離みたいで。
…切ない…。
そんな感情に。
戸惑う。
「ちょっとぉー潤くん、どこ行ってたのさー」
店に戻ると。
耳馴染みのある声がして。
上げた視線の先に。
え…。
「…カズ…?」
見慣れた顔があって。
「なぁに…その…恋するオトメ…みたいな顔」
そう悪戯に言われて。
は?
って思った次の瞬間には。
顔が熱くなって…。
「わぁ…マジ…?」
ってカズにも分かるくらい。
「潤くん、真っ赤」
赤面してるのが自分でも分かる。
「マジで? マジで恋したのっ!?」
「…っ」
カズが小走りに寄ってきて。
「え、ワタシに?」
見上げて来る。
そこで。
「そんなわけない…」
と、冷静になった。
「ですよねー」
カズはニンマリ笑うと。
クルリと背中を向けた。
「てか、どうしたわけ?」
短く息を吐いて気持ちを入れ替えてから、カズに問いかける。
カズ…二宮和也は高校の時からの友達で。
付かず離れず…で、現在に至る。
「花? お願いしたくて…」
「え、カズが?」
「そ、ワタシが」
珍しい…。
思ったけど口にはしない。
「会社の先輩だった人がお店出すんですよ」
「あ…なんか前に言ってたね…」
お世話になった会社の先輩が、会社を辞めたって。
「そ、その人です」
「どんなのにする? どんなお店?」
とりあえず。
櫻井さんから預かった花束を作業台の隅に置いて振り向く。
「飲み屋だって」
「飲み屋…ね」
「いかがわしくない感じの…」
「なにそれ」
カズらしい表現に笑う。
「ま、あの人のことだから…The飲み屋って感じではないと思いますけど…」
「ふーん」
何となく。
イメージを膨らませる。
「洒落た雰囲気になってるんでしょうねきっと」
洒落た…ね。
思考に浮かぶのは。
さっきまでいた櫻井さんのお店で。
ついついあの店に似合いそうな花をイメージしてしまう。
思考を振り切るように頭を振ってから。
「小洒落た感じ?」
「と、思います」
聞いてるのはコッチなのに、カズはなんだか曖昧で。
「わかんないの?」
「わかんないって言うか…」
ん?
カズを見つめると。
カズは外を眺めたまま。
「まさか、潤くんのお店の向かい側なんて…聞いてなかったんですよ」
…え…っ。
カズの視線の先には。
俺がさっきまでいた…。
櫻井さんの店っ!?
が…ある。