咲き誇れ牡丹の如く。3
「飯、家で食う?」
また歩き出した翔くんを追いかけると。
翔くんが言うから。
「…ぇ…」
一瞬躊躇う。
さっきの会話の流れで…。
このまま翔くんのテリトリーに行くのは危険な気がした。
「あはっ…しません…っ」
何を悟ったのか…。
翔くんが笑う。
「誓ってキス以上はしません」
「キスはするのっ!?」
「あ…心の声が…」
なんて。
全然反省してなくて。
「もう…っ」
怒る気にもなれず。
なんだか悪戯に笑った翔くんが可愛くて。
二人で笑う。
「ま、冗談は抜きとして…」
また翔くんが歩き出す。
「俺ん家、そこだし…」
そこ?
え?
商店街の終着地点にドドーンと建つ…。
タワーマンションを指さした。
「シャワーと着替え…貸しますよ?」
「…あ…うん…」
そう言えば…。
昨日のままだった。
「それは助かります」
「だろ?」
翔くんの自信満々の顔を眺めながら…。
思う。
まだまだ知りたい事ばっかり…だよ…?
それを知る度…。
あなたを知る度…。
俺はきっと翔くんをもっと好きになる。
「翔くん…」
「ん?」
「お店は…彼の…?」
翔くんは驚いたみたいに。
「そこまでお見通しですか?」
笑って。
「…俺のエゴ…だけど…な…」
と…。
それは。
きっと翔くんの贖罪…。
あのお店は。
いつか…。
彼に譲るモノ…。
「ちょっと…妬けます」
「はい?」
タワーマンションの入口を潜って中に入る。
綺麗なエントランスを抜けて。
エレベーターの前。
「俺、妬いてますからね?」
「え、妬ける? なに、なんで? しかも口調戻ってるしっ」
翔くんは笑ってるけど。
俺はちょっと怒ってる。
そんな風に翔くんに想って貰える…彼に。
彼の存在はきっと…。
翔くんの中にかなり大きさで居場所を占めているわけで…。
呼び名が変わった位じゃ…。
まだ俺は…。
翔くんの中で。
そんなに大きな居場所を占めて…ない。
開いたエレベーターに乗り込んで。
翔くんが俺の腕を掴んだ。
「ヤキモチとか…嬉しいことすんなよ…」
見つめた先で。
翔くんが強気に微笑む。
片側の口角を引き上げた…。
強烈に強気な表情。
ドクン…っと。
跳ねる俺の心。
「公衆の面前じゃねぇし…」
「…ぇ…」
翔くんの空いた手がエレベーターのボタンを操作して。
俺の腕を引き寄せる。
「あんま…骨抜きすんじゃねぇよ…」
ぶつかりそうな距離で。
低い声が告げて。
強い視線に…。
完全に射抜かれる。
「…好きだよ…潤…」
そう囁いた唇が…。
―俺も―
その言葉を紡がせてはくれなかった。
おしまい。
