Midnite Vultures 試聴あり


99年、ベックの「匠のサンプリング」が炸裂。フォーク、ノイズ、パンク、ブルーズ、ヒップホップ、ジャズ、ファンク・・・。あらゆるジャンルの音楽が咀嚼され、ベックという90年代を象徴するポップ・アイコンから、これまで誰も聴いたことのないまったく新しい音楽として放たれる。ロックのパッチワーク。ロックのおもちゃ箱。ロックのお化け屋敷。


基本的には、傑作「オディレイ」と同じベクトルで作成されたアルバムだと思う。ただし、この作品は「オディレイ」と比して、散漫・冗長の印象はぬぐえない。M-1、M-2、M-5といったキラーチューンは「やっぱりベックやるな」と思わせるに十分な圧倒的楽曲群であるが、それ以外が弱い。もともとジャンク・ミュージックをかき集めて、優れた音の塊として仕上げてきた彼であるが、この作品に限って言えば、ジャンクゆえのチープさが目立つ結果になっていると思う。ジャンクゆえの親しみやすさ・面白さになっていない。


楽曲に味わいが足りない。練れていないと言うか。急いで作ったのか。99年当時、ベックに初めて失望した記憶がある。本家を模して作った田島の「L」より駄作だと思った。これだったらベックの看板を田島にあげちまいなよ、と思った。


ベック史上最低のアルバムではあるが、この次の「シー・チェンジ」がこの上なく素晴らしかったので救われた。1作目、2作目とこれが彼のベスト3だろう。良いアルバムは魂を揺り動かしてくれる。そして、「グエロ」以降はさしたる冒険もなく、小さくまとまってきた感がある。私事を言えば、近作の2作「インフォメーション」「モダン・ギルト」はついにCDを購入しなかった。理由は、「YouTubeに主だった新曲がアップされるから」「最近ベックがつまらなくなってきたから、あるいは、自分の耳がベックの音に慣れてきたから」。


07年1月14日のTOKYO FM「discord」のインタビューで、田島は私と同じような感想を漏らしている。「ベック大好きだけど、彼、最近だんだん煮詰まってきているかも知れない」。レディオヘッドが「イン・レインボウズ 」で自分たち自身のハードルを飛び越えたように、ベックも今までの名盤を凌ぐようなアルバムを作ってくれることを切に望む。