水曜日 継母の従兄弟を訪ねてみる

金曜日 姪が歯医者に行くので付き合う


のっけからけだるい、手の施し様のない虚無感が漂う。これもそう、高樹兄貴の仕業。「奴のシャツ」。


「ボタンを掛け違えたまま年をとるのは恥ずべきことだ。」親父の通夜でからまれる。


叔父にこんな風に、実父の通夜でからまれた日にゃ、家にある服という服をシュレッターで刻みたくなる。キリンジにしては珍しいストレートなロック・チューンの中で、相変わらずシニカルかつシュールな高樹の歌詞が憎たらしいくらいに跳ねまくる。


彼らのディープな音世界を予感させる冒頭に引きこまれてアルバム全体を聴くと、意外に爽やかな、すんなりとした楽曲も並んだりしていて呆気にとられる。その代表格が3曲目の「僕の心のありったけ」。ただし、高樹の歌詞の中の「この心のありったけを 今夜は君の中の宇宙に放ちたいのさ」という下りにアダルトなイメージを想起したのは私のあほさ加減炸裂ゆえか。


私は基本的に高樹ファンなのであるが、泰行のポテンシャルをまざまざと見せ付ける楽曲が「繁華街」。高樹ほどのハイ・アベレージなスラッガーではないにしても、時たまとんでもないホームランを放つ。そんな意外性が彼の魅力だったりする。ミドルテンポの叙情性溢れる名曲に仕上がっている。


ひねくれたポップチューンはやっぱり高樹にお任せか。「ハピネス」。自分でボーカルを取っているところを見ると、思い入れ強そう。


わからない芝居を観たり 

くだらない若い歌手に入れあげたり

英会話 お茶をしながら

「うちの主人は芸術を理解しない。」

知るかよ!


「知るかよ!」ってのが泣かせる。「昼食は 妻がセレブで 俺セルフ」という秀逸な川柳を思い出した。ホントに泣かせる。


11曲中6曲高樹、5曲泰行。絶妙のバランスではなかろうか。ともすればスウィートかつメローに流れる弟を、時にはブラジリアンビートなどを武器にしながら、屈折して狂気に満ちた兄が牽制する。良い塩加減である。5作目に来てやや作り込みすぎて、1作目のような無垢さ(これも計算済みか?)に欠けるきらいはあるものの、2人の才能を十二分に満喫することが出来るアルバムである。もうすぐ出るはずの次作に大いに期待したい。