【閑話 五】
これは呑気な小生と雖も飛び上がった腎盂炎のハナシ。
何度か来院していた七〇代女性曰く、一昨日(土曜日)畑仕事をしていて足裏を釘で傷つけた・・・
夜になって悪寒・発熱・・・ 家族が破傷風だ、医者だと大騒ぎ・・・ 余りの辛さに触るな動かすなで一晩悶々・・・ 昨日は一日中寝ていた・・・ 今は(月)起られたので病院に行った・・・そのついでに来院した・・・ 医者は何も云わなかった・・・ 何でしょうか・・・ と。
破傷風なら潜伏期間も何日もあるとか、咬筋痙攣反弓する位は聞いて知っていたので、それはないだろう・・・ 内心、例外と云うこともあっては・・・ と思い乍らも「まぁ腎盂炎だネ。出歩かず一週間家でお灸して又おいで・・・ 」
二~三日してお坊さんが来院。治療中の話・・・ 「今日〇〇へ(地区名)葬式に行った・・・ 珍しく破傷風で亡くなった女性だった・・・ 」と。
「エーッ! 」驚いたのなんの飛上った。
同地区なんだ。名前は? 釘を踏抜いた人? ドキドキの質問。
名前が違っていたし、大根下しで指を傷つけていたとか・・・ 井戸水を使っていたとか・・・
「フゥ~! 」寿命が縮んだが助かった・・・
この辺りの福山市郊外では、水道はあっても井戸がある家が多い。我家もそうだがポンプ付けて庭や畑等に使う。水道代の節約だ。
―なんとなく心中穏やかでない日が過ぎていたが、一週間経った月曜日ニコニコ顔で例の女性来院・・・ その顔みるや一瞬にして心の凝り(しこり)がフッ飛んだ。
曰く、「ヤッパリいわれた通り腎盂炎でした・・・ 」病院での帰り我院に向かって歩いていたら看護師さんが追っかけて来て、検査するから引返せという。
検査の結果は腎盂炎・・・ 尿検なんて簡単だろう
が何故早くしなかったんだろうナァ・・・ 疑問もあったろうに・・・ 判らなくて、何も云わなくて、薬は出している・・・ 患者は納得するのかナァ・・・
薬とは便利なもんだナァー。
― 安堵したところで同地区で破傷風で亡くなった人の話を出したが知らぬ存ぜぬだった。世の中広い。
そんなことがあって破傷風を医学書で調べたことだった。
少々腎盂炎の話しが続いちゃったかナ。

【閑話 六】
六〇代男性。患者の紹介で来院。
数日前、畑で耕運機使用中向きを変える時右の首筋を傷めたとのこと。
初 日 右首筋~右肩井辺りに数本置鍼、円皮鍼数本貼って終了。
二日目 右膏肓辺りまで痛むと云う。治療部位を下げて同様の施術。
三日目 前日よりも少し下の方まで痛むと・・・ アレレ~~~ ?
2日ほど坐位で診ていたがベッドに上げて診るが、これと云ったことは不明だが自発痛だなと思う。
〝 うゥ~ン、胆のうかナァー 〟 と思い、一応胆のう検査を受けるようにすすめるも、今迄病気らしい病気をしたことがない・・・ 何処へ行ったらよいか分からない・・・と 兎に角大きな病院だよと伝える。一週間程経って紹介者来院。あの人今日〇〇病院で胆のうの手術すると云う。・・・ やはり胆のうだったか・・・ 病名は知らないと・・・
一ヶ月位経って紹介者来院。曰く、あの人胆のう癌で亡くなり葬式も済んだと・・・
「エ~ッ! あの人、細身ではあったけど最近痩せて来てた?」
「イイエ昔から相変わらずあのタイプでした・・・ 」と。
それにしても早い・・・ こんなこともあるんだ・・・ 我師会では平人はいない。
病人と死人のみというが・・・ 小生死人を診ていたのかなと思われた。
《 余 談 》
昔「チベット三千年の秘法」と云う本を読んだ。その中に手当てをすれば命が助かるのにと思われるのにしない。なぜかと尋ねると、今助けても近々死ぬ運命が待っていると応えた・・・ まさに死人 (=死ぬべき人) なんだネ・・・ そんなこと判らないよ。


【閑話 七】
四〇才位の入院中の女性。二ヶ月になるが検査では何も判らず、只々体調が悪い・・・ 病名も原因も不明な為、会社の同僚等見舞に来ても返事に困っているという。再検査お願いしても、その必要はなしとのこと。見舞客の中の人で我院に時々来ていた人のすすめで抜け出して来たと。
さあ大変。聴けども診れどもサッパリ判らない。「強いていえば肝臓かなぁ。」「病院を替えてみたらと・・・ 」と促す。
後日談
入院中の病院で肝臓の検査を申出てもやはり 〝 必要なし 〟 。
「それなら他の病院へ行く」・・・「今度来ても診てやらん」
「診て貰わない、もう来ない」とかなんとか・・・
一寸考えられないケンカ別れだったと聞いていた。
それから二ヶ月位経った頃、彼女の姑が来院。
「嫁が可哀相で仕方がない・・・ 」
「エーーーッ 亡くなった? 」
「肝臓ガンで・・・ 転医して直ぐ判った。早くここに来れば助かったのに・・・ 長いこと放っておかれて・・・ 」と嘆く。
転医して一ヶ月位だったという。
「イヤイヤ、自分もそこまでは判らなかったと驚き乍ら、お悔やみをいうことでした。」
転医して直ぐ判ったと云うことは、肝生検したと思えるが、何故早くしないのか不思議に思えることがある。患者の話や身体を軽く診ているのかナ。
この事例も死人を診ていたということか・・・

【閑話 八】
七〇代男性。
一年位前、眩暈で来院。一度で治まるが二度診ていた。
此度は往診して欲しいと。その頃はまだ夜しか往療しなかったが、近いので午后自転車で往く。随分痩せて蒲団に伏せていた。食道ガンの手術したと云う。
「アーッ! 一年前の眩暈は、悪性不良性の貧血だったのか? 気が付かなかったナア・・・ 」と一瞬思えた。
「もう一度元気になって働きたい」と。
仰臥と横臥で軽く施術する。
「電話したら又来て欲しい・・・ さて、一休みするか・・・ その前にオシッコだ・・・ 婆さん頼むよ・・・ 」
「では、お大事に」で退出。
後日、婆さん来院。
爺さんに尿ビン当てたらウトウト眠り出した。
「爺さん寝ちゃダメだ」
「そうセカスナヨ・・・ 」でプツン。これが最期のコトバだったと。
数分後のことだ。本人もそんなつもりではなかったと思うが、小生とて然り。
胃の気の絶えた七死の脈状があるも勉強不足、能力不足を知るのみ。
一年前の故人の来院時の言を思い出す。
曰く、自分は床屋に一週間に一度、風呂は極力銭湯に通っていたと・・・ そこでは自慢話をする人が多い・・・ それも聞くのが好きだ・・・ 自慢話の中には人生のヒントがある・・・ と。
「ウゥ~ン!」思わず謙虚な人なんだとウナッタものでした。
「行鍼施灸は芸術だ。道楽心がなければ出来ない業だ。
面白いではないか 一本の鍼、一握りの艾で万病を治し得るならば、
愉快ではないか 鍼灸をして万薬の作用を起こさせるとしたなら。」
柳谷素霊著 『鍼灸医術の門』より














