読書ノート⑤「赤めだか」 | ひろどんの歌声日詩♪
赤めだか

¥1,400
楽天


 「古典落語の名手」と呼ばれる立川談春さんが、立川流家元『立川談志』師匠へ入門してから、真打になるまでの修行時代を記したこの自伝。

書き物なのに「これぞ話芸!」と言いたくなる程に、素晴らしい一冊でした。


$ひろどんの歌声日詩♪



 ところで、話も文章も、ボクシングでいうところの2回戦ボーイなワテですが、一つだけ持論がある。

それは、話しの上手いコメンテーター、文章の上手いライターに共通するのは『落語が好き』という事です。

表現力の豊かさ、音韻のリズム、息継ぎ・句読点の位置、人の心を掴むツボ。

落語にはそれらが全て備わっており、しかもその技法を笑いながら学べるので、落語は最高の教材なのかな、と考えました。

それならば「落語家の書いた文章も、同じ様に上手いのでは?」と、素朴な疑問を抱き、落語家の書いた本をネットで物色。

その中で書評が一番良かったのが、この本だったので思い切って購入。


腹が痛くなるほどに笑わせるオチ。

思わず、ホロっと来てしまう余韻。

噺家さんならではの、軽妙でテンポの良い文章。

発売された3年前に、この本がたくさんの賞を受賞されたのも、うなずけました。



$ひろどんの歌声日詩♪


 松尾芭蕉が、芸事に関して詠んだ句に、

――「格に入りて格を出でざる時は狭く、又、格に入らざる時は邪路にはしる。 格に入り格を出でて初めて自在を得べし」というのがあります。

「格」とは、今でいう『型』のこと。

基本となる型をベースにしながらも、そこから出る事を『型破り』と言いますが、談春さんの話す落語がそうである様に、この本も「型破り」な自伝で、読みながら何度も笑っては泣き、泣いては笑ってしまいました。


それもそのはず、この本に描かれた談春さんの人生そのものが、型破りなものでした。

父の影響で、幼いころから通っていた競艇は、談春少年にとって賭けの対象にはあらず。

普通の子供が、プロ野球やサッカーの観戦にスタジアムへ訪れるかの様に、競艇のスター選手の応援に競艇場へ通い詰める。

中学生になると、マジックで顔にヒゲを書きサングラスをかけ、歳を誤魔化してまで一人で競艇場へ観戦に通う。

中学卒業後の夢は競艇選手。しかし、身長が大きくなり過ぎた為に、身長制限で無理だと知り、敢え無く撃沈。




$ひろどんの歌声日詩♪


中学校の卒業間近に体験学習で行った落語の寄席で、立川談志を初めて見る。

直ぐに、追っかけを始め、親の反対を押し切り高校を二年で中退。

父と大喧嘩の末に家を飛び出し、住み込みで新聞配達をしながら、独立して間もない立川流家元・立川談志に弟子入り。

落語協会の運営方針に疑義を持ち、協会から飛び出した「落語界の異端児・立川談志」率いる立川家は、弟子の育成法も独特。

初日に「修行とは理不尽に耐えることだ」と習うと、文字通り理不尽なまでの見習い修業に明け暮れる。

時には築地の魚河岸へ一年間も修行に出され。またある時は「戸塚ヨットスクール」へ。

以後、何度も脱走の誘惑と戦いながら、同門の『前座』3名と共に、ひたすら稽古に励む。



入門から足掛け4年半。

落語家がプロとして高座に上がれる『二ツ目』に昇進。

――「いいか、オレ(談志)のところで二ツ目になったということは、他の二ツ目とはモノが違うんだ。 それはプライドを持っていい。
これからお前たちは世の中へ向かって落語を語り込んでゆくんだ。決して落語だけを愛する観客達の趣味の対象になるんじゃねェ。」

上記、談志師匠が述べられた様に、立川家は昇進試験の厳しさ、求められるレベルの高さが凄く、年齢や年数等が考慮される隙も全く無い程で、まさに実力主義の世界。

試験の内容は、本業となる古典落語の50席暗記をはじめ、鳴り物、踊り、講談など、落語家とは思えない程に幅が広い。


『さだまさし』さん日く。

「立川談志は天才だ。俺達の世界でたとえるなら、作詞作曲、編曲に歌に演奏まで独りでできてしまう。その全て、どれをとっても超一流」と、評される程の談志師匠が試験官となり、「さすが、談志が認める二ツ目は違う!」と世間が納得するレベルの腕前を求められる。



$ひろどんの歌声日詩♪


入門から、波乱万丈の13年が過ぎた平成9年。

その間、ライバル視していた弟・弟子に抜かれショックから一時は道を外すも、奮起してからは誰もが認める程に腕を上げ。

立川談春、晴れて『真打』昇進。

そこで、この本は終わっていますが、ここで描かれたものは、弟子・談春さんの歩みであると共に、師・談志さんと立川一門の歩みでもありました。

草創の立川家に入門し、早くから才能を開花させた兄弟子の『立川志の輔』さんは、談春さんにとって、とても羨む優等生の様な存在。

それに比べ、ズッコケ4人組の様な談春さん達は、師の想いを違えて、何度も非行に走る落第生グループ。

その不肖な弟子に頭を抱え、日々、悩み、叱りまくる談志師匠について記した、たくさんのエピソードからは、談志師匠の声が実際に聞こえてくる様で、改めて師弟の峻厳さを学ばせて頂きました。

そんな、稀有な師匠に、芸だけでなく、人間そのものを磨き鍛えられた立川家の門下生は、とてもユニークな落語家が揃っています。

中でも、古典落語を現代風にアレンジした「改作落語」で有名な『立川談笑』さんの落語が、初心者にオススメです。

談笑さんは最近、フジテレビ系のワイドショー「とくダネ!」に、レポーターとしても活躍されておりますので、機会ございましたら是非、ご覧くださいませ。


$ひろどんの歌声日詩♪


PS.
もしも、誰かに弟子入りするならば、談志師匠の親友『毒蝮三太夫』さんを選びます。

「皆さまのご多幸と、ここに居ないヤツらの不幸を願って・・・」の毒舌口上で有名なマムちゃんは、ワテにとって私的人間国宝です。

でも、ちょいと怖そうですが…。

(;^ω^)