外車のミッション交換作業中。
注文した中古のミッションが、4WD車用ではなくFF車用と判明し、これまで使っていた4WD車用ミッションから部品をリプレースする事に。
大きくて重い。
それでいて精密な部品がある。
オートマオイルが漏れこぼれ、手はオイルまみれ。
慣れない作業だから、部品の付け忘れなど、何度かやり直し。
土曜夜。ため息をつきながらの作業。
そんな時、車検証を手にした男性が来社。
聞けば、軽トラで高速を走っていたら突然ベルトが切れたらしく、椅子の下から激しいバチバチ音。慌てて仙台港北インターで降りたらしい。45号線に出て、どこかに整備工場はないかと探していて、うちに飛び込んできたとか。
大崎市の田尻まで帰る途中だったという。
田尻・・・ここから直線で30km以上ある。
本当に困った様子。
自動車整備士は、お客さんの「困った」を解決してナンボ。まずは見てみる事にした。
運転席シートを外してみると、ベルトが切れる寸前。糸一本でようやくつながっている状態。
オルタネータ(発電機)はどうにか回っているが、これでは遠からずバッテリーが上がってしまう。
オルタネータをスライドさせてベルトを張る構造なのだが、張れる限度目一杯までスライドされている。
「何かしました?」と尋ねると、前日に知人がベルトを張り直してくれたという。
それだ。
ベルトを張るのはいいが、これでは張り過ぎ。
新品のベルトならば初期延びを考慮して強く張り、ある程度走行したベルトなら張りすぎない。
その力加減は経験を積んだ自動車整備士でないと分からない。
原因はさておき、問題を解決せねば。
昔のスズキキャリィだから、エアコンコンプレッサやパワステポンプはついていない。
オルタネータを回すだけのシンプルな構造。
その分ベルトが短いのだが、ここまで短いベルトは流石に在庫していない。
向かいのガソリンスタンド、お隣の整備工場を回ってみたが、どこにも在庫はない。
う~ん、困った。
ふと思いついて、いずれ直して売ろうと思っていた軽トラのベルトを見てみた。
同じ車だから、同じ長さのはず。
これを外して使ってもらおう。
問題の軽トラに、中古のベルトをつけてみる。
長さもバッチリ。張りもいい。
エンジンをかけると問題なく回ってくれる。
「古い車から外したベルトだから、行きつけの整備工場で新しいベルトに交換してけさい。」
地元まで帰れる程度にはできたが、あくまで応急措置。
部品も古い車から外した中古のベルト。
行きつけの整備工場で部品代と工賃を取られるだろうから、お金は頂かなかった
「いやいや、お金払うから」
「いいから、いいから」
「助けてもらってそうは行かないよ」
「それなら、今度近くを通ったら缶ビールでも置いてってけさい」
「いいのすか?ビールは何飲むのすか?」
「じゃぁアサヒで(笑)」
そんな会話を交わして、軽トラの男性は帰って行った。
助手席には息子さんと思しき中学生。
大人の粋なやり取りを見てくれたかな。
ゼニカネにならない仕事も、時には必要だからね。
そればっかだから、儲からないんだけど(笑)