ある日の稽古後の事。
熱心に通っている黒帯君。
去年卒業し,就職したばかりなのだが,業績悪化により失職。
今は職安に通う日々。
稽古に通ってくれるのは嬉しいのだが,いい若いもんが定職も持たずにいつまでもブラブラは感心しない。
私は彼に問うた。
「就職どうすんの?」
「まだ来まらないんです。とりあえず職業訓練校にでも通おうかと」
「職業訓練を受ければ就職はあんの?」
「いや~分かりません」
「失業保険は?職業訓練校を卒業するまでもらえるの?」
「あ~どうなんでしょ。」
これではダメだ。
言いたくはないが,ここは心を鬼にして言わなければ。
「道場に来るならまず,一社会人としてちゃんと自分を確立しないとダメだ。
『とりあえず訓練校』なんて意識ならば,道場へ来ちゃいけねえ。
訓練校では一番で卒業する,卒業したら何が何でも就職する,仕事は選ばない。
この位の意識を持たないとダメだ。
社会をナメるな。」
私の言葉が伝わったのかは分からないが,彼はうなだれながら帰って行った。
その日の食卓にて,嫁がズバリ言った。
「あの子の事がかわいいから言ったんでしょ?」
全くそのと~り。
熱心に通ってくれている門下生に対して,『道場へ来るな』なんて,道場長である私が言える訳がない。
それでもあえて言わなければならない私のこの気持ちを,家族に理解してもらえたのは救いだった。
日本の景気は最悪で,巷には失業者が溢れているという。
失職中の黒帯君が,晴れ晴れとして畳に上がる日が来ることを願うばかりである。