日本人が、いちばん日本らしいと感じるのが、お正月の時期でしょう。
のんびりまったりと家族でこたつを囲み、みかんの皮をむき、餅を焼く。
同じくイスラエル人にとっても、決して忘れることのできない行事が「過ぎ越し」です。
これらに多くの共通点があるので、考察にお付き合いいただければ幸いです。

過ぎ越しの起源は古く、イスラエル人がエジプトで奴隷状態から解放されたことを記念する祭りです。
神の命を受けてイスラエル人を導いたモーセは、エジプトの王であるファラオに、イスラエル人を解放するよう迫りますが、ファラオは簡単に承諾せず、さまざまな災いを受けます(出エジプト7章〜9章)。
多神教であったエジプトの神々は、イスラエルの唯一神ヤーウェに及ばないことを見せつけられ、ファラオの評判は落ち、国力は疲弊します。

最後にはエジプトに生まれた初子がすべて死ぬという、残酷な災いでした。
身分の高いものも、低いものも、家畜までも、神の使いによって、一夜のうちにことごとく命を奪い去られましたが、神からの提案を受け入れ、犠牲として捧げた動物の血を戸口に塗りつけた家の前は通り過ぎて、害を受けることはありませんでした(出エジプト11章、12章)。

神の加護と、その後エジプトを出て荒野で定住地のない生活を送ったことを思い起こすために執り行われた祭りであり、「パン種の入っていないパン」を7日間食べることとなっていました(出エジプト12:14〜18)。
年末に大掃除するのは、このパンを作るために雑菌を取り除く意図が大きかったのかもしれません。
パン種の入っていないパン…ただ小麦粉を水に溶いたものを焼いただけの、薄っぺらい、味気ない、堅い食べ物を口にしたことがあるでしょうか?
きっと食べにくいものです。それに犠牲として捧げた動物を焼いた肉と「苦菜を添えて」食べる(出エジプト12:8)ことになっていました。

この無酵母パンはマッツォと呼ばれています。
日本では麦のかわりに米が使われたのでしょう、正月に食べる餅が、これにあたります。
苦菜は七草粥でしょう。ナズナやハコベは明らかですが、スズナはノビル、スズシロは野菊とする地域もあり、雑草を食べ荒野で暮らした貧しい日々を思い起こすように勧めているのです。
肉のかわりに、おせち料理では鯛、ブリ、海老などが伝統的に入っていますが、肉よりも海産物が入手しやすい日本の環境に対応したものでしょう。

そしておせち料理ですが、今でこそ豪華に飾り付けたものを取り寄せる高級食のイメージがありますが、もともとは各家庭で年末のあいだに作り置きするものでした。
しっかりと火を通したもの、豆や根菜など煮崩れしにくいもの、酢を使ったものが多く入り、主として「日持ちする料理」となっています。
それを重箱に収め、コンパクトに持ち運びできるよう、風呂敷に包んでまとめる。
エジプトから出発する時に持って行った、お弁当をイメージさせます。

思いのほか長くなりました。 その2に続きます。