WBOタイトルマッチだったのに

ニューヨークのマジソンスクエアガーデンで先週土曜日31日(日本時間1日)WBO世界スーパーライト級王者テオフィモ・ロペス(米)に大差の判定勝利を飾り4階級制覇を果たしたシャクール・スティーブンソン(米)には内外メディアから絶賛の声が寄せられている。

これまでも「ハマると誰もシャクールには敵わない」と言われていたが、退屈な試合を演じて評判を落とすことも一度や二度ではなかった。だがロペス戦のスティーブンソンは常にリング中央にポジションを取りながら攻撃的な姿勢を貫いた。8ラウンドにロペスが反撃に転じる場面があったものの、サウスポーから放つ右ジャブを生命線に強敵を打破してみせた。




プロキャリア最高と思われる、とび切り上等なパフォーマンスを披露したスティーブンソンはフェザー級(WBO)、スーパーフェザー級(WBC&WBO)、ライト級(WBC)に続く世界王座に君臨した。

挑戦者としてリングに上がったスティーブンソンはWBCライト級王座を保持してロペスに挑んだ。これはWBCに限らず他のWBA、IBF、WBOにも共通するが、タイトル認定団体はレギュレーションで、一人のチャンピオンが同時に2つのベルトを保持することを禁じている。通常、2つ目を獲得後、10日以内にどちらを返上するか決断しなければならない。

ところがロペス戦から4日後の4日(日本時間5日)スティーブンソンからの回答を待たずにWBC(世界ボクシング評議会)は彼のライト級王座をはく奪した。おそらくスティーブンソンはスーパーライト級でキャリアを進めると思われるが、状況次第ではライト級へUターンしてビッグマッチを模索するオプションがあった。しかもロペス戦はWBO(世界ボクシング機構)のタイトルマッチで、WBCは関与していない。不可思議なはく奪処置に関して他ならぬスティーブンソンがX(旧ツイッター)で理由を説明した。


認定料未払い


それによるとWBCがスティーブンソンに今後どの階級で戦うか決断する時間を与えなかったのは、10万ドル(約1550万円)のタイトル認定料を支払わなかったせいだという。それにしてもWBOのタイトルマッチでWBCに承認料を払わなければいけないとは理解に苦しむ話だ。スティーブンソンは「俺がロペスと対戦するためにWBCに6桁(10万ドル単位)の金額の手数料を払う正当な理由はなかっただろう」とコメント。

さらに「WBCはこの試合と全く関係なかったのにボクサーを食い物にしている。ベルトはいらない、持って行け。俺には関係ない」と語気を強めた。





WBCとのトラブルと言えば、5階級制覇王者で12月に現役引退をアナウンスしたテレンス・クロフォード(米)のケースがある。クロフォードは昨年9月にサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)を明白な判定勝利で破りスーパーミドル級4団体統一王者に就いた試合で、WBCから請求された30万ドル(約4650万円)の認定料の支払いを拒否。理由は他の3団体と比べて高額過ぎるというものだった。その時クロフォードはWBCの役員は選手から徴収した金で、飛行機のファーストクラスで旅行しリッチな暮らしに明け暮れているとあからさまに批判。マウリシオ・スライマン会長を骨抜きにするような発言をして去っていった。

スティーブンソンはクロフォードの親友、弟分という関係にある。自分も同類だという認識をしている。「いったい何のためにアイツらに10万ドルも払わなきゃならないんだ?アイツらがバド(クロフォードのニックネーム)と揉めているからといって俺に文句を言いに来るのか?」

WBCはスティーブンソンにはく奪処置を講じるにあたり「ルールとレギュレーションを適用した。我々は歴史的に非常に良好な関係を維持してきた」とプレスリリースで記している。確かにそうかもしれないし、錯乱、暴挙だとは言い切れないかもしれない。またクロフォードとスティーブンソンのケースでタイトルを失った日本人選手はいない。それは日本のボクシング界の盤石さ、優秀さの証明と言えよう。彼らはタイトル承認団体に対して反抗的過ぎるとも受け取れる。






マウリシオ・スライマンWBC会長(写真:REX/アフロ)

ベルト販売店

それでも以前、WBC王者に就いたある日本人選手は週刊誌のインタビューで、「チャンピオンベルトは贈呈されるのではなくて金を出して買わなきゃならないんですよ」と不満そうに明かしていた。ベルトの値段は認定料よりは安いだろうが、商売の一つのような気がしてくる。

実際に暫定王者を乱発するWBA(世界ボクシング協会)は「ベルト販売店」と揶揄されている。WBAは何かにつけて地域タイトルも新設して承認料稼ぎに忙しい。挑戦者決定戦という手もある。その傾向が最近WBCにも伝染しているから始末が悪い。ヘビー級とクルーザー級の間に設けられたブリッジャー級を含めた18階級で、今7階級で暫定王者がいる異常事態に陥っている。





フルトン戦の醜聞

中でもスキャンダルになったのは12月、米テキサス州サンアントニオで行われたオシャキー・フォスターvs.スティーブン・フルトン(ともに米)。日本で井上尚弥(大橋)にストップ負けしたものの、WBC世界フェザー級王者に就き2階級制覇を果たしたフルトンが3階級制覇を狙ってWBC世界スーパーフェザー級王者フォスターに挑む設定だったが前日の計量でフルトンはリミット2ポンドオーバーで失格。しかしWBCはこのカードを急きょ、1階級上のWBCライト級暫定王座決定戦として認定したのだ。試合は不調のフルトンをフォスターが圧倒し判定勝ち。


ひとまずWBCライト級暫定王者に就いたフォスターは結局、スーパーフェザー級へ戻りキャリアを進める決断を下した。一方で1月10日ドイツでゴングが鳴ったハイディエル・エレラ(キューバ)vs.リカルド・ヌニェス(パナマ)もWBCライト級暫定王座決定戦として行われ、23歳のエレラが8回TKO勝ちで戴冠。一時は暫定王者が2人生まれるカオス状態になった。

ボクシングの危機

メキシコシティに本部があるWBCは国連の加盟国数に迫るほどの国が加入している最大のタイトル承認団体である。ちなみにIBF(国際ボクシング連盟)の加盟国は30ヵ国そこそこだ。組織として大きな違いがある。WBCは先代のホセ・スライマン会長(マウリシオ氏の父)が世界タイトルマッチのラウンド数を事故防止の観点から15回戦から12回戦へ移行し、健康管理の目的で当日計量から前日計量へと変えた。先代の功績は大きく、4つある団体のうち「WBCのグリーンのベルトを巻きたい」と願うボクサーは絶えない。

とはいえ、上記のような事態が続くと権威の失墜が心配される。数年前にはWBOを除くWBC、WBA、IBFが協力して業界を活性化させ、統一チャンピオン誕生を促進しようという動きがあったが、いつの間にか消滅してしまった。メガファイトの時に話題を提供する豪華ベルトや特製ベルト贈呈だけではファンは振り向かない。4団体が一致団結して各階級で真の統一チャンピオンをつくる努力をしないとボクシング界は危ない。