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兎に角、僕は文字打ちに専念した。
押し溢れ返る感情を殺すには最適だったからだ。
…家に帰りたい。只それだけだった――。


のろのろと流れる景色にはすべて思い入れがあった。
僕らのホーム・タウンだ。


大阪等ど嫌いだ。大嫌いだ。
すぐにでも、この街に帰りたいのだが、まだそういうわけにもいかない。
まだ許された答えをもらえないのだ。
物事には必ず時効が有る。
遅かれ早かれやがては訪れる。そう言い聞かせてもう5年経つ。
僕らはまだ、経由駅の数さえ明かされないままゆらゆらと漂っている。
断じて言えるのは、どの方向に出された答えでも、終着駅は決して明るいものではない。


山から降る、一億のガラスのカケラの街。僕はこの街に帰りたい。


眠りについた引き出しを傷つけること無く、まだきみにも残っているのだよと教えてくれる。異人が作ったガス灯が燈る街だ。


平和ボケとはまた異なる、暴発的な気持ちが起こりやすくなっている。
自分の置かれた恵まれた状況を自ら掻き乱し、敢えて濁流を施すように。
透き通る水の入った黄色のバケツに、初めて灰色の絵筆を水差す感覚だ。


アルバイトの掛け持ちで構わない。体力と弱点を最低限クリアできるなら職種に贅沢は言わない。足りない知識は努めて習得するよ。
どうかこの街に帰りたい。


帰りたい。


県境を越える。


橋1本でこうも違うものなのだろうか。


がむしゃらに仕事をこなすことに純朴な頃はよかった。
何にもわからないままがよかった。


人の闇など、無い筈も無く、辛酸を舐めるばかりだ。そんなこと、地域や性別に関わり無く有るものだと熟知した上で、
僕は大阪が嫌いだ。