(政策コンサルタント:原 英史)
コロナ第2波に対し、安倍内閣は無策を続けている。
私はこれまで、コロナ関連で過剰に不安を煽り、何でも政権批判に結び付けようとするマスコミ報道を批判してきた。無闇な批判をするつもりは毛頭ない。だが、今の政府の対応は理解不能だ。
(参考記事)こんなにある、PCR検査を巡るフェイクニュース
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60411
「心配ない」と納得できる説明はないままに、Go Toキャンペーンの開始、入国管理措置の緩和拡大など、経済のアクセルを踏み込むメッセージばかりが伝えられる。
もはや経済優先と心を決め、感染防止は未解明のファクターXか神風を信じることにしたのだろうか。学者の問題提起なら有為かもしれないが、政府としてはあり得ない対応だ。
「4月と状況が違う」はまやかし
そもそも政府は、現状を「第2波」と認めていない。「4月とは状況が大きく違う」と強調する。
「感染状況の拡大を十分に警戒すべき状況にはありますが、検査体制の拡充や医療提供体制の整備が進んでいること、感染は主に若い世代の中で広がっており、重症者が少ないことなどを踏まえると、4月の緊急事態宣言時とは大きく状況が異なっています」(7月22日新型コロナウィルス感染症対策本部での安倍首相発言)
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202007/22corona.html
だが、この安倍首相の説明はまやかしだ。たしかに、検査数が大幅に増え、単純に数値を比べられないことはそのとおり。30歳代以下の比率が高いこともそのとおりだが、東京都のデータをみれば、特にリスクの高い60歳代以上の感染者の絶対数は4月の緊急事態宣言時に近づいている。
「重症者が少ない」ともいえない。人口呼吸器装着数をみれば、これも4月はじめと同水準に達している(なお、東京都の重症者数データは4月末まで出さいていなかったため、日本COVID-19対策ECMOnetのデータに基づく)。
これらのデータ上、「4月の緊急事態宣言時と大きく状況が異なる」とは到底いえない。
© JBpress 提供
東京都 新規感染者数(60歳代以上)と重症者の推移(出典 感染者数:厚労省および東京都の公表資料より
人工呼吸器装着数:https://crisis.ecmonet.jp/ (一週間の最終日の装着数)
専門家を無視する政府、機能不全のマスコミ
新型コロナウィルス感染症対策分科会の専門家たちは、さすがにこんないい加減な説明はしていない。マスコミではあまり報じられないが、7月22日の会合では、感染症専門家メンバーによる分析と提言が示された。
・発症日ベースで分析すると、現状は爆発的な拡大状況ではない(東京都の感染者数は7月初旬に概ね横ばい)、
・ただ、減少はしておらず、このままでは漸増が見込まれる、
・減少に転じさせるには、早急な対策が必要、
との内容だ。
(参考)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/corona3.pdf
© JBpress 提供
【図2】現時点で早急に取り組むべき対策:政府への提言(新型コロナウイルス感染症対策分科会資料より)
重要なのは、感染を抑えるため「現時点で早急に取り組むべき対策」を提言したことだ。具体的には、3密回避など注意喚起の徹底、特に若年層への効果的な情報発信、クラスター封じ込め、場合により夜の街への積極的介入(休業要請など)などが挙げられた。会合後の会見で尾身茂会長は、「政府には明日から具体的アクションをとってほしい」と求めた。
ところが、この分科会提言を政府は事実上無視している。本来ならば、安倍首相が緊急会見を開き、国民(特に若年層)への呼び掛けを行うべき局面だが、翌日も翌々日もなされていない。ぶら下がり取材や西村大臣の会見で若干のメッセージは出されたようだが、それでは国民にほとんど伝わらない。
その中でGo Toキャンペーンのスタートだ。ブレーキを踏むべきタイミングでわざわざアクセルを踏んでいるのだから、これはあり得ない。旅行自体が感染リスクを高めないとしても、国民には逆のメッセージを伝えてしまう。分科会の専門家たちも本音は反対だったものと思うが、政府に利用され、“お墨付き”を与えたことにされてしまった。提言を無視されるばかりか、暴走の責任まで押しつけられる専門家の方々は、本当に気の毒だ。
こんな政府の迷走を前に、マスコミの追及は甘い。「新規感染者数が過去最大」といった数値には飛びつくが、政府のデタラメ説明や対応ぶりを厳しく追及はしていない。「このままでは大変なことに・・・」といった危機感の熱量も、3月頃の報道と比べて随分下がった印象だ。これは、国民に広がる「もう自粛は懲り懲り」との空気を感じ取っているためだろう。再度自粛の旗を振ることは避け、どっちつかずの様子見を続けている。結果的に、マスコミが内閣の失政を幇助している状況だ。
緊急事態宣言発令とGo To停止を
政府が無策を続けるのは、再び経済を止めるわけにいかないと躊躇しているためだろう。しかし、無策を続けるうちに状況が好転する保証はない。
今、政府がやるべきことは2つだ。第一に、国民に伝わるよう明確に、感染防止のブレーキを踏むことだ。それには、緊急事態宣言の発出がわかりやすい。国民に「要警戒局面」とのメッセージを伝え、同時に、特措法上の強力な措置も可能になる。都道府県知事が事態に応じてすぐ動けるよう、いわばスイッチを入れておくのだ。
経済活動を再びストップすべき、と主張しているのではない。ブレーキの踏み方はさまざまだ。「8割削減」のような急ブレーキもあれば、より緩やかな手法もある。これまでの経験を踏まえ、もっと賢いブレーキの踏み方も考えられる。
先に触れた分科会提言でも、別の手法が示唆されている。現実に生じている感染の多くは、夜の街や会食などでの飛沫拡散が原因だ。それなら、例えば飲食店で会話する際にマスク着用を徹底したらよい。実際に身の回りでも、会話するときに限ってマスクを外す光景はしばしば目にする。リスクの所在は分かってきているのだから、ピンポイントの対策で効果は期待できる。再び全員外出自粛や一斉休業を繰り返すのでなく、経済活動と両立するピンポイントの対策を練ればよい。
第二に、Go Toトラベルはいったん停止すべきだ。要警戒と旅行推奨のメッセージは両立しない。また、医療資源の乏しい地域に感染を広げてしまう危険もある。感染の広がる今、進めるべき施策ではない。
もちろん、観光業の多くにとってこの夏が瀬戸際であることはわかる。だが、Go Toをこのまま続けても、観光業は救いきれない。インバウンド客が消え、東京発着も除外された中、Go Toはそもそも需要の相当部分をもがれた片翼キャンペーンだ(延べ宿泊者数ベースでは、インバウンド需要が19.4%、東京発が15.6%。東京着も加えれば需要の約4割)。しかも、感染の広がる中で、残る需要の喚起もおぼつかない。無理やり続けるより、いったん停止し、別の支援策への転用も含め再検討したほうがよい。観光業を巡っては地域差も大きい。近隣圏内で需要喚起が期待できるところも、そうでないところもある。地域の状況に応じ、柔軟な支援策を可能にしたらよいと思う。
© JBpress 提供 宿泊旅行業のインバウンド依存と東京依存