アベノマスクを皮肉る投稿(主催者男性のインスタグラムより)

「まるで生理用ナプキンみたいなシロモノだ。ありがとうアベ(Shit look like pad for women's menstruation. Thanks Abe)」

 

 

 6月12日、写真投稿アプリ「インスタグラム」に投稿された動画に添えられたコメントだ。動画では、ドレッドヘアにひげ面のアフリカ系男性が市販の医療用マスクよりも小ぶりな白いマスクを身につけて笑っている。

実に皮肉たっぷりなインスタ投稿

 男性が身につけるのは、いわゆる「アベノマスク」である。新型コロナウイルス対策として、安倍晋三政権が全国民に配布したガーゼ製の布マスクだったが、「もっと先にやるべきことがあるのではないか」などと非難が相次いだほか、異物混入による回収騒ぎや事業の受注先の選定についても疑惑が浮上するなど、いわくつきのアイテムだ。

 

 こうした事情を知っているのか、「アベノマスク」について実に皮肉たっぷりなインスタ投稿をしたのは、沖縄在住の米国人男性だ。

 

 実はこの男性、米軍基地内での大規模な新型コロナ感染拡大が明らかとなり、「流行の第二波」への警戒感が急速に高まっている沖縄で渦中の存在となっている。

「『米軍基地内でクラスター(集団感染)が発生した疑いがある』との情報が浮上したのは7月10日ごろのことでした。米軍基地で働く軍雇用員らの間で噂が広がり、11日になって米軍が『米軍人、軍属など63人に陽性疑い』などと関係者にメールで注意喚起して一気に情報が広がった。その日のうちに県が会見を開き、米軍基地で複数の感染者が確認されたと正式に発表したのです」(地元関係者)

 

 その後、米軍基地内での感染は日を追うごとに拡大し、7月15日時点で136人に達した。感染者の分布も県内の基地各所に広がっており、県北部の金武町、宜野座村など4自治体にまたがる「キャンプ・ハンセン」、県中部の極東最大規模の「嘉手納基地」、同じく中部の「普天間飛行場」、「キャンプ・マクトリアス」、「キャンプ・キンザー」で感染者が確認されている。

大音量のダンスミュージックが流れる屋外イベント

 在沖米海兵隊も、7月15日までに数十人規模の感染者が確認されている「普天間飛行場」と「キャンプ・ハンセン」でクラスターが発生しているとの見解を示した。沖縄に赴任する兵士へのPCR検査を徹底していなかったことが原因の一つとみられている。

 

 このクラスターとの関連が囁かれているのが、6月から7月にかけて米軍基地内外で開かれ、米軍関係者ら数百人が参加したとみられる野外イベントだ。

大勢の参加者が密集し、大声を上げてらんちき騒ぎ

 そして、これらのイベントを主催したとみられているのが、冒頭で紹介した米国人男性なのである。

「イベントは6月13日に普天間飛行場に近い県中部の中城村、米国の独立記念日の7月4日には米海軍の港湾施設『ホワイト・ビーチ』を抱えるうるま市でそれぞれ開かれました。事前告知のためのフライヤーには『ビーチバーベキュー』などと銘打たれていましたが、大音量のダンスミュージックが流れる屋外でのクラブイベントのような形で数百人が参加しました」(県政関係者)

 

 イベント参加者がSNSにイベント当日の様子を映した動画を投稿しているが、そこには大勢の参加者が密集し、大声を上げてらんちき騒ぎを繰り広げる様子が映し出されている。

 

 米軍は、このイベントに参加した米軍関係者から多数の感染者が出ていることから、「三密」状態だったイベントがクラスターの発生源となった可能性が高いとみているという。

近隣住民から騒音被害が訴え出られたことも

 イベントには米軍関係者のほかに日本人の参加者もいたとみられる。基地外にウイルスが拡散する危険もあったわけだが、イベントにからんでトラブルも続出していたという。

「7月4日にうるま市で開かれたイベントでは海沿いの埋め立て地にある公園で開かれました。イベントを行う場合には公園の管理事務所に届出が必要ですが、そうした手続きは取られていませんでした。イベントは日中から夜にかけて6時間ほど実施され、その間に近隣住民から騒音被害が訴え出られたこともありました。6月13日の中城村のイベントは、商業施設の近くで行われましたが、イベント参加者が出した大量のゴミが放置されていて、施設管理者から強く注意を受けたそうです」(地元の基地関係者)

「間違っていたという指摘は受け入れる」

 新型コロナに対する米軍の対応をめぐっては、これまでも県内で不満の声が上がることが少なくなかった。米軍では、半年ごとの人事異動で部隊の入れ替えが行われるため、米国本土からウイルスが持ち込まれる危険性が指摘されていたほか、米軍が感染者数や感染経路についての情報公開に消極的だったことも、不信感を増大させる一因となっていた。

 

 感染拡大が収束しない中で行われた問題のイベントが、コロナ禍で過敏になっている県民感情をさらに逆撫でする格好となってしまったわけだ。

 

 渦中のイベント主催者の男性は、7月14日に地元紙「沖縄タイムス」の取材に応じて、「油断だった。(イベント開催は)間違っていたという指摘は受け入れる」と釈明している。この取材で、2014年に海兵隊を退役した元米兵であることや、退役後に県内で暮らし、イベント企画を手掛けたりしていることを明らかにしている。

基地内で感染が広がることには神経をとがらせても

 男性によると、今回の件で日本と米国双方の保健当局から接触はないとし、「信頼できる筋からイベントでの感染者はいないと聞いている」とも明らかにしているが、今後、米軍内で感染者がどれほど増えるかは不透明だ。

「軍事機密と自前の兵士らのケアを優先する米軍にとって、県民の健康は二の次です。コロナの感染が基地内で広がることには神経をとがらせても、基地から基地外にウイルスが広がるリスクにはそれほど過敏になっていないように感じます。

 

 兵士の行動を制限せずに安易に基地外のイベントへの参加を許したことからも、リスク軽視のそしりは免れません。米軍は、これまでにも事件の容疑者となった米兵の身柄引き渡しを日米地位協定を盾に拒否するなど、県や県民を軽んじる対応を繰り返してきましたが、今回もその体質が浮き彫りになったといえるでしょう」(先の地元関係者)

 

 普段から米軍人・軍属の事件や事故が絶えない沖縄。県民は、日頃の鬱憤とともにコロナ禍での身勝手な行動への怒りも募らせている。

(文春オンライン/安藤 海南男)