24時間営業の廃止を決めたすかいらーくの本社(撮影:東洋経済オンライン編集部)

 すかいらーくグループが2020年4月までに現在約150店舗ある24時間営業を全店廃止すると発表しました。ファミレス業態では2017年にロイヤルホストも全店舗で24時間営業を廃止しています。これらの変化は働き方改革のトレンドに沿ったものだと報道されています。

 

 さて働き方改革が理由であるというのであれば今後、24時間営業の廃止は他の業界へも波及していくのでしょうか。少子化の影響で深夜ニーズが減少していくことは事実なので長い目で見ると終日営業業態が縮小していくことは長期トレンドではあるのですが、ここ5年以内といった単位でみると実は24時間営業廃止の波は限定的だというのが私の見方です。

 

 その背景にはファミレスの24時間廃止には3つの「時代のニーズの変化」という特別な事情があるからです。「SNS」「飲酒運転の撲滅」、そして「企業のコンプライアンス強化」です。

 

 今後の予測としては、

 1 この数年で急速に終夜営業のファミレスは消えていく

 2 コンビニなど他の24時間営業業態はそのまま営業体制を維持していく

 

 という話だととらえてもいいでしょう。なぜなのでしょうか。

 

 念のために先に断らせていただきますと、今回の記事は時代の変化を書く関係で現在では完全にコンプライアンス違反な話が必然的に出てきます。それを懐かしがってはいるものの決して推奨しているわけではまったくないのでそこはお間違え無きようにお願いします。

 

 

当初のセブン-イレブンは夜11時に閉まっていた

 そもそも24時間営業のファミレスが登場し、一大社会現象となったのは1970年代です。この時代がどういう時代だったのかというと、そもそもコンビニは夜閉店していた時代です。

 

 おそらく20代以下の読者の方はイメージがわかないと思いますが、当時のセブン-イレブンは名前の通り夜11時に閉店するチェーン店だったのです。開店は朝7時から。だからセブン-イレブンなのです。それでも大半の日本人はその時間サイクルの中で活動していたのと、他の小売店は午後6時から8時の間に一足早く閉店していたので、11時まで営業しているセブンイレブンは「開いててよかった!」と消費者が喜んだ。そんな時代でした。

 

 それで当時20代だった私のような若者が深夜時間をつぶすとした場合、集まりやすくて人気なのは圧倒的にファミレスだったわけです。都心なら他にボウリング場とディスコ、郊外なら友人の家に集まって徹夜麻雀。それ以外は深夜に出かける場所などない。携帯もないのであとは家にいて中島みゆきのオールナイトニッポンでも聞く以外に時間のつぶし方はなかったのです。

 

 そしてボウリング場は体力的に、ディスコは警察の指導で、麻雀はファミコンに娯楽の主役を奪われるという流れでそれぞれ廃れ、深夜の居所の王様として最後まで残っていたのがファミレスだったというのがこの当時の深夜についてのおおまかな流れです。

 

 一方で1990年代から2000年頃になると深夜に行動する日本人は急増していきました。1980年頃と比較するとコンビニやカラオケボックス、居酒屋、ドン・キホーテなど深夜に出かけられる場所が当たり前のように増えたことで、それまで社会制度的に抑え込まれていた「深夜でも活動したい日もある」という人間のニーズがこの時代に一気に表面化したわけです。

 

 私も経験がありますがこの時代、コンサルティングファームの下っ端同士で上司が帰ったオフィスで深夜0時ころまで「ああでもない、こうでもない」とデータと格闘していてだんだん頭が倦んでくると、お互い別のプロジェクト担当なのですが「ファミレスに行こうか?」という話になったわけです。

 

 

ファミレスがあったからやっていけた面も

 「なんで俺たちだけこんな時間まで働かなきゃいけないんだ」という同じ悩みを抱えた20代コンサル3~4人でタクシーに乗って東陽町あたりのファミレスに行って、そこで午前3時くらいまでストレスを発散して、そのあとタクシーで自宅に戻る。考えてみればファミレスがあったからやってられない仕事もやっていけたのかもしれません。

 

 深夜のファミレスには結構さまざまなお客さんがいたものです。なぜか記憶に残っているのが接待の反省会とおぼしきメーカーの営業マン3人組。たぶん1次会が高級料理店で2次会が銀座のクラブ。そこで接待相手にタクシー券を渡して見送って、深夜1時に私たちと同じ東陽町のファミレスに3人でたどり着いてそこで隣の席の私たちにも詳細な状況がすべて筒抜けで耳に入るぐらい綿密で熱の入った反省会を行っていたわけです。1990年代中盤の話です。

 

 「24時間働けますか?」が流行語になった時代でもあるのですが、さすがに私もその人たちも24時間は働けません。それで私もなんどかお世話になったのですが、深夜残業で体力的にきつくなると午前中に上司にレポートを手渡したあと、仮眠ができる場所に向かうわけです。今のようにインターネットカフェがそこらじゅうにあるわけではないので行先といえば水道橋のサウナしかない。

 

 都心でもそれほど昼間に仮眠できる場所がなかった時代です。サウナに行くとそこはワンフロアーが広大な仮眠室になっていて、そこにはおびただしい数の企業の営業マンがいる。終夜営業を強いる企業においては、そういったサボりを容認する清濁あわせ呑む優しさが普通にあった時代です。

 

 さて、ファミレス黄金期のそのような古き良き時代は3つの時代の変化によって消えていくことになりました。

 

 ファミレスがなぜ廃れたのかということについては「携帯電話に需要を奪われた」という側面が強くあります。ファミレスも携帯もどちらもコミュニケーションツールという意味で同じ土俵の商品サービスだったわけです。

 

 ただファミレスが廃れるのにあたっての携帯の影響はそれほどシンプルではありません。携帯が急速に普及した1990年代後半から2000年代前半にかけてはむしろ携帯のおかげでファミレスの深夜需要は増えたはずです。理由は会いたい相手を容易に呼び出すことができるようになったからです。

 

 確かにこの時代、深夜に携帯が鳴ってかけつけてみたらファミレスに何人か知った顔が集まっているというシチュエーションはそれなりに新しい体験で、それがちょっとした楽しみでもありました。しかしその楽しみの醍醐味はファミレスではなくコミュニケーションこそがあくまで主役。そのコミュニケーションのおもしろさが2010年前後に急速に普及したSNSに主役を奪われていくことになるのです。

 

 

とどめを刺したのはおそらくLINE

 その意味でファミレスの24時間営業にとどめを刺したのはおそらくLINEだというのが私の認識で、この点はそれほど間違っていない洞察だと思います。

 

 一方で3つの要因のうち一番早く、ファミレスの深夜需要を削っていったのが飲酒運転規制です。この時代、悲劇的な交通事項がいくつも大きく報道され、それまでの社会で黙認ないしはスルーされていた「仲間の酒気帯び運転」について、一緒に騒いでいる友人たちも同罪である形に法律や社会ルールが変更されました。

 

 現実に深夜に集まって口にしたいものはアルコールであるということと、首都圏でいえば山手線の内側ないしはターミナル駅周辺以外であればファミレスは通常ロードサイドで営業しているということを考えると、2000年代あたりまでのファミレスの深夜需要にアルコールが含まれていたのは事実でしょう。もちろん、飲酒運転は極めて危険な行為であり、絶対に許されるものではありません。

 

 深夜にファミレスにたどり着くころには仲間の大半はソフトドリンクに移行している時間ではあるのですが、とはいえ「飲んじゃいけないから俺さきに帰るわ」というメンバーが出始めたころから、私の周囲でも深夜のファミレスニーズがだんだんと衰退していったように感じます。

 

 そしてもうひとつの要因が企業のコンプライアンス強化。だらだらと残業させない、帰ることができる人から順番に帰るといった指導に加えて、ファミレスのような公の場で仕事の話を大声で話してはいけない(いまでは当たり前ですが当時はこれが当たり前ではなかった)とか、ファミレスに仕事を持ち込んではいけないといった具合に、オフィスの外も仕事の延長といったワークスタイルが公的に否定される時代になったのも大きかったと思います。

 

 

働き方改革の時代にもそぐわない

 結局、オフィスの外に出てグループで仕事の話をする機会は極端に減少し、その需要はスタバでノートPCに向かって個人がグループSNSに向かって行うような形式へと変容していきました。

 

 こうして徐々にファミレスの深夜需要が衰退していきます。需要が変容し衰退していったからこそ、この働き方改革の時代にファミレス各社の経営陣も「すでに24時間営業の時代ではないのではないか?」と問題をとらえ、その結論として全店での24時間営業を廃止する決断を下す時代が来た。これが今回の流れです。

 

 だからこそ私はこのファミレスの24時間営業廃止はあくまでファミレス業界の特別な事情がからんだ潮流であって、この潮流がコンビニやネットカフェ、深夜営業の居酒屋など他業界へ直接波及するものではないと考える理由です。

 

 もちろん少子化が進み深夜需要自体の大きさが縮小する未来では、そうなるのは2020年代後半だと思われますが、コンビニの24時間営業についてもいよいよ見直しが行われるようになるかもしれません。とはいえファミレスの24時間営業廃止はあくまでファミレス業界の中の話だと私はとらえているのはここで書いたような洞察からなのです。(東洋経済オンライン/鈴木 貴博)