特攻隊に選ばれた青年並木浩二の物語。
彼は海軍所属だったので、人間魚雷「回天」に乗ることになった。
脱出装置のない魚雷に乗り込んで敵の軍艦に突っ込む作戦ですよ。。決死ではなく必死。必ず死ぬ。
タイトルからしてズーンと重くなる
神風特攻隊のような華々しく散る感じはなく。。
暗い海の中での孤独な死が待っている。
それまでの並木は1人のふつうの学生で、高校時代は甲子園で投手として華々しい活躍をしてから大学の野球部に所属していた。しかし大学では腕の故障してしまい苦しみつつ練習を続け、オリジナルの魔球を完成させてまた返り咲きたいと夢見ていた。
前半の野球部の仲間とのキラキラした青春が眩しい
なんかね~、当時の学生って、どんな感じなのかな?日本が勝つことを信じきってたのかな?
と思ったんだけど登場人物の学生はけっこう様々。
日本がアメリカに宣戦布告したことは、あんな超大国に、大丈夫かな?って感じで言ってる人もいる。
戦争になる前は海外の情報や文化もモノも普通に入ってきてたしもう大学生だし世界の状況をよく知っている。
もちろん日本は絶対勝つ!と思っている人もいるけど。
段々と戦局が悪化するにつれ、彼ら学生も戦場へ駆り出されることに。
並木は洗脳されてお国の為に迷いなく志願したのではない。
死ぬのは怖いし軍人じゃないし戦場へ行きたくはなかった。野球をもっとしたかったけど野球部の仲間たちも志願するし、家族や好きな女の子を守る為に自分もなにかやりたいって気持ちだった。
そしてすごく迷いつつも特攻隊にも志願。周りの圧力というか空気感もあった。
特攻隊は、当然なのだが戦闘機に乗ったり改造した魚雷に乗るので複雑な操縦方法を理解し実際に操縦することが出来、また軍人のように身体能力のある人でないとなれなかった。選ばれるのは若く優秀な学生や軍人。
もったいないね。。
彼の上司の軍人たちは、特攻隊の彼らの修正(迷いなく自爆作戦を実行できるよう)という名目でとにかく殴る蹴るで辛くあたるのだが
読んでいて、じゃあ、あんたが行けよ!!と思ってイライラした
彼が特攻隊に選ばれて訓練を開始し出撃するまでの期間、複雑な心境の変化がありそれがとても人間らしくて良かった
最初は、死が決まってしまった訳だからひどく荒れてしまい実際に出撃はせずに逃げおおせたいと思ったり。。
現に初めての回天の搭乗訓練では、操縦が思うようにいかずに破損させてしまい、こんなことでは出撃は出来ないなんて思う。
操縦の上手い順から出撃するのだ。
しかし同じ特攻隊の仲間が出撃するのを見送ったりするうちにだんだん心が決まっていき、夢中で操縦訓練に打ち込む。
静かに死を受け入れる。
そんな日々でも彼はずっと隠れて魔球の練習をし続けた
必ず死ぬと決まっていたけどどこかでまた野球が出来ると心から信じていたのかもしれない。
どんな状況でも自分の心だけは自分の自由なのだ。。
彼の最期は敢えてあっさりと描写されていた。敵の軍艦へ突っ込むこともなかった。
むしろ誰も殺したくないと思っていた彼には良かったのかもしれない。
彼が回天というものの存在を後世に伝えたいと願ったことは叶ったのだ。
私は彼の訓練した場所(山口県かな?)、そして亡くなった海を観てみたいな、と思った。
読み終わったあとは、意外と爽やかな気分になれた
私の祖父も、百歳を越え、出兵したこともある戦争経験者。
どんどんと戦争の記憶は薄くなりますが、祖父の話を聞いたりすると本当にあった事実としてあるのです。身近な人が経験していて話を聞けるって凄いこと。
戦争を語ることが出来るひとも少なくなっていきますが、風化せずにいつまでも日本人の心にとどめておきたいな。
やはし戦争はよくない。平和を祈りたくなった夜でした