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映画「沈まぬ太陽」
★★★★:80点

先日、夫婦で映画「沈まぬ太陽」を観てきました。細かく見れば/言えば、色々とアラもあるし、注文をつけたいこともありますが、航空会社の協力が得られない中、山崎豊子の骨太の原作をよくぞ映画化したものだと思います。

【注:以下、大きくネタバレあり】

123便の御巣鷹山墜落事故の前後のシーンは、やはり涙なしでは見ることができなかった。搭乗前の家族や乗務員の心のふれあい、異常が発生し大きくローリングする機体の中でスチュワーデスたちが懸命に客席の間を移動して安心させようとする姿、機長たちの必死の操縦と「パワー!パワー!」という絶叫、そして、レーダーから消えた機影・・・。墜落現場の惨状、救出にあたる自衛隊員たちが生存者を見つけようと呼びかける声、かすかに動く指先・・・。現地へと急ぐバス車中の家族の姿、体育館に並べられた数百の柩、その間を最愛の肉親を捜してさまよい歩く人々、大きく乱れた字で家族への最後の想いを綴った父親の手帳を読み上げる息子・・・。絶句である。

NAL35周年の華やかな祝賀パーティのシーンと事故のシーンの対比が非常に印象的。また、家族を失った人々の悲しみと、その一方で責任逃れや社内抗争のために汲々とする経営トップの人間たちの浅はかさ、補償金のことのみを伝える世話係などには、こみ上げる怒りと共にあまりの無神経さにぞーっとする思いも。一応、フィクションであるとしているが、モデルの航空機会社は明白であり、綿密な取材で定評のある山崎豊子原作は、ほぼ正しい姿を描いていたのだろう。経営の危機に瀕している現在の状況を見ても、会社の体質などに問題を抱えたままだったことがうかがえる。山崎豊子はそれらも見通していたのかもしれない。

さて、演技に関しては、何事に対しても真摯であり、熱い心も持つ恩地・渡辺謙はまさにハマリ役。恩地元その人のような入魂の演技だった。行天・三浦友和は映画を観る前はどうかな?とも思ったが、上昇志向・権力志向が強く、邪魔な人間を蹴落としながら次第に昔の彼とは異なった人間になっていく、その嫌らしい感じが良く出ていた。組合書記長の八木・香川照之は相変わらず抜群のうまさ。その表情などには凄みすら感じる。女優陣では、三井美樹役の松雪泰子もまずまずでしたが、恩地の妻りつ子・鈴木京香が貫禄ありでgood.

ネットなどで不満点などが色々挙げられており、それはその通りだと思う。

 ・飛行機のシーンのCGのつたなさ、違和感
   ----これは航空会社の協力が得られなかったこともあり、やむなしか
 ・時間軸の分かりにくさ(現在と過去のシーンの行き来で)
 ・経営トップや政治家を演じる役者の貫禄不足、凄み不足
   ----現在、TVで放映されているドラマ「不毛地帯」の出演者とミックス
     すると、なかなか良さそうにも思ったが。
 ・説明不足と思えるシーンの多さ
   ----為替問題の幕引きの背景、八木はいつから・どのようにして
     行天の手先となったのか、恩地はいつ・どういった形で日本に
     戻ってきたのか
 ・国会(委員会)のシーンなどでの人の少なさなど、全体的に原作が持つ
  熱気やエネルギー、重厚さ・凄まじさ・壮大さなどがそれほど感じられず

                                     などなど

と言いながら、山崎豊子の原作を映画で/映像で見ることができたのは非常に良かったと思う(当然のことながらオープンロケ・セットであった御巣鷹山の事故現場の映像も含めて)。御巣鷹山墜落事故そのものをもっと長く、より鋭くあるいは感動的に描くことも可能であっただろうが、これらをあまりリアルに長く映像で見せる/見るのはちょっとつらいし、問題ありかもしれない。

1通のテレックスでカラチ→テヘラン→ナイロビといった僻地へ次々とたらい回しされる報復人事の凄まじさ、非常さ。あれだけ理不尽なことをされても会社を辞めない恩地が不思議でもあったが、日本で不当な扱いを受けている八木や沢泉といった組合の後輩たちのことを考えてのことだったのか?このあたりは、原作ではもう少し丁寧に描かれていた気がする。ラスト近く、行天が地検特捜部の事情聴取を受けることになるシーンは、行天に天罰がくだったかのような荒涼とした味わいあり。

山崎豊子の初期の作品は未読なのですが、「白い巨塔」「華麗なる一族」「不毛地帯」「二つの祖国」「大地の子」、そして「沈まぬ太陽」といった社会派とも言える作品群が持つエネルギーと底力の何とまあ凄いこと。これらの原作を未読の方はぜひ読破してください。