Issyunno1 一瞬の風になれ 第一部(講談社)
★★★★☆’:80~85点

本来、1~3を一気読みすべきでしょうが、図書館予約の関係でとりあえず1のみを読了。採点も全編を読み終えてから総合的に判断した方が良いのですが、読了直後の印象でこの点にしました。

Amazonでは本書を、”あさのあつこの「バッテリー」、森絵都の「DIVE!」と並び称される、極上の青春スポーツ小説”と紹介していますし、信頼度絶大の文藝評論家・北上次郎氏も確か”三大少年スポーツ小説”と称されていたと思います。また、エビノートさんのブログ・まったり読書日記では、「風が強く吹いている」・「Run!Run!Run!」と本書を読破すると“話題の陸上競技本、三冠制覇”(by藍色さん)となるそうです。面白いですね。

本作品が内容的にそれにふさわしい素晴らしい本であることに間違いはありません。しかし、超生意気&強気な天才ピッチャー(熱狂的ファンの方、失礼!)を主人公とする「バッテリー」、超マイナーな飛び込みという競技を舞台にした「DIVE!」、あるいは本書と同じくランニングを題材としながらも、なかなか個性的な「風が強く吹いている「Run!Run!Run!」と比べると、驚きや新鮮味といった点ではこの作品が一番少なかったかもしれません。キャラも、そうハチャメチャな人物がいないようで全体におとなし目です。90点をつけなかったのは、そのことも多少関係しているかも。

しかし、その分、一番ストレートで、オーソドックス&ピュアな青春スポーツ小説として理解しやすく支持されやすい作品かなという気がしました。ど真ん中の直球で勝負するのは作家にとっても度胸がいると思いますが、素晴らしい作品になっています。オーソドックス&ピュアな青春小説という点では、川上健一の「翼はいつまでも」と似たテイストも感じます。あれ?85点にはすべきかな?

さてさて、具体的な内容に関して、

短距離の練習方法(150m×3を3セットとか、実際のレースには無い300m走とか、(300m+200m+100m)×5セット など)になるほどなあーと思いました。ランニング仲間で元・短距離ランナーの240さんに以前、短距離の練習について教えて頂いたことがあるのですが、それとも似ていたと思います。

本作品で最高なのは何と言っても400mリレーの試合の描写!
これにはゾクゾクしました。私は陸上部の経験はないのですが、小学校6年生の時は学校代表でリレーを走ったこともあるので(レベルや規模が全然違ってお恥ずかしいですが・・・)、なんとなくの雰囲気も分かります。

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 とにかく、気がついたら連がいて・・・・・・
 気がついたら俺の手にはバトンがもうなくて。
 連が走っている。

 すげえ。速え。
 前のヤツとの差がぐんぐん詰まってる。
   (新二の初レース)
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 スタート。まるで火のついた花火を持っているみたいだった。
 早く、速く、速く、早く。
 渡した・・・という実感がないほど、そのバトンパスはスムーズだった。
 連が俺からバトンを吸い取っていったような感じがした。
 速い。
 やっぱり、あいつは速い。
 なんてキレイなんだ、走りが。

 「十回に一回」
 連は言った。
 「何?」
 「さっきのバトン」
 「ああ」
  (秋の新人戦地区予選)
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 「ハイッ」
 俺も叫んだ。連の左手がすっと水平に上がる。俺は右手を伸ばす。
 連の右手にバトンを押し込む。引っ張られる感覚で手を離す。
 バトンと共に連が消えていく。この瞬間が好きだ。

 あ、クソ、根岸とのバトンパスのところで遅れたか。
 とにかく、ネギ、頑張れっ。頑張れっ。頑張れっ。
 すっげえタイムが出るぞ、こりゃ。
 関東だ。おいおいおい。
 あっ・・・・・・。
 (新人戦県大会決勝)
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いやー、もう素晴らしいの一言です。緊張感、高揚感、興奮、感激、束の間の幸福感と絶望感などが短い文章に見事に凝縮されています。
やっぱり、リレーはトラック競技の花形ですね。必ずしも最速の4人を揃えたチームが勝つわけではない面白さ、バトンパスの緊張感、アンカーにバトンが渡るまでどのチームが勝っているのかなかなか分からないスリル。最高です。
そして今気づきました。新二のバトンパスがレースを重ねるごとに上手くなり、僅かですが余裕も生まれていってる!それを佐藤さんは、さりげなく、しかしキチンと描写されています。凄いです。

練習嫌いの天才スプリンター・一ノ瀬連。サッカーに見切りをつけた未来の大器・神谷新二(ユニークな顧問・”みっちゃん”こと三輪先生の折り紙つき)。400mが本職と言いつつ、4継にも抜擢された頑張り屋・根岸康行。心優しいヤツでもあります。

実力のある後輩のために予選を必死で走った3年生(岡林・島田)。クールな好漢、新キャプテンの守屋。みんな、輝いてるぞ。
女子部員の鳥沢圭子さん(元気娘)・谷口若菜さん(おとなしいが、芯はしっかり)、very good!です。
タイプの異なったライバル、鷲谷高校の仙波(巨漢の実力派ランナー、若菜が想いを寄せているため、新二とは恋敵?)、高梨(「バッテリー」の瑞垣とはまた異なったお喋りマシーン?)との勝負の行方はいかに。

やっぱり、素晴らしい作品です。部内恋愛禁止ですが、恋心ありのピュアな青春物語っていいですね。
2、3で果たしてどうなっていくのかな?
これは図書館の予約(推定:半年待ち)を待っているわけにはいきませんね。

◎参考ブログ:

  エビノートさんの”まったり読書日記”

*********************** Amazonより ***********************

  あさのあつこの『バッテリー』、森絵都の『DIVE!』と並び称される、極上の青春スポーツ小説。
   主人公である新二の周りには、2人の天才がいる。サッカー選手の兄・健一と、短距離走者の親友・連だ。新二は兄への複雑な想いからサッカーを諦めるが、連の美しい走りに導かれ、スプリンターの道を歩むことになる。夢は、ひとつ。どこまでも速くなること。信じ合える仲間、強力なライバル、気になる異性。神奈川県の高校陸上部を舞台に、新二の新たな挑戦が始まった――。

   3部作の第1作に当たる本書では、新二がシーズン(春から秋)の1年目を終えるまでが描かれる。競技の初心者である新二の目を通じて、読み手も陸上のいろはが自然と身につく構成だ。見事なのは、競技中の描写。新二が走る100m、200m、400mなどを中心に、各競技のスピード感や躍動感が迫力を持って伝わってくる。特に、本書の山場とも言える4継(4人がバトンをつないで合計400mを走るリレー)では、手に汗握る大熱戦が展開される。
   丁寧な人物描写も、物語に温かみを与えている。生き生きと描かれる登場人物たち、彼らが胸に抱えるまっすぐな想い。その1つひとつが、小説全体に流れる爽やかさを生み出し、読み手の心を強く揺さぶるのだ。
   何かに、ひたむきに打ち込むこと。風のように疾走する新二や連を追ううちに、読者は、重たい現実を一瞬だけ忘れ、彼らと同じ風になることができるのだ。(小尾慶一)

出版社/著者からの内容紹介
「速くなる」
ただそれだけを目指して走る。
白い広い何もない、虚空に向かって…………。
春野台高校陸上部。とくに強豪でもないこの部に入部した2人のスプリンター。ひたすらに走る、そのことが次第に2人を変え、そして、部を変える。「おまえらがマジで競うようになったら、ウチはすげえチームになるよ」思わず胸が熱くなる、とびきりの陸上青春小説、誕生。