百枚の定家(幻冬舎文庫)
★★★★:80点
上下2冊とかなりボリュームがありましたが、結構集中して短期間で読了しました。但し、読了してからお盆休みがあったりしてかなり日数が経っており、若干記憶がおぼろげです。
序盤は90点を狙える面白さだと思いましたが、次第に少し長いなと感じ出し、終盤の謎解き部分が今イチに思え、結局この点数に落ち着きました。最近、序盤は抜群に面白いのにそれが最後まで持続されない作品によく出くわします。本作も多少その傾向がありましたが、内容的には非常に興味深かったです。私は骨董や古美術の知識は殆どないので、特に後半、良く理解できない個所が色々あり、それが評価にも多少影響しているとは思います。
骨董や古美術などの真贋騒動・物語の部分は非常に面白かったです。主人公の学芸員・秋岡の前に現れた小倉色紙。最初に1枚、また1枚、そして3枚目。それだけでも凄いことなのに、今度は何と一挙に・・・。しかも、全てかつて一度も世に出たことがないものばかり。すわ、文学史上&古美術史上に残る歴史的発見か!
”海野にうながされて蓋を取った。手が慄えた。・・・知らず知らずに溜息が出た。予想以上にいい。迫力がある。書き手の手の慄えが伝わってくる。筆を押さえ込んでわが意に操ろうとする強靱な意志、気迫、歯ぎしりまで聞こえてきそうだ。偽作や模写によくある不自然な運筆や、妙な崩し字がない。・・・凄い! 秋岡は胸の中で思わず声を上げた。・・・最後の一枚を見終わり、三歩うしろに下がって全体を見渡してから、無言で拳を握って小さくガッツポーズをした。完璧だ”
素晴らしい緊張感と高揚感。このようなシーンには私も息を呑み、ゾクゾクしました。ですが、2人の人物の死亡や秋岡が密室に閉じこめられてしまうなどのミステリー部分がやや弱く、物足りなさを感じました。力作なのに非常に惜しい!また、真贋騒動・物語の部分も人間の”業”のようなものがもっと強く出ていても良かったかなと思いました。
結局、誰にも絶対に正しい真贋判断・鑑定はできない。しかし、権威者が”真作”と
言えば真作になり、逆に”これはいけない”と言うと贋作になるということか。また、学者よりも骨董商の方がよほど目がこえているのに、権威や箔がないために表に出てくることは決してないといったあたりも面白かったです。
かつて黒川博行さんの作品で、骨董もの・真贋もので「文福茶釜」、画壇もの・美術界の裏話もので「蒼煌」などを楽しく読みました。これらの作品ではもの凄いというか金と権威の亡者のような人物がゾロゾロ登場するのですが、本作の登場人物は皆、割とスマートだった印象が強かったです。もっとあくどさ、ずる賢さ、強烈な悪さがあっても良かったかとも思いました。
例えば、百戦錬磨の京都or大阪の骨董商・古美術商が出てきて「あんた、こんなえげつないもんがぎょーさん出てくるはずないがな。かなわん人やなあ、往生しまっせ。よっしゃワシにまかせとき!引いてしもたババは田舎の金だけはたんまり持ってるアホにうまいこと押しつけたる。・・・そのかわり、お礼の方はきちんと頂きまっせ」てなセリフがポンポン飛び出してきたらもっと面白かったのになあなどと不謹慎なことを考えました。梓澤さん、すみません。
物語の序盤、旅に疲れた老人が荒れ果てた小堂にとあるものを奉納するシーンは非常に味わいがありました。藤原定家、千利休、古田織部、小堀遠州、宋ぎ、彼らの生き様も印象的。
部下で学芸員の川田茜、雑誌編集者の香住怜子、大学の後輩ながらも凄腕キュレー
ターの篠原美郷など女性陣がなかなかに魅力的で良かったです。
******************* Amazonより *****************
出版社/著者からの内容紹介
散逸していた藤原定家直筆の百人一首・小倉色紙が突如現われた。真贋を巡る騒動の中、古書跡研究の第一人者が不審な死を遂げ…・。800年の時を超え小倉色紙の謎に挑む真贋ミステリの傑作。
内容(「BOOK」データベースより)
美術館の学芸員・秋岡の元に、アメリカで競売された藤原定家の小倉色紙が持ち込まれた。同時期に寄贈を得た書の大家が残したコレクションからも小倉色紙が発見された。百人一首を編纂した藤原定家が自ら一首一枚ずつ書いたとされる小倉色紙は多くが散逸し、現在所在が知られているのは二十五枚。果たして真作なのか…。真贋ミステリの傑作。
一枚だけで美術界が騒然となる小倉色紙は、同時に最も贋作しやすいものとされていた。新発見の二枚を真作と信じながらも微かな違和感を覚えた学芸員・秋岡は、鑑定を古書跡研究の第一人者・大河内に依頼。だが大河内は不審な死を遂げてしまう。そして秋岡の周囲にも不穏な影が…。八百年の時空を超え小倉色紙の謎に挑む異色の歴史ミステリ。
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