天山を越えて(徳間文庫)
★★★★:80点
(但し、ブックカバー写真は双葉文庫)
中国の奥深くを舞台にした久々の冒険小説ですが、面白かったです。胡桃沢氏の小説は初めて。あまり深みとかはないのですが、その分、明るく軽やかで、異境を舞台に繰り広げられるユニークな冒険物語となっていました。もう少し書き込んで、深み、陰影、味わいを出してもらってもいいかなとも思ったのですが、明るさや軽やかさ、ユーモア感が著者の持ち味なのかもしれません。
********* Amazonより(内容(「BOOK」データベースより) *********
昭和8年、満洲をほぼ掌握した日本軍部は、来るべき全面戦争に備えてタクラマカン砂漠に住む自由の民東干との提携を策した。奉天鉄道ホテル社長の娘・犬山由利に目をつけた軍部は、東干を率いる青年・馬仲英との縁組みを強引に承知させる。だが、仲英は天山地方へ転戦。取り残された由利は、従者の衛藤良丸上等兵とともに仲英の後を追うが…。推理作家協会賞を受賞した著者会心の冒険ロマン。
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北上次郎氏の解説が本作品の魅力をほぼ余すところなく伝えています。
「主人公の数奇な運命をめぐって波瀾万丈、奇想天外、まったく人を喰った
物語で、もう何と言ったらいいのか、読み始めたらとまらない稀代のストーリー
テラー胡桃沢耕史の面目躍如なのである。
・・・しかし、本書は他の作家が考え得ないホラ話すれすれの奇想天外な
物語であり、その独創性の面では高く評価しなければならないだろう」
御大・北上氏の文章に付け加えるべき言葉は殆どありません。確かにまあ、よくぞこんなストーリーを思いついたものです。そうそう、読んでいる最中、ふと浅田次郎氏のことを思い出しました。”波瀾万丈、奇想天外”といったところが、「蒼穹の昴」と似ていたのかな?
アーサー・カマルが表向きの武器提供の仕事だけでなく実は帯びていた密命とは?それが第二次世界大戦に及ぼした影響は?いつも髭をきれいに剃っているセルディ・アブドラの正体は?アメリカにとっての極秘文書が、先に日本語訳とロシア語訳で出版されていた理由は? などなど、様々な謎もてんこ盛りで楽しさも一杯でした。
国家のために数奇な運命を享受するしかなかった由利の悲しくも力強い生き様。命がけの不思議な旅をともにした由利と衛藤衛藤(もりふじ)が、数十年後に再度出かけた旅の意味が胸をうちます。
昔からシルクロードが好きだったので、ウルムチ・トルファン・カシュガルといった地名にも何かしら懐かしいものを感じました。ヨーロッパの美しい街並みも良いけれど、シルクロードにも行きたい!