年齢で区分した人口構造を指し示す指標というものは数多くみられます。その中に「老年人口指数」と「従属年齢人口指数」というものがあります。またこれらに付随して「生産年齢人口」というものがあります。
メディアや学術記事などでも良く使われている言葉ですが、これらは近年意味をなさなくなってきています。65歳以上の全ての高齢者は社会で支えられる立場なのだ、と間違ったメッセージを伝えてしまう可能性があります。さらには、エイジズムの発生にもつながりかねません。
現実を考えると、全ての人が65歳になると、支える立場から支えられる立場に本当にかえてしまって良いのでしょうか。
そもそも老年人口指数とは?
「老年人口指数」は、基本的には15~64歳の「生産年齢人口」に対して、65歳以上の「老年人口」がどれくらいの割合なのかを数値化したものです。これは高齢化を示す指標としてよく用いられています。一般的に「老年人口指数」が上昇してきている国(や地域)は、「人口の高齢化が進んでいる」と解釈することができます。
「従属年齢人口指数」は、基本的には15~64歳の「生産年齢人口」に対して、0~14歳の「年少人口」と65歳以上の「老年人口」が加わったものがどれくらいの割合なのかを数値化したものです。
「老年人口指数」も「従属年齢人口指数」もともに「生産年齢人口」を分母において計算しています。
この「生産年齢人口」ですが、生産活動に労働力の中核として従事しうる年齢の人口のことです。日本では「老年人口指数」や「従属年齢人口指数」などを算出するために、一般的に15歳以上65歳未満の年齢に該当する人口が「生産年齢人口」として扱われています。
しかしながら、「老年人口指数」、「従属年齢人口指数」、「生産年齢人口」は、生産活動に従事しうる年齢の人口のデータが間違っていれば、その指数としての意味がありません。
「生産年齢人口」の取り扱いの妥当性について
「生産年齢人口」のなかで学業に励む若者について
以前から、「生産年齢人口」として扱われている15歳以上の若者が義務教育最終年齢から始まり高校や大学(短大等を含む)への進学率が数十年前から上がってくるというエビデンスが出てくるにつれて、「生産年齢人口」の扱いの妥当性についてはいささか疑問に思っていました。
文部科学省の令和元年度の「学校基本調査(速報値)」によると、高等学校卒業者に占める就職者の割合については、40%ほどあった1980年代半ばから減少が続き、ここ10年ほどはほぼ横ばい状態ですが、最近の報告では17.6%にすぎません。
一方、18歳人口(3年前の中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者)のうち、大学・短期大学入学者,高等専門学校4年在学者及び専門学校入学者の割合を示す高等教育機関への進学率は82.6%です。
すなわち「生産年齢人口」に属する年齢の若年者層の8割は経済的生産活動ではなく、学業に勤しんでいることになります。
ということは、これらの若者(すなわち学生)を生産年齢人口に含むことは妥当ではありません。
「生産年齢人口」という言葉を考えた場合の働く高齢者が含まれる「老年人口」とは
さて、同じく「生産年齢人口」を考えた際、これらの人口に支えられる65歳以上のシニア全てが「老年人口」に該当するというのは妥当でしょうか。
近年における労働力人口比率の推移をみてみると、65歳以上の労働力人口比率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)は徐々に上昇してきており、直近では全体の13%近くになります。65~69歳の年齢層だけに着目してみると、4割以上が働いており、男性では半数、女性では3分の1以上を超えています。
現在仕事をしている60歳以上の約4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと考えており、定年退職後のシニアの就労意欲も高まってきています。
これからの就労のエイジレス社会に向けた政府の取り組みでシニアが多様な働き方を選択できる環境の整備、再就職の支援・促進を行っていくなかで、これらの人々は支えられる「老年人口」ではなく、支える「生産年齢人口」に組み入れられていくべきでしょう。
現在、厚生労働省は年金制度の長期にわたる維持を行うために、企業型ならびに個人型の確定拠出年金の掛け金について拠出期間ならびに加入期間の延長を検討するとともに、70歳までの就業機会の確保も推進できるように検討を行っています。
こうなると、一定の基準のもと、高齢でも働くシニアは「老年人口」ではなく「生産年齢人口」に含まれるべきでしょう。
世界は「老年人口指数」をどう見ているのか?
国連では「老年人口指数:Old-age dependency ratio」について、年齢を基準としたものですが柔軟な指標づくりをしています。
「老年人口指数」を見るために以下の5種類があります。
(1) 「老年人口」を65歳以上とし、「生産年齢」を15~64歳とするもの
(2) 「老年人口」を65歳以上とし、「生産年齢」を20~64歳とするもの
(3) 「老年人口」を65歳以上とし、「生産年齢」を25~64歳とするもの
(4) 「老年人口」を70歳以上とし、「生産年齢」を20~69歳とするもの
(5) 「老年人口」を70歳以上とし、「生産年齢」を25~69歳とするもの
このように、他の指数と同様に「老年人口指数」についていくつかの見方で調べることができます。
これらは国によって「老年人口」や「生産年齢」の対象となる年齢が違ってくるためにいろいろな年齢区分による指数の提示を行っているのでしょう。また日本だけではなく、「老年人口」や「生産年齢」の対象となる年齢が変化してきたり、単に実年齢だけの区分ではうまく説明できなくなってきています。
情報源:
・ 文部化科学省 学校基本調査
・ 内閣府 令和元年版 高齢社会白書
・ 総務省統計局 労働力調査 用語の解説
・ United Nations Department of Economic and Social Affairs Population - World Population Prospects 2019
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