彼女の言葉通り、次の朝、熱はまるで最初からなかったかのように下がっていた。


けれど、その日から彼女は言葉という言葉を一切話さなくなった。


話さなくなったというよりも、言葉なんてものは彼女の中にもともとなかったみたいに僕は感じた。



彼女が言葉を話さなくなった事に僕はひどくショックを受けた。


それは、彼女の声が聞けないことなんかじゃなく、ましてや会話ができない事にでもない。

言葉と同時に彼女の中にあったあたたかいぬくもりのようなものが消え失せたように感じたからだ。


感じたというよりもそれは事実なのだ。


言葉を失ってから僕は彼女の気持ちを知るために、よく正面から彼女を見るようになった。

彼女を見つめる事で、なにかしら彼女の気持ちを汲み取ろうとした、


けれど、彼女の瞳からはなにも伝わらなかった。






驚くべき事に、言葉を失っても彼女の生活に支障をきたす事はなかった。

今までと同じように食事を取り、仕事に出掛け、夜にはぐっすりと眠った。

そして、寒い日は肩をよせあった。



けれど、彼女が言葉を失ってから、1週間がたった日。


彼女は僕の前から姿を消した。




一晩中僕は、ありとあらゆる場所を探しまわった。


考えられる場所はすべてまわった。



それでも、彼女の姿はもうそこにはなかった。

ただあてもなく雪がしんしんと降り続けていた。



部屋に戻って、何か置いていったものがないかを探した。


そしてその時初めて気付いた。


僕と彼女の繋がりのような思いでのようなものを僕は一切もっていなかった。


ただ、ここでたくさんの話をしたという記憶だけが、僕の頭の中にあるだけだった。




まるで、長い夢を見ていたみたいだった。





その後も彼女は僕の前に姿を現す事はなかった。





ただただ、彼女の声だけが僕の頭にこだました。


最終章に続く。