「交通事故で人が死ぬ」ということは、そのほとんどが過失犯である。人を引き殺そうとして車を運転して交通事故を起こす人はほとんどいない。だから、従来は交通事故で人が死亡した事件は、業務上過失致死傷罪(刑法211条1項)として、最高懲役5年の罪として扱われてきた。
しかし、「人の命を奪う」という結果から見ると、殺人も傷害致死も交通事故死も同じ結果である。また、自動車という道具は、多くの国民が日常的に使用する道具であり、一方でちょっとした不注意や過失で簡単に人の命を奪ってしまうことができる危険な道具でもある。今日本で1年間で殺人や傷害致死で命を奪われる人は、1000人~1500人程度であるが、過失犯である交通事故では、1年間に約5000人が亡くなっている(これでも交通事故死の人数は一時期に比べると大幅に減少している。)。過失犯であるとしても、これだけ多くの人の命が奪われているという結果がでている交通事故について、刑事政策上、何らかの対策が求められるのは当然だ。
そこで、平成13年に、自動車運転過失致死傷罪という自動車事故に限定した業務上過失致死傷罪を新たに設け、法定刑を最高懲役7年に引き上げる一方、人を殺す故意、事故を起こす故意が無かったとしても、明らかに自動車を運転するに相応しくない不適切な運転方法を故意でやった場合には、危険運転致死傷罪として処罰するという法律が作られた。ただし、「危険な運転」というのを控えめに明確に解釈するために、条文に危険運転に該当する行為を列挙した。
したがって、危険運転致死傷罪は、人を死傷させる、という点では過失犯であるが、危険運転をする、という点では故意犯となっており、非常に分かりにくい条文になっている。
続きは明日。