―「心理的リソース」という見えない資源

 

「メンバーは一生懸命働いている。能力も十分にある。それなのに、なぜかチームに元気がない」。店長やマネージャーとして、そんな違和感を抱いたことはないでしょうか。櫻本真理さんの著書『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』をテキストに、この問題を考えました。キーワードは「心理的リソース」です。現場で奮闘するリーダーの皆さんにお伝えします。

 

心理的リソースとは何か

 

心理的リソースとは、「面倒くさいけど、やるか!」と自分を奮い立たせる心のエネルギーのことです。リソースは英語で「資源」。そして、この資源には限りがあります。

体の疲れなら、座って休んだり栄養ドリンクを飲んだりすれば回復します。しかし、心の疲れはそう簡単には戻りません。しかも目に見えにくいため、本人もリーダーも気づかないまま、チームは少しずつ消耗していきます。テキストの中に、印象的な指摘があります。人は「上司に怒られるかもしれない」と不安を感じるだけで、怒られる場面を頭の中で想像し、そこに心のエネルギーを使ってしまう。その結果、本来は仕事に使うはずだった力が奪われてしまうというのです。不安や恐れは、それだけで人の能力を削っていきます。

 

チームが疲れているサイン

 

疲れているチームには、必ずサインがあります。上司が来るとみんなが下を向く。顔を合わせたくなくて、その場を離れる。声が小さく、雰囲気がどんよりしている。問題に気づいても報告しない。指示がないと動かない。ここで大切なのは、こうした行動を「サボっている」と決めつけないことです。上司から隠れる人は、怠けているのではなく、会いたくない理由があるのです。報告しないのは、言えば叱られそう、告げ口だと思われそうだからかもしれません。サインがあるということは、気づけるということ。気づいたときにどう受け止めるかで、リーダーとしての信頼が決まります。

 

リーダーにできること

 

では、心を犠牲にせずに成果を上げるには、どうすればよいのでしょうか。繰り返し確認したのは、とてもシンプルなことでした。一つ目は「一声かける」ことです。「頑張ってるね」「ありがとう」「少し休んでいいよ」。心が疲れているとき、何より効くのは仲間やリーダーからの一言です。二つ目は「褒める、そして認める」ことです。人は誰でも毎日褒められたいし、やったことを認めてほしいと願っています。満点でなくてもいいのです。「力がついたね。もう任せて安心だね」と言われれば、やる気は一気に高まります。相手の良いところを10個見つけて伝える「美点凝視」を、ぜひ習慣にしてください。三つ目は「支援に徹する」ことです。リーダーシップとは、肩書きではなく影響力です。「この人と一緒なら安心だ」「困ったら助けてくれる」と思われるリーダーのもとでは、メンバーは主体的に動き、困りごとも自然に相談してくれます。任せるときは放任ではなく、必ずフォローする。その土台になるのが報連相です。たとえばパートナーさんが「台車が傾いていて危ない」と伝えてくれたとき、「すぐ直すね、教えてくれてありがとう」と応えれば、「この人に話せば分かってもらえる」と感じ、次からも何でも話してくれるようになります。反対に、報告した結果、店長が上から叱られる姿を見れば、もう誰も口を開かなくなるでしょう。

 

リーダーは弱くていい

 

もう一つ心に残ったのは、「リーダーの弱さはチームの資源になる」という考え方です。お神輿を思い浮かべてください。担ぎ手は重さに耐え、肩を痛めながら汗だくで進んでいます。その上に座った人が「もっと速く」「まっすぐ進め」と命じるだけなら、担ぎ手の気持ちは離れていくでしょう。リーダーはスーパーマンでなくていいのです。自分の弱さを見せ、メンバーの頑張りに目を向けるリーダーだからこそ、みんなが喜んで支えてくれます。そのうえで、職場では「役者」になることも大切です。気分が乗らない日でも、店長は店長らしく、マネージャーはマネージャーらしく振る舞う。その「らしさ」が、チームに安心感を生みます。

 

差別化は「心」から生まれる

 

飲食業界では今、人手不足から接客の質が下がっているお店も少なくありません。だからこそ、スタッフが生き生きと働き、気持ちのよい接客ができることは、メニュー以上の差別化になり得ます。お客様が「また来たい」と感じるのは、料理の味だけでなく、そこで働く人の表情や一言なのです。チームの問題は、技術やオペレーションの問題である以前に、心の問題であることが多いのです。メンバーが本当に願っているのは、安心して力を出せる職場です。そのことに気づいた今日から、私たちリーダーの言動を変えていきましょう。まずは明日、一人ひとりに「ありがとう」と声をかけることから始めてみませんか。

 

参考:櫻本真理 著『なぜ、あなたのチームは疲れているのか? 職場の「心理的リソース」を回復させるリーダーの思考法』(ダイヤモンド社)

 

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福八経営デザイン株式会社 大堀浩