福八・経営を考えるヒント(35)ミップ・ウォー・ゲーム

 

26枚のカードが教えてくれた「強いチーム」のつくり方

 

先日、店長・監督者向けの研修で「ミップ・ウォー・ゲーム」というグループワークを体験しました。ルールはとてもシンプルなのに、終わってみると「チームで仕事をするとはどういうことか」を考えずにはいられない、不思議な力を持ったゲームでした。今回は、ゲームの中で何が起きたのか、そしてその後のまとめ講義で学んだ「チーム構築」の要点を、自分の職場に置き換えながら振り返ってみたいと思います。

 

ミップ・ウォー・ゲームとは

 

出題される問題は一つだけです。「ある人がA町からB町までドライブをしました。何号線を使ったか答えてください」。一見すると簡単そうですが、答えを導くための情報は、グループに配られた合計26枚のカードにバラバラに書かれています。カードはトランプのように、メンバーへ1枚ずつ均等に配られます。そして、ここからが肝心のルールです。自分のカードを他人に見せることは厳禁。さらに、カードの文章をそのまま読み上げることも「見せた」とみなされます。つまり、メンバーは自分の手元の情報を、必ず自分の言葉に言い換えて仲間に伝えなければなりません。制限時間は30分。答えは紙に書いて、静かに講師のもとへ持っていきます。正解なら黒板に所要時間が書かれ、不正解なら黙って返却されるだけ。時間内に答えが出なければビリ扱いで罰ゲームです。始める前に、各グループでリーダーを一人決めるところからゲームはスタートしました。

 

実際にやってみて起きたこと

 

「始め」の合図とともに、テーブルは一気に騒がしくなりました。みんなが一斉に自分のカードの内容を話し出し、誰が何を言ったのか、すぐに分からなくなります。距離の数字、町の名前、道路の番号、時間に関する情報。聞き慣れない言葉が書かれたカードもあり、「これ、どういう意味だろう」「言い換え方がわからない」と戸惑う声も上がりました。

そのうち「1番の人から順番に発表しよう」「誰かがメモを取って、地図を描こう」という声が出て、少しずつ場が整っていきます。BからCまで、CからDまでと、カードの情報をつなぎ合わせて道筋を描いていく作業は、まるでパズルのようでした。

一方で、途中で気づいたこともあります。カードの中には、答えに関係のない情報や、一見重要そうで実は使わない情報も混ざっていたのです。全員が自分の情報こそ大事だと思って話すので、必要な情報とそうでない情報の仕分けに時間がかかりました。また、勢いよく話す人の声が通りやすく、遠慮がちな人のカードの内容が後回しになる場面もありました。もしかすると、決め手になる一枚を持っていたのに、言い出せずにいた人がいたかもしれません。

 

ゲーム直後の振り返り ― 五つの問い

 

ゲームが終わると、まず各チームで振り返りの時間が設けられました。講師からは「勝ち負けそのものよりも、勝負を分けたチームの動き方に注目してください」と言われ、次の五つの問いが示されました。

 

一つ目は、ゲーム開始時、チームの目標を全員が同じ言葉で言えたかどうか。二つ目は、役割分担を誰がどのように決めたのか、決めないまま動き出さなかったか。三つ目は、情報が全員に届いていたか、一部の人だけが知っていたことはなかったか。四つ目は、意見を言いにくい場面や、黙ってしまった人はいなかったか。そして五つ目は、自チームの利益だけを考えて、相手チームを含む全体の利益を見落としていなかったか、という問いです。

正直に振り返ると、私たちのチームはどの問いにも胸を張って「できた」とは言えませんでした。目標の確認をしないまま話し始め、役割は途中から何となく決まり、情報はテーブルの片側に偏りがちでした。特に考えさせられたのは四つ目の問いです。メンバーに聞いてみると、「自分のカードが関係あるのか分からなかったので、言うタイミングを逃した」という声がありました。たった30分、しかも気心の知れた研修仲間の中でさえそうなのですから、上下関係や忙しさのある実際の職場では、もっと多くの声が埋もれているのかもしれません。

 

五つ目の問いも意外な視点でした。私たちは自分のテーブルの答えを出すことに必死で、他のチームのことはまったく頭にありませんでした。けれども職場に置き換えれば、自分の店舗や部門だけが成果を上げても、会社全体がうまくいかなければ意味がありません。この問いは、後で学ぶ「全体最適」という考え方につながっていきました。

 

「グループ」と「チーム」は違う

 

まとめ講義で最初に示されたのが、「人が集まっただけではチームにならない」という言葉でした。

 

グループ(集団)では、目標は個人ごとにバラバラで、責任は自分の担当分だけ、成果は個人の足し算にとどまります。情報も必要な人にしか流れません。これに対してチームには、全員が共有する共通目標があり、結果に対して全員が連帯して責任を持ちます。協力によって成果は掛け算になり、情報はオープンに共有されます。

ゲーム開始直後の私たちは、まさに「グループ」でした。同じテーブルを囲んでいても、それぞれが自分のカードのことだけを考えていたのです。そして講師の言葉で特に響いたのが、「店舗や現場は、放っておくと同じ場所で働く人の集まりになりがち」という指摘でした。チームにするのは、リーダーの意図的な働きかけなのです。

 

チームは混乱期を経て成長する

 

次に紹介されたのが、心理学者B.W.タックマンが示した「タックマン・モデル」です。チームは、形成期、混乱期、統一期、機能期という四つの段階を経て成熟していくといいます。

形成期は、お互いに様子見をしている遠慮がちな段階です。ここでリーダーがすべきことは、目的とゴールを明確に示すこと。混乱期になると、意見の対立や衝突が起きます。リーダーは対立を避けずに話し合わせることが求められます。統一期ではルールや役割が定まり、リーダーは決めたことを守らせ、少しずつ任せていきます。そして機能期には、チームが自律的に動いて成果を出すようになり、リーダーは支援に回ってさらに高い目標を示します。

ゲームの30分間は、この四つの段階を凝縮して体験するようなものでした。最初の混乱した数分間はつらいものでしたが、講義では「混乱期は悪いことではなく、成長に必要な通過点」と説明されました。むしろ、対立を恐れて黙ってしまうと、チームは形成期のまま止まってしまう。意見がぶつかった場面こそ、チームが前に進むチャンスだったのだと気づかされました。

振り返ってみると、私たちのテーブルでも段階の移り変わりがはっきりありました。最初の数分は、誰が仕切るのか探り合う形成期。次に全員が一斉に話し出し、「それは違う」「いや、こうじゃないか」と意見がぶつかる混乱期。やがて「順番に一人ずつ発表しよう」「地図はこの人に任せよう」というルールができた統一期。そして最後の数分、各自が自分の役割を果たしながら自然と答えに向かっていった時間は、短いながらも機能期と呼べるものだったと思います。混乱期を抜け出すきっかけは、誰か一人の「一回整理しませんか」という一言でした。

 

成果を出すチームの5条件

 

講義の中心となったのが、成果を出すチームに共通する五つの条件です。ゲームでの体験と重ね合わせながら整理してみます。

 

条件1 共通の目標

目標は具体的に、数字で、全員が同じ言葉で言えることが大切です。「頑張ろう」ではなく「今月の〇〇を〇〇まで」というように。ゲームでは「何号線か」という問いがはっきりしていたので、目標そのものは共有しやすかったはずです。それでも、序盤は全員が同じ方向を向いていたとは言えませんでした。職場では、目標がもっとあいまいになりがちなことを考えると、言葉にして共有することの重要性がよく分かります。

 

条件2 明確な役割分担

役割があいまいだと、ムダな重複とミスにつながる抜け落ちが同時に起きます。ゲームでも、司会役、記録役、地図を描く役が決まるまでは、同じ情報を何人もが繰り返したり、大事な情報が聞き流されたりしていました。各人の強みを活かした配置を考えることも、リーダーの大切な仕事です。

 

条件3 情報共有とコミュニケーション

判断の質は、情報の量と鮮度で決まります。そして「伝えた」ではなく「伝わった」かを確認することが重要です。カードをそのまま読めないというルールは、まさにこの点を体感させる仕掛けでした。自分の言葉で言い換えた内容が、相手に正しく伝わっているか。復唱し、確認し合うことの大切さを、身をもって知りました。悪い情報ほど早く上げる、という原則も職場でそのまま使える教えです。

 

条件4 心理的安全性

ハーバード大学のエドモンドソン教授が提唱した考え方で、米グーグル社の社内調査でも、成果を出すチームに最も共通する要素とされたそうです。ミスの報告、質問、反対意見が出せないチームは、問題を早期に発見できません。ゲームで「よく分からない言葉がある」と素直に言えた人がいたことで、議論が前に進んだ場面がありました。ただし心理的安全性は「なれ合い」とは違います。高い目標と、言える雰囲気の両立こそが強いチームの条件です。

 

条件5 信頼と協力

自分や自チームだけが得をしようとすると、結果的に全体の成果が下がることがあります。相手を信頼して協力するには、まず自分から誠実に行動し、約束を守ること。職場でいえば、自分の時間帯や自分の部門だけでなく、店全体、会社全体で考えるということです。シフトの引き継ぎや部門間の連携を思い浮かべると、耳の痛い話でした。

 

リーダー(店長・監督者)の役割

 

チームの状態は、リーダーの言動で大きく変わります。講義では、リーダーの役割として五つが挙げられました。

一つ目は、方向を示すこと。目標と「なぜそれをやるのか」を繰り返し語ります。二つ目は、場をつくること。誰もが発言でき、聞いてもらえる雰囲気をつくります。三つ目は、任せて支えること。役割を任せ、困ったときに手を差し伸べます。四つ目は、率先垂範。約束を守り、自分のミスを認める姿勢から信頼が生まれます。五つ目は、認め、感謝すること。結果だけでなく、協力やプロセスを言葉にしてほめることです。

そして最も心に残ったのが、「部下は上司の言うことではなく、することを見ている」という言葉です。チームを変えたいなら、まずリーダー自身の行動を変える。ゲームのリーダー役を見ていても、本人が落ち着いて全員の話に耳を傾けたとたん、テーブルの空気が変わったのを感じました。

 

職場に持ち帰ること

 

講義の最後には、「行動宣言」として、職場に戻って明日から実行することを書き出しました。チームづくりのために始めること、やめること・改めること、そしていつまでに・どうやって確認するか、の三つです。

私自身が始めようと決めたのは、朝礼で今日の目標を数字で伝え、スタッフに復唱してもらうことです。「伝えた」ではなく「伝わった」を確かめるためです。改めることは、忙しいときにスタッフの報告を途中で遮ってしまう癖。ゲームで遠慮がちな人の情報が後回しになったように、職場でも大事な声を聞き逃しているかもしれません。そして一か月後に、スタッフからの報告や提案が増えたかどうかを振り返ってみるつもりです。

 

おわりに

 

ミップ・ウォー・ゲームは、正解を当てること自体が目的ではありません。26枚のカードは、店舗で働く一人ひとりが持っている情報や経験そのものです。それぞれが持つ断片を、自分の言葉で伝え合い、つなぎ合わせて初めて、チームは一つの答えにたどり着けます。

共通目標、役割分担、情報共有、心理的安全性、信頼と協力。どれも言葉にすれば当たり前のことですが、たった30分のゲームの中でさえ、私たちはそのいくつかを見落としていました。だからこそ、日々の職場では意識して取り組み続ける必要があるのだと思います。

 

同じ場所で働く人の集まりを、本当の意味での「チーム」に変えていく。その第一歩は、リーダーである自分の行動からです。