井上ひろみです。
まだ香港に来る前、
まだオーストラリアに行く前
そして、バックパッカーとして旅にでる前
ココだけの話
バブルの申し子といわれたわたし達の世代
わたしは某百貨店の受付嬢として
日々たくさんのお客様と接していたことがある。
当時は、デパガって職業も
意外ともてはやされていた時代で
デパガを扱ったトレンディードラマなんかもあったほど。
(今でもデパガって、言葉あるのかな?)
プレタポルテ(ハイブランド)の
自分では到底買うことのできない
有名デザイナーオリジナルの綺麗な制服を着て
帽子もかぶり
手袋までつけ
化粧も結構派手にしていたあの頃、
これら全部を装備すれば
心も体もれっきとした受付嬢(デパガ)
普段は下町の芋娘が
仕事の顔になる瞬間
百貨店の顔として
笑顔を振りまき、
日々、いろんなお客様と接するこの職業。
世の中の縮図を見るような
いろんな人たち....
何万人と
いや何十万人かもしれないお客様と
接してきた。
一度だけの人もいれば、
おなじみのお客様もいた。
赤ん坊からお年を召された方
上流階級らしき方々
そのなかでも忘れられない
お客様というのはいるものです
今日は、その中の一人...
おじちゃんの話
わたしが働いていた百貨店には
時として、住所不特定の浮浪者...と呼ばれる方々が
お客として来店し、
地下の食品売り場でたくさんの試食品をいただき
帰られるという方々が結構いたんです
その中の一人は、
開店時間の10:00に現れ
1日中百貨店の中を移動しながら
居心地のいいところを歩き回っている方でした。
時には、
「お姉ちゃん、今日はヒマやな~」と
ツ~ンという臭いをさせながら
親しく話しかけてきては、去り
また、時折用もないのにやってきては
話をしに来る。
言葉は悪いけど
しょぼくれた姿や
お顔の感じや話し方から
この人はどんな人生を送ってきたんだろう
と、ふと思いをはせてみたりする。
わたしは、忙しくない限り
このおじさんの相手をしていた。
しかし、ある時
このおじさんが
何の理由だったか忘れたが、
わたしの言ったことが気に入らなかったらしく
文句を言い始めた
その文句も忘れてしまったけど
突然このおじさんが
「お前、殴ったろーかー」
と言い出しよった。
わたしも相当頭にきていたらしく、
でも、接客業をするものとしては失格の
「どうぞ、殴れば...」
冷静に答えてしまった…
小生意気な小娘の
この冷静さが余計に
気に障ったらしく
(しかも、客相手に言う言葉でない)
若気の至り
このおじちゃんは
わなわなとこぶしを上げ
わたしを殴りかけた
しかし、
反対の手で押し込むように
手を元の場所に戻したんです。
その時は頭に血が上って
そんなことを言ってしまったけど、
接客業をする者としてはホント失格です
ごめんなさい
そのおじちゃんは
「お前、明日から覚えとけよ」
と、捨てせりふを残し
その場を去っていったんですが...
その次の日から
おじちゃんは店内にあった
6箇所の受付、案内所を巡回し
「Romi は、おらんかい?」
と、全身真っ白のスーツを着て
百貨店内でわたしを探しているというでは
ありませんか....
えっ...
いつも汚い格好でいた...
あの..
おじちゃん...
全身白尽くめでスーツ
お~、こわい~
それから3日後に
受付でわたしが立っているところに
あのおじちゃんが
同僚や先輩から聞いた格好と同じ
全身白のスーツで現れた
聞いていたのと少しちがったのは
白いシルクハットの帽子を
スーツと合わせてかぶっていた。
来た。来た。来た。
わたしも相当ビビりましたよ。
あ~、どうなってしまうんだろうと
あのスーツの下にナイフは隠されてないだろうか?
不安がよぎる
「よ~
元気にしとったかいな
お前な...Romi さんと
言い寄ったな...」
「は...はい 」
「この間だな、よ~あんな態度とりよったな」
「は、はい。」
「この間はな~。
わしも頭に血がのぼってもうたんや。
わし、あんなこと言ったけどな~。
ま~許したるわ。」
「え..っ???」
「こんだけ根性座ってるやつも
世の中そんなに多くはない...」
心の中で...
「ありがとうございます!!」
「わしはな~、ここら辺を見張ってるモンや
なんかあったら、わしに言って来い
いろんなヤツがおるやろが...
いつでも言いにきたらいいで~
ほんならな...」
なんという展開でしょう。
びびったし
正直、超怖かったし
でも
ホッとした...
大事なことにならなくてよかった...
殺されなかった…
事件沙汰にならなくてよかった…
と心から思っていましたが
その時の商業病でしょうね。
「ありがとうございました
またどうぞお越しくださいませ~」
と、お決まりの百貨店用語を
去るおじちゃんの背中に向かって言うわたし。
あ~
本当によかった。
この日以来
あのおじさんを
汚い臭い格好で
見ることがなくなった。
たまに、スーツ姿で遠くから
挨拶をくれていた
あのおじちゃん。
あなたは、いったい何者だったんでしょうか?
20年以上経った今でも
忘れることが出来ません。
では…
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