なんて愛らしい姫だろうと、いつも笑顔で見守っていた。小さな頃からお傍に仕え、【ジィ】と舌っ足らずな声で呼ぶ姫が可愛くて仕方なかった。姫のためなら命さえも惜しくはないと何度思ったことか。姫が成長して美しさを増してくると、なかなか簡単には近づけないオーラさえも纏うようになり、私も自らお傍に行くことは遠慮するようになった。時折見せる切ない瞳の意味は分からなかったが、それでもどこにいてもお守りしたいと願っていた。そんな時、ユノ様が現れた、凛々しくて精悍な騎士のような王子はジェジュン様に相応しい。これで私の仕事も終わりなのだと、どこか淋しい思いを抱き始めた頃、【ジィ】と懐かしい声がした。近づくのも躊躇うほどに美しいジェジュン様が私を呼んだ。
[ジィはどこにも行かないで、ずっと傍にいてね]
昔から勘の鋭いお子だった。私の気持ちなど隠しようもない。
[ジィは生涯ジェジュン様のジィでおります]
そう応えると子供のような笑顔で私に抱きつき【ジィ、大好き】と呟く。どこかでユノ様に渡したくないと考えてしまうほど、私の大切な姫がジェジュン様だった。
ユノ様が現れて、正直ジェジュン様に嫉妬した。
城の姫として生まれ、何不自由なく幸せな毎日を過ごして来られた。恵まれた容姿に控えめな性格、使用人を邪険に扱うこともなく丁寧に挨拶をされる優しい方。ユノ様とはお似合いで、これ以上の婚姻はないと思う。けど、なぜジェジュン様だけが幸せになれるの?せめてユノ様に少しでも振り向いてほしいと願うだけなのに、願いは届かない。いつもジェジュン様の傍にいて片時も離れない。その目には他のものは映らないほどに、ジェジュン様だけを見つめておられる。神様は不公平です、ジェジュン様だけが幸せになって、使用人の私にはおこぼれさえ与えてくださらない。でもね、二人を見ていると不思議とこちらまで微笑んでしまう。例えジェジュン様以上に美しい人がいたとしても、ユノ様は見向きもしないだろう。とても強い何かで結ばれている、そんな気がする。祝福するべきかな?うん、私にもきっと素敵な人が現れる。そう、コック見習いの彼とかね。ふたりの笑顔がすべてを幸せにしてくれる、そんな気さえしてくる。おめでとうございます、そう心から申し上げないとね。
チチチっ!ジェジュンはどうやっても憎らしい、姫であっても、その存在力は脅威でしかない。出しゃばる真似は決してしないし、いつも王妃の後ろで目立たないように下がっている。この私でさえ言葉をかけるのが難しいほどジェジュンは前に出てこない。無能で無知な姫、何も知らず、何もする事も出来ず、ただ城の姫として生まれそこにいるだけの存在。なのに、どこか胸騒ぎがする。うつむき加減のジェジュンが時々顔を上げることがある。息を呑むほど美しい顔と、心の中まで入り込むような澄んだ黒い瞳にたじろいでしまう自分が情けない。決めたのなら容赦はしない、姫であっても邪魔だと思えば消すつもりだ。大人しく消えるのが最善だとジェジュン本人が気づくべきなのに、この子は本当に頭が悪そうだ。いつも無表情で何も話さない。本当に生きているの?そんな事さえ考えさせる。
それにしてもユノとか言う小国の王子、あいつが来てから城の雰囲気が変わってきた。眉ひとつ動かさないで生きてきたジェジュンが、時折見せる楽しそうな笑顔はユノのせいか?あんなに無口だったのに、ユノにだけ楽しそうに話しかける。しかも最近では儚さしか感じられなかったジェジュンに、生の躍動感さえ覚えてしまう。このままではジェジュンが変わってしまう。強敵になる予感がする。その前に消さなくては・・そう、ジェジュンを消せばすべてが終わる。ユノも当然、城を出るだろう。意気消沈した王は国を守ることさえ危ぶまれ、王位継承を急がれるかもしれない。その時こそ我が息子が王へと君臨するのだ。側室なんて屈辱的な立場はもう我慢出来ない。我々がこの城を掌握するのだ!
王妃が手にするとは計画外の事だった。そのグラスはジェジュンに渡すように決められていたはずなのに、王妃の手を払う事は出来ずそのまま・・この事を知る者達はみな消した。もちろん命に背いて王妃にグラスを渡した愚か者は、問答無用で瞬殺させた。嫌になるほど上手く行かない。次の手を考えねば・・ならばユノを?それとも今度こそジェジュンを・・?
ジィにだけは本当の事を話したいと何度も考えた。けど母から強く止められたし、騙し続ける自分が悔しかった。抱きついて【大好き】と伝えた事がある。ジィは驚いて飛び上がりそうになっていたけど、俺は心からジィが大好きだった。嘘をついてごめんなさいと心の中で呟いて、前より細くなったジィの身体を抱きしめる。長生きしてね、俺が本当の姿に戻っても傍にいてくれる?
【姫はもう子供ではありません、こんなに簡単に男子に触れてはなりませぬ】ジィが慌てて俺から離れた。首を傾げて見つめると、やっぱりジィは困った顔で俺を見ていた。
王子に戻ったら、このたくさんのドレスをどうしよう?あっ、そうだ!今まで俺の世話をしてくれた、女中さん達にあげればいい。みんなにあげても余るほどたくさんあるし、喜んでくれるかな?あの子はピンク色が似合うし、あっちの子は紫?ん〜こうして考えると楽しい。ドレスに名前を付けておこう。ケンカしたらマズイしね。みんなに平等に行き渡るようにしないと。ふふっ、みんなだけで舞踏会を開いてあげるのもいいかも。楽しそうだな、俺とユノは特別ゲストで混じって踊るの。いいよね?ユノに相談してみよう!
それにしても側室は放ってはおけない。母にした仕打ちは到底許されるべきでない。俺を狙ったとしても、結果的に母を傷つけた。しかも今もなお目覚めない現実。絶対に許さない、自分がしたことの罪を償わせる。この手で必ず!ユノも力になってくれるはず、いやユノが手伝わなくても俺はやる。簡単には動かない、相手が動き始めたら証拠を掴んで一掃する。また王を悲しませるかもしれない、けど眠っていた獅子を目覚めさせるのは今だと思う。自分でもどれほどの力があるのか分からない。むしろ無力かも・・ふと、感じる温もりに身を預ける。そう、俺には安心できる場所がある。いつも後ろから俺を支えてくれる力強い腕が。【ジェジュン】ユノの声が俺に力を与えていく。弱気になると必ず聞こえる声は、神様が与えてくださった贈り物かもしれない。
[ユノ、世界が変わるかもしれない]
俺の言葉にニヤッと笑う。
[変わらない世界ほど、つまらないものはない]
ユノがいれば大丈夫、いつからか俺は、ずっと見つからなかった安らぐ場所を見つけていたのかもしれない。
[王位継承をする王子だ]
王の言葉に皆のものが驚く、なぜ今ここで?というか、誰がその地位に?
そして俺が現れる、姫ではなく王子として。
ジィも、女中達も、そして側室も・・誰もが口を開けたまま驚いた顔で俺を見ていた・・。
おはようございます✨
今朝は違う視点から攻めました(^o^;)
東京に台風!?やめてください!!仕事に大影響ですよ、パニックです!それより、皆さんケガをしないように、それから懐中電灯と少しの水と食料、後はパニックにならず、落ち着いて行動しないとダメですね。ゆったりと焦らずに、籠もりましょう。
何事もありませんように。
今日も元気に、いってらっしゃい(=^・^=)*/*☆✨♥