爪が伸びてきたなと思う。 

毎日乗る電車は、見た顔もあれば初めての顔もある。けど俺に取ってはいつもと変わらない朝で、毎日同じことの繰り返しだ。爪を切る余裕さえなかった事をふと感じて、苦笑いする。


[ねえユノ、俺達の人生ってこれでいいのかな?]

席に着くと、隣に座る同期のユノに聞いてみる。いつも穏やかな彼が、人生に疑問を持っているとは思えないが少しだけ期待する。

[これって?]

端的すぎる逆質問に戸惑う俺。これを説明するのは難しい。

[毎日同じ時間に電車に乗って、下手すると終電で家に帰り、部屋につくと寝るだけの生活で、休みの日も疲れ切って遊びにもいけない。友達との連絡は途絶えたし、田舎に帰る気力もない。むしろ両親からの連絡を面倒だとさえ思ってしまう]

ユノが呆れた顔で俺を見る。 

[俺は大切にしろ]

いや、そこじゃない。俺が聞きたいのは、こんな毎日が正解なのかということ。

[ユノは疑問に持たないの?]

[何が?]

[変化のない生活]

フッと笑いながら、さらに短く答える。

[俺達はアイドルじゃない] 

知ってるし、そこまでの華やかさは求めていない。

諦めてパソコンを開くと朝の仕事が始まる。嫌でも集中するしかない時間は、あっという間に過ぎていく。


昼休みは日替わりにした。今日は焼き魚定食で身体に良さそうだ。トレーを持って窓際のテーブルに行くと、ふう〜とため息を付きながら外を眺める。街ゆく人たちもワイシャツにネクタイ、ビジネスマンの昼休みは短い。急いで食堂に向かう人達に同情する。

カツカレーの美味そうな匂いと共に、ユノが前の席に座る。確かに美味そうだけど昼には重くない?

[さっきの話だけどさ] 

何だっけ?

ネクタイをワイシャツの間にしまい込みながら、ユノが続ける。 

[毎日、同じことを出来る幸せを俺は感じている]

あ〜俺の質問の答えね。でもさ、疑問を感じないの?フーフーしながらカレーのついたカツを口に入れて、満足そうにモグモグしながら美味いと唸る。ユノは本当に幸せな男だ、カツカレーひとつでこんなに幸せを感じるなんて。

[何もない毎日を考えてみろよ、何をする?そりゃあ少しの間はやることがあるけど、それが半年1年になったら、やることがなくなる。けど、俺達は幸いにも毎日やるべき事が与えられている。これって幸せだろう?何もない人生こそ不幸だ]

焼き魚をつつきながら、ユノの意見を聞く。もちろん言いたいことは解るし、まあまあのお給料があるからこそ俺達は生きていける。それは確かだ。

[それに・・ジェジュンがいる]

あっち!と慌てて水を飲んでから、そんな事を口にする。

[毎朝満員電車に揺られて、ようやく着いた会社には必ずジェジュンがいる。それが俺のここに来る意味のひとつだ]

・・・俺が、その意味のひとつ?

[生きるのに目的は必要だ、もちろん惰性で生きるのも悪くはない。けど、目的があれば楽しくも幸せにもなれる]

ユノのカツと俺の焼き魚を少しだけ交換して、白いご飯に乗せてパクリと食べてから、改めて確認する。

[目的のひとつが、俺ってこと?]

焼き魚が意外に美味しかったのか、もっともらっていい?って聞きながら頷く。

[そうだ]


昼ご飯を食べた後、テイクアウトのコーヒーを手に屋上に上がる。タバコを吸う場所は決まっているが、俺達のお気に入りは屋上だ。誰もいないのを見計らって火をつける。最近は喫煙者の居場所が少ない。食後のタバコほど美味しいものはないのに。

[この広い世界でさ、俺達が出会えた奇跡を信じないと]

ユノの吸うタバコの煙が風に乗って消えていく。

[ジェジュンがいる、それだけで俺は会社に来るのが楽しみだよ]

[どうして?]

今日のコーヒーは酸味がある、モカかもしれない。


でもさ、俺も考えてみれば電車の中で何度かユノの顔を思い出した。ぎゅうぎゅう詰めの車内で、途中の駅で降りようかと思う時、ユノも今頃電車の中かもなんて思いながら踏ん張った。会社に着いてユノの顔を見ると、なぜかホッとする。それは俺も感じていた。


[理由なんていらないさ、それだけで十分だろう?]

チラッと俺を見るユノの横顔にドキッとする。

[確かに]

それ以上を聞くのは怖い気もする。今はまだ。


屋上から中に入る時、ユノがドアを開けてくれた。

フッと笑ったユノからは、さっきまで吸っていたタバコの匂いがする。俺も無言で笑顔を返す。

明日も明後日もユノはここにいてくれる。


きっと、それが答えだ・・そんな気がした✨





おはようございます✨

今日も楽しい1日をお過ごしください☆ 

元気に、いってらっしゃい(=^・^=)*⁠⁠/⁠*☆✨♥