山の上で生活するのは心が落ち着くけど、やっぱり不安はあった。社会との関わりをすべて捨てるには俺達は若すぎる。それに、自分の過去を書き始めて気づいた。今までが、すでに逃げてきたのだと。ユノは避難場所として、俺をここに連れてきてくれたのだと思う。けど、これが正解でいいのか?逃げ続けた自分に、ユノを巻き込んでいるだけじゃないのか?毎日太陽の下で働くユノは健康的に日焼けをしているけど、何を思っているんだろう・・。


山の上での生活は、リタイアしてからの理想郷だと考えていた。本当は今頃俺は、海外を飛び回り張り切って仕事をしているはずだった。それなりの会社にも就職したし、未来は決して暗くはない見通しのいい環境にいたと思う。どうしてここにいるのかな?ふと、そんな事を考える事もある。社会から離脱するには早すぎるし、まだやるべきこともあったはず。コンビニでのバイトも長い人生の休憩時間だと考えていた。いつか復帰すると信じて疑わなかったし、その気になれば仕事は見つかると思っていた。思いの外長い休憩時間は自分でも意外だった。社会の仕組みに疲れて飛び出した俺だけど、それでも自分を信じていたから。俺はいつだってやり直せると・・なのになぜか、ジェジュンが気になった。毎晩コンビニに現れる綺麗な子が。ここから離れられない理由はジェジュンが気になるから・・本当にそうか?怖かったんじゃないのか?また、あの社会に戻るのが。ジェジュンのせいにして、こんな山奥まで逃げてきた。そして今もジェジュンを食べさせる為になんて言い訳をして、現実を見ないようにしている。これがジェジュンの為なのか?自分の恐れをジェジュンにも背負わせる日々が。


いつかは、決心しなくてはいけないと思っていた。

[ユノ、俺戻るよ]

あの場所ではない、新しい自分の居場所を探しに。

[そうか]

意外にも知っていたような答え。

[ユノは?]

[俺は・・せっかく作った野菜を収穫してからかな。誰かに世話を頼まなきゃいけないし、少し時間がかかると思う]

[ここは残すよね?]

[いずれは帰る場所だ]


きっと知っていたのだと思う、ユノも俺も。

中途半端に逃げても楽園には着けないと。毎日の穏やかな生活は嫌なことを忘れさせてくれる。けど、そんな刺激のない生活は早すぎる。俺達はまだまだ経験しなくちゃいけない。良いことも悪いことも。

[ユノが驚くような自分になりたい]

[書くのは止めるのか?]

[ううん、まだ途中だよ。書き続けるつもり、エンディングはここに戻ってきた時に書くと思う]

[うん、そうだな。それがいい]


その夜、俺達は初めて本当に心と身体を重ねた。

偽りや慰めじゃなく、すべての想いをひとつにする行為は喜びだけではなく苦しみも伴ったけど、それこそが生きる意味だと教えられた気もする。逃げれば経験さえ出来ない。どうして、そんな単純な事に気づかなかったんだろう?


ユノはいつものように畑に出ていた。挨拶は朝食の時に済ませたし、少なすぎる荷物はここを出ていく風でもなくて、何だか軽い気持ちで家を出た。

そこにユノがいるのを知っているのに、あえて振り向かない。また立ち止まってしまいそうで。鳥の声を聞きながら山道を下りていく。この先、俺に何が出来るだろう?ユノの温もり手放して、本当に行きていけるのかさえ分からない。でも、心の中にあるその存在が、きっと俺を助けてくれるはず。【ユノは俺の心の中にいる】だから行くよ。今度は心から笑って会える、いつかが来ると信じて。頬に伝わるものに気づかないふりをした。泣くにはまだ早い、まだ始まってもいないのだから・・。


ジェジュンが山を降りていく。俺も近いうちに同じ道を歩くだろう。気づいてしまった今、あとは進むしかない。このまま人生を捨てて生きるのは現実逃避以外の何ものでもない。社会の仕組みだの、くだらない柵だと、それがどうした?そんな物に負けるほど俺は弱いのか?あんな世界にいてなお、強い意志を持って生き抜いてきたジェジュンは、また歩き始めた。過去とは違う自分を見つける為に。

フッ・・何に対して微笑んだのか解らない。けど、心は晴れている。やるんだ、今この時から。


ポツリと土の上に落ちた雫に、雨かと空を見上げる。頭上には雲ひとつない青空が広がっている。

それが自分の涙だと気づいた時、すでにジェジュンの姿は見えなくなっていた・・。





おはようございます✨

ラストに向ってスパートです!

諦めない!そんな気持ちをなくさない大事さを、自分にインプットさせます✨(^o^)v


今日も元気に、いってらっしゃい(=^・^=)*⁠/⁠*☆✨♥