[ぶ・部長!本当に食べていいんですか!?]
出張前から予約をしておいたステーキ専門店は、ブランド牛オンリーのまあまあ良い店だ。出張旅費では赤字だが、この先の長い夜を考えるとありだろう。
[ああ、好きなだけ食べていい。何なら俺の分も食べていいぞ]
この投資分はがっちり回収させてもらうけど。
[やだなあ〜流石に人の分までは奪いませんよ。てか、これって見たことない肉ですけど本物ですか?]
いや、偽物の肉を出す店があるのか?
[まあ、うさぎは普段食べたことがないだろうが、これがブランド牛の品質だ。口にいれると蕩ける]
[い・いただきます!]
これ以上ないってぐらいに幸せそうな顔で、ステーキを口にいれるうさぎ。こんなに嬉しそうにされると、連れてきた甲斐がある。白ワインもなかなかの味。今夜は最高の時間が過ごせそうだ、朝までな・・。
シャワーから出てくると、うさぎはすでにベッドに入っていた。何だよ、実はお前も期待していたのか?隠しきれない笑みを浮かべながら近づくと・・寝てるんかいっ!まさかの爆睡状態に撃沈する俺。
いや、なんの為に肉を食べさせた?何なら冷蔵庫には、これまた奮発した高級シャンパンまで入っている。夜はこれからじゃないか!?待てよ、先に風呂に入っていいぞなんて言ったのが失敗だったのか?俺としては先に入らせて、色々準備を整えようと考えていたのに何だよ、この展開は!?
大きなガラス窓に映る、バスタオルを腰に巻いたまま立ち尽くしている俺って・・コントかよ!はあ〜大きくため息をついて、リビングのソファーに座り込む。こうなると無駄に広い部屋は寒々しくもある。
冷蔵庫からシャンパンを取り出しグラスに注ぐと、一気飲みをする。最高級の味も残念ながら味気ない。でもな・・今日一日、うさぎは良く頑張った。連休で街中が浮かれている中、スーツにビシッとネクタイを締め、俺が得意先と話すのをフォローしようと緊張していたと思う。疲れ切って当然だ、たまには寝顔を見ながら静かな夜を過ごすのもいいだろう。少し心残りではあるけど。
予定外に時間が出来たから、仕方なく今日の資料を整理してパソコンを閉じる。手を洗い歯を磨いてからベッドに入ると、スヤスヤと眠るうさぎの顔に微笑んでしまう。天然のくせに時々生意気にも反抗する。けど、寝ているときは無防備で堪らなく可愛い。まあ、ビクビクしながら反抗するのもそそられるけど。
眠るうさぎの額に、そっと唇をつける。【おやすみ】残念だけど、今夜は温もりを抱きしめて眠るよ。隣にいるだけで癒やされる。そっと抱き寄せて、その頬を顔に近づけるとスースーと小さな寝息がくすぐったい。それに思いの外刺激的なリズムが、誘っているかのように俺のハートをノックする。
[うさぎ、寝たふりをしているのか?]
いや、完全に寝ているのは分かっている。が、俺にも理由は必要だ。寝たふりをしながら実は俺を求めている、そう解釈させてもらおう。
ホテルの薄っぺらなパジャマのボタンを外すと、やっぱり俺を誘う白い肌。唇をつけると待ってましたと言わんばかりに吸い付く・・いや、それも俺的感覚。ダメだ!すまん、寝ていようがいまいが関係ない、うさぎは俺を満足させる義務がある。だろう?
[あっ・・ん・・]
寝ながら甘い声を出すうさぎは、天性の小悪魔らしい。無意識に俺を狂わせる憎らしい天然に、今夜も手加減ゼロの夜が幕を開ける。シャワーを浴びたのも無駄になる汗にまみれながら、俺はうさぎを堪能した。眠りながら反応する小悪魔は、十分に俺を楽しませてくれたのは言うまでもない。
朝食はルームサービスにした。
寝ているのを襲ったという罪悪感を何とか帳消しにしたい。
[うさぎ、朝食が届いたぞ]
寝室に迎えに行くと、うめき声が聞こえる。
[うさぎ、どうした?]
ベッドに駆け寄り、うさぎの顔を覗き込む。
[ぶ・部長・・昨日食べすぎたみたい・・です。身体が動きません・・]
あっ、ヤバッ!それって俺のせい・・かな?
[こ・腰が・・いや、足が・・ううん、どこかな?ううっ・・痛いです・・あっ、でもお腹がすいた気もします・・うえっ、痛っ!]
すまん、実はシャンパンのせいか手加減出来なくて、かなり攻めてしまった。正直に話すべきか?それとも内緒で通せるか?
[朝食をここに持ってきてやる]
とりあえず誤魔化そう。
[ぶ・部長!いいんですか!?]
[ああ、何なら俺が食べさせてやる]
[部長〜]
裸になっているのに疑問も持たず、俺に朝食を食べさせてもらって恐縮しているうさぎ。
[ベーコンも食べるか?]
[はい!部長は俺の救世主です!ありがとうございます!!]
[気にするな]
[えっ、まさか部長!?}
帰りの新幹線の中で、突然大声を出すうさぎ。何事かと驚いて横を見ると、真っ赤な顔で頬を膨らませている。
[ふと考えたら、あの感覚はあれじゃないですか!?部長、まさか無理やりやったんですか!?]
[うさぎ、公共の場だ。社会人として言動に気をつけろ]
何事もなかったようにクールに答えると、ひそひそ声でもう一度俺に聞く。
[部長、昨日の夜は何時に寝ましたか!?]
てかさ、お前の頭の回路はどうなっている?なぜ今になって気づくんだ?むしろ、今頃かよ。
[寝ていない]
[そ・それって]
[ブランド牛のステーキにスイートルームだ、当然だろう?]
[ぶ・部長!!]
新幹線を降りるまで、うさぎはずっとプンプンしていた。本当は嬉しいくせに。
さて、連休はもう少しある。
[うさぎ、このまま俺の部屋に来ないか?]
膨れっぱなしの頬が萎む気配はない。
[前に欲しいって言っていた、新しいゲームを買った]
[えっ?部長、ゲームなんてやらないですよね?]
[うさぎが頑張っているご褒美だ]
[部長〜!!]
うさぎは実に単純だ。食べ物とゲーム、これで完璧。だけど、俺をここまで夢中にさせるのはお前しかない。
[うさぎ、運転は俺がするよ]
[いいんですか?]
[ああ、着いたら起こしてやるから昼寝でもしろ]
[ありがとうございます!実は眠くて瞼がくっつきそうでした]
助手席で眠るうさぎを横目で見ながら、最高の連休を予感して微笑む俺がいた・・💖
部長、今夜はうさぎちゃんを寝かしてくださいね(≧∇≦)
今日も1日お疲れ様でした!
素敵な夢を(=^・^=)*/*☆✨♥