何となく気になっていた。いつも同じ時間に来るサングラスの男が。


初めは、なぜ夜中にサングラス?と思っていたけど、この界隈の人間は世間から逸脱しているような気がする。夜にだけ華やかに彩られる街は、昼間はひっそりとした目立たない路地のように気の抜けた場所だ。夜にだけ、どこにも負けない輝きを放つ。

だから、この世界に生きる人々もそうなのだと思う。色々な事情があって選んだ仕事が夜の街だっただけ。染まっていくのは当然だ、でなければ生きていけない。


その男も、きっと夜の世界に染められた一人なのだろうと思っていた。派手ではないセンスの良い服装もどこか好感が持てたし、ちょっと真似てみたいとも考えたりもした。そして何より気になったのは、レジの前に来た時に、サングラスの間から見える白くて絹のようにキラキラ見える肌。華奢な身体に間違いないが、意外に鍛えているのかもと思わせる胸板も目を引く。


いつも無言のまま会計を済ませていく。俺の台詞もふたつだけ。【いらっしゃいませ】と【ありがとうございます】特に抑揚もつけず淡々と口にする。目の前の人間に興味を持ちつつも、クールな対応を心掛けるのは余計な事を口にすると面倒だから。前にお疲れ様ですと言ったら、知らない誰かに猛烈にキレられた。【お前に俺の人生の何が解る!】確かにね、心のない言葉は伝わってしまう。無駄な事は言わない、これが最適だと知った。


その夜は、どこかいつもと違う空気を感じていた。同じ時間にカップラーメンとおにぎりと酒だけをカゴに入れて、レジの前に立つ男に余計な世話をしたくなった。毎日同じものだけを口にするこの人は、多分食になんの興味もなくて、ロボットみたいに同じ場所にある物をカゴに入れるのだろう。だから俺は、野菜ジュースをプラスしたらどうだろうかと考えた。俺もまた同じように夜の世界に流れて来た人間、それほど生きることに貪欲ではないが少しは身体のことを考える。と同時にコンビニで働く以上、商品知識を学ぶ必要もある。適当に生きるのが苦手な俺は、その場所での完璧を望んでしまう。接客以外は。


[これ、入れてない]

俺が勝手にカゴに入れたのは、その人が来る前に用意しておいた野菜ジュース。コンビニの棚に置かれているのが不思議なほどの高クオリティ、実は俺も愛用している。当然のように否定するその人に、俺は断固として言い放つ。

[野菜ジュースは必要だ]

もちろん誰にでもこんな事をするわけじゃない。何となく、この人には言うべきだと思った。

案外素直に受け入れたその人は、帰り際に振り返った。

[少し話をしてもいい?]


この都会の片隅で、きっと俺達は寂しかったのだと思う。話したかった、誰かと本音で。たまたま巡り合ったコンビニ店員と夜の街に生きるふたりが、互いを知らないからこそ話せる事もある。

もちろん立ち話だから、長く語り合うなんて出来やしない。それでも心を開くには十分だった。


[なぜ、この仕事?]


唐突でダイレクトな質問は、逆に俺を油断させる。こんなに素直に聞かれると受け入れざるおえない。


[それを語るには長い時間が必要だ]

首を傾げて頷く。

[確かに、立ち話で語られるのは天気ぐらいだね]

俺は提案する。

[どうだろう、毎日ひとつずつ互いの事を話す。長くなりそうだけど、いつかはすべてを語り尽くせるかもしれない]

ふっ・・と、サングラスの奥の目が笑う。そう、出来れば外さないでいてくれた方が落ち着く。一瞬外したその顔は、後退りしてしまいそうなぐらいに綺麗だったから。


[いいよ、そうしよう]


機械音と共に、その人は店を出ていく。

柔らかく俺を包む、優しい香りだけを残して✨





おはようございます✨

思いついたので、少しだけ連載です\(^o^)/

頑張ります!


今日も元気に、いってらっしゃい(=^・^=)*⁠⁠/⁠*☆✨♥