【人の優しさを知るには、自分が優しくないといけない】


社会人になってから、たくさんの人と出会い色々な感情を覚えた。学生の時はストレートに心を見せれば良かったけど、社会に出ると隠すのが普通なんだと教えられた。イラつきを笑顔に変え、反論を肯定にシフトする。自分の思いを出したら社会性がないと思われる。そんな偽りの世界が大人の生きる場所、そんな所で俺は息をしている。パクパクと口を開けながら・・。


ユノからのメールは突然だった。

大学を卒業する時に別れた俺達、何度も繰り返した出会いと別れ。ユノは俺の唯一の理解者で戦友で、それでいて互いに負けん気の強い、ケンカの多い恋人だった。他の人と付き合っても、結局はまた互いの所へ戻った俺達・・けど、社会に出るのをきっかけに別れを決めた。


【会える?】

短い文面が逆に心が伝わる。ユノは会いたがっている、俺に。

【いいよ】

俺も会いたかった、本当はずっとね。別れた事を後悔するなんて毎日で、その存在の重さに戸惑う日々だった。


ユノは全然変わっていなかった。いや、少し雰囲気は違うかもしれない。学生時代の屈託のない明るさは、大人の仕草に変化した。飲めなかったコーヒーも、洗練された手つきで口に運ぶ。

[元気だったか?]

大人びた瞳は、社会に揉まれた人だけが持つ複雑な光。もう戻れない無垢な世界は遠い昔になった。

[うん、大変だけど頑張ってる]

何度もユノに電話しそうになった。助けてって。でも別れた恋人に連絡するなんて卑怯でしょ?自分が辛い時にだけ求めるなんて。

[俺もまあ、頑張っている]

どうして連絡くれたの?そんなダイレクトな事はもう聞けない。社会は俺を変えてしまったから。


[ジェジュンに会いたくなった・・突然?いや、むしろ毎日かな]

その真意を確かめたくて、俺はユノを見つめる。期待してはいけないと自分に言い聞かせながら。

[学生の頃は良かったよな、心のままに笑ったりケンカしたり・・それが、すごく懐かしくてさ]

うん、あの頃は楽しかった。自分を飾る必要なんてなくて、丸裸の俺をユノは愛してくれた。 

[ジェジュンは、変わらずにいて欲しい]

ユノ?

[不安なんだ、俺が俺じゃなくなりそうで]


解る気がする、俺も思っていたから。本当の自分を見失いそうだって。どこかに置いてきた自分を探せなくて彷徨ってしまう毎日。

[ユノはユノだよ]

自信を持って俺は答える。ユノは変わらない、いつだって男らしくて正義感に溢れていて、誰をも照らす太陽だから。

ユノが俺を見ている、とても驚いた顔で。 

[俺が変わったと思わないか?]

不安?社会に出て変わって行く自分が。

[ユノは変わらない、俺には分かる]

少しの間、見つめ合っていた。あの頃みたいに愛しい瞳で。


[どうして俺達は別れたんだろう?]

うん、俺もそう思う。何度も何度も繰り返した別れも、ゲームのひとつみたいに必ずリセット出来たのに。

[どうしてかな]

すっかり模様の消えてしまったカフェラテは、白い波だけが漂っている。それをスプーンで突きながら、この居心地のいい時間が止まればいいのになんて考えている。


[ジェジュン]

ユノの声に、別れの時間を予感する。また明日から一人の生活に戻るんだ。今日の夢を小さな思い出に変えて。

ユノの顔を見るのが切なくて、残り少ないカップの中の茶色の液体を見ている。

[ジェジュン]

もう一度名前を呼ばれて顔を上げる。重なる視線に胸がドキッとする。今でも好きなんて、俺は相当のバカだな。


[一緒に暮らさないか?]

言葉の意味を必死に頭の中で考える。ごめん、真っ白で全然理解できない。

[やり直したい、初めからもう一度]

揺るぎないユノの言葉に心が揺れる。夢の続きは幸せすぎて、消えてしまいそうで怖くなる。


[ジェジュンが好きだ・・ジェジュン以外愛せない]


自分の手をつねってみる。夢なら早く覚めてくれないと勘違いしてしまうから。  


[ジェジュンのいない毎日は悪夢のようだった、ケンカしても頭に来ても、それでも傍にいるのが当たり前で・・離したくないんだ、傍にいて欲しい]


店内を流れるのはジャズかな?大人の雰囲気の曲は、あの頃と違う俺達を演出する。

[俺、ワガママだよ?]

[知っている]

[それに嫉妬深い]

[かなりな]

[気まぐれだし]

[確かに]

[意地を張るタイプだしね]

[曲げないね] 

少しは否定してよ・・。 


[その全部を愛してる]

ユノ? 

[俺も全部当てはまる。だから、またケンカすると思う。これから先も同じことを繰り返すかもしれない]

成長しないね、俺達。

[それでも、この想いは変わらないと誓う。今ならハッキリと解る、俺に必要な人はジェジュンだと]


カップに残ったカフェラテを飲み干す前に店を出た。

何年ぶりかで繋いだ手は、二人の行先を示すように強く握られている。

[俺達は大人になれないみたいだね]

俺の言葉にユノが笑う。

[少しずつ成長すればいいさ、人生は長いからな]

そして、クスッと笑う俺にキスをする。


生きる意味って、案外近くにあるのかも。

そんな事を思いながら、俺はユノの手を強く握り返した✨





おはようございます✨

ニュースに負けそうになる毎日、自分を保つ為に必要なものを探します!


今日も元気に、いってらっしゃい(=^・^=)*⁠/⁠*☆✨♥