ゆっくりと階段を降りる。

もう焦る必要はない、そこで待っていてくれる人がいるから。


リビングに入ると、思った通り王子が背を向けて立っていた。スラリとした身体が、あの軽やかなステップを思い出させる。でもね、なぜ王子がいると思ったか解る?なぜだろう、今日は朝から景色が輝いて見えたんだ。屋根裏部屋に射し込む太陽の光もいつもより明るくて、きっと良いことがあると思った。王子だという確信はなかったけどね。ふふっ・・その背中に微笑みかける。貴方は今、どんな想いで、そこに立っているの・・?


間違いないと信じていた。あの歌声を聴いた時、心が弾けた。それまで意気消沈して全身から力が抜けていたのに、瞬時に声の主を連れてくるよう命じ、俺もまたすぐに家の中に戻った。

リビングで待つ間も落ち着かない。今日の俺はちゃんとイケてるだろうか?髪は整っている?彼を前にした時、嬉しすぎてふにゃ〜ってなったらどうしよう?壁に向かって話しかける。大丈夫だ、今日もお前はカッコいい、あの人が飛びつくほどにね。いや、本当にそうかな?俺、大丈夫?


カチャと小さな音がして、俺は振り向く。

うわっ・・思わず声を出しそうになった。舞踏会の時とは雲泥の差のポロポロの服を着て、髪も乱れたままなのに、その顔は凛として美しい。その姿を見ただけで、この屋敷での生活が見えた気がした。どんな環境に置かれても無くさない勇気を。

ゆっくりと彼が近づいてくる。

そして、深々と頭を下げた。


[名前は?]

まだ君の名前を知らない。

[ジェジュンです]

[僕の名前は・・]

[知っていますよ、森の番人さん]

ふふっと笑う彼が愛らしくて、俺は思わず抱きしめる。

[大事な事を忘れていますよ?証明しなくちゃ]

そんなものは必要ないだろう?そう言いたいけど、ギャラリーにも確認させる義務がある。この方が俺が探し続けていた唯一無二の愛しい人だと。

ジェジュンを椅子に座らせる。そして、その足を持ちガラスの靴を履かせた・・。


その靴は、当然だけど俺の足にピッタリとハマる。満足気に微笑む王子は、近くで見るとさらにカッコいい。この唇でキスされたら意識を失うほど気持ちがいいだろうな・・なんて考えていると、それはすぐにリアルになった。


クイッと俺の腰を抱き、甘くて蕩けそうなキスをする。王子は想像以上にキスが上手だ。城の勉強にキスの科目があるのかも。

[愛してるよ]

二度目のキスをしようとした時、家臣の咳払いが聞こえた。我に返る俺達、マジで意識を失いそうだった。

[行こう]

王子が手を伸ばす。その手にそっと自分の手を重ねると、ギュッと握られてホッとする。今までの生活は、この日の為にあったのだとさえ思える。両親を失い、行き場のない心と身体に言い聞かせてきた。【いつか白馬に乗った王子様が迎えに来る】と。

夢は諦めちゃいけない、そして苦しみを憎んでもダメ。すべては自分の為にあるのだから。いつか、その切なさが明るい光となって返ってくる日が来る、必ずね。


[ジェジュン、ごめんなさい]

[本当にごめんなさい、幸せになってね]

姉たちの初めての優しい言葉に微笑む。そして・・階段の途中で立ち止まり、蒼白な顔で俺を見つめている継母。何度も逃げ出しそうになった、いや殴りたいとさえ思った。優しさの欠片もないこの人に、俺は地獄を見せられてきたのだから。震えそうになる身体に気づいて、王子がまたギュッと手を握る。

俺は息を吐いてから伝える。 

[許します]

継母の身体が崩れ落ちるのが視線の端に映ったけどもうこれで終わり、会うこともないだろう。


結婚式当日、俺はたくさんのレースと金の糸の刺繍の付いた真っ白なスーツを着ている。ユノ王子はキラキラしたシルバーの正装で、勲章に金色のサッシュ、すべてが光輝いている。

[さあ、準備はいい?森の番人さん]

緊張気味の王子に微笑むと、ふう〜と息をついてから軽くキスをする。

[リハーサルは軽めでね]

超カッコいいウィンクが、また俺のハートを刺激する。

[さあ、行こう]


城のバルコニーに出ると、国中の人達が俺達を祝福していた。上がる歓声に幸せを噛みしめる。

そして、王子がいい?と目で合図する。


最高のキスは国中の人の幸福を願って。

夢のような時間は、きっと誰の心も温かくしてくれるはずだから・・。


[ユノ、庭でアヒルを飼ってもいい?出来ればネズミも]

[君が望むなら]


今日も甘いキスで1日が始まる。でもね、俺は忘れない。


この世界で一番大切なこと、それは【愛と勇気】だと・・✨




本当は勇気と優しさなんですよね(^o^;)

でも、愛は必須項目です💖




おはようございます✨

お遊びが楽しくてやめられません(✽ ゚д゚ ✽)


今日も元気に、いってらっしゃい(=^・^=)*⁠⁠/⁠*☆✨♥