週末の一番忙しい時間、事務所で電話が、鳴っている。
事務所には誰もいないのか、取る様子もない。
親父に礼をして、電話を取ると、
バーみやびから、
口開けで来た客が暴れて手が付けられないと言う。
親父が行けと手で合図をする。
すぐさま、携帯で壮一を呼び出し、
「親父を一人にしておくのか!」と叱る。
手下をすぐ事務所に送りますと言うので、
親父にその旨を伝え、バー雅に急ぐ。

 

ここいらでは、珍しいぼったくりでもない、普通のバーだ。
バーのある雑居ビルの5階に着いたら、外まで聞こえる大声。
「なんだこの店は! 同伴しても客の席には付かないのか?
えぇっ! ふざけるな! 馬鹿にするな! 舐めているのか?」
大声で叫んで、何かを投げている音がする。 
野次馬をかき分けて店に入ると、ママとチーママが取りなしているが、
激昂しているのか、聞く様子が無い。

 

ママに近寄り、
「上客かい?」と尋ねると、
「そう。」と答える。
「お客さん、そう暴れると、払いが高くつきますよ。
この、あっしの面に免じて、引いてもらえはしませんかね?」
ぎょっとして、
「何だ! この店は! やくざ者を呼ぶのか!」
「お客さん、だから、この面に免じて、引いてもらえませんか?」
少し、凄むと、たいして酔っていなかったのか、
「お前さん、ここは俺の気持ちをどう汲んでくれると言うんだ?」
「そうすね、話を聞かせてもらえませんか?」
そう言って座らせると、客が話始める。
「ここの、メイというチーママが同伴出勤をしてほしいと言うから、
わざわざ、予約をしてイタリアンで食事をして、ここまで来たら、
座って、10分もしないでほかの客の所へ行ったまま帰っても来ん。
その上、こんな水割りもまともに作れない子を一人で、
俺を置いておくのは、ふざけているとしか思えん。
お前さん、ひどいと思わんか?」
「そうすね。確かに、でも、チーママは忙しいのは分かりますでしょう?」
「そりゃ、そうだが、誘ったのはメイの方からだぞ。」
「じゃ、ママさん、若い子をもう一人、二人付けて。」
「メイには謝ってほしいな。」
「ママさん、メイはどこに?」
隠れていたメイが現れ、俺の顔を見て、ちょっとびっくりする。
「いい客じゃないか、ちゃんと話をして謝れ。」と言い、ママの所に向かう。
後ろで、メイが謝る声が聞こえる。
「ママさん、ちゃんと教育しなきゃダメだよ。」
「今日は、私の誕生日で、立て込んでいて目が届かなかったの、
ごめんなさいね。」と言い、周りにわからないように、
ポケットへお札をそっと差し込む。
ママが、
「メイは、チーママもしているけど、アルバイトなのよ。」
「アルバイトでも、店の顔なんだろう?
もう少し、きちんと対応できるように教育しなおしするんだな。」
「わかったわ。」
「じゃ、今度は飲みに来る。」そう言って店を出る。


表は夜の喧騒であふれかえっており、人通りも多い。

ふと、見上げると、ビルのネオンの合間に満月の光。
親父の顔を思い出し、その辺で果物でも買って帰るか。

新宿の夜にメイの香が漂っているような気がした。

 

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これは創作で、主人公に似た名前の人もフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。 
あくまで、妄想ですので事実と誤認しないようにお願いいたします。
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