天津飯の甘い香りが漂うアパート窓の向こうに、メイの部屋が見える。

 

食事の用意を始めたメイ。

「壮一、狂犬キムと、泣かせの隆二と、
てめーの部下を三人ほど呼べるか?」
「すぐ、連絡をします、兄貴。」と言い、どこかに電話をする。
「すいません、兄貴。 
キムあにいと隆二の兄貴は、組の仕事ですぐにはこれません。
手下は30分もすれば来れます。」
「キムと隆二は何時頃これるか確認しろ。」
「はいっ。」と電話で組に確認をしている壮一。
「キムあにぃは2時間後には、隆二兄貴は3時間後には来れるそうでス。」
「よし、じゃぁ、全員3時間後に集まるように、連絡しろ。」
「はいっ。」
それまでに、龍が逃げなけりゃいいがなと、ぼんやり考える。
「兄貴、手配できました。」
「そうか、じゃ、メイの部屋を見張れ、そのうち龍が来るだろう。」
「わかりました、兄貴。」
そう言い、ごろんと横になる。

 

「兄貴っ! 龍が来ました!」
「そうか、手下が集まるまで、良く見張っていろ、何かあったら教えろ。」
「はいっ。」
「兄貴、なんか飯を食っています。」
「そうか、逃げる様子はないな。」
「気が付いてないみたいすよ。」

「メイが見えなくなりました!」
起き上がりながら
「龍はいるのか?」と聞く、
「います。くつろいでいます。」
メイの部屋を確認する、どうもメイは風呂へでも入っているようだ。
「壮一、たぶん風呂だ、龍もそのうち風呂に入るだろう。」
「そうすか?」
「そういうもんなんだよ、こましで食っているやつの癖みたいなもんだ。」
「兄貴はこましも詳しいすね。」
「いいから、よく見張っていろ。」と言い、壁に寄りかかりタバコを吸う。

「兄貴の言った通り、龍も見えなくなりました。」
「そうか、しゃぁない、部屋を通らないと表に出れないのは確認済だ。
部屋を通って出て行かないか、よく見てろよ。」
「はいっ、兄貴。」

「2人そろって、出てきましたっス。」
「そんなもんだろう。」
「兄貴、ベッドに座って手を握っています。」
「そうか、次は抱きしめて、キスをするかな。」
「兄貴、その通りです。なんで兄貴には分かるんで?」
「マニュアルがあるんだよ。マニュアルが。」
「はぁ? マニュアルすか? 」素っ頓狂な声を出す壮一。
「おめえも、チャカやドスを渡された時に、
マニュアルももらっただろうが。」
「あぁ、あれすね。 チャカと弾は別の場所へ隠せとか、
ドスは手のひらで押すように持って、体ごとぶつかるように刺せとか、
書いてあるやつすか。」
「そう、それだよ。 最初に見ただろうが。」
「あれ、あんまり役に立たねっス。 めんどくさいっス。」
「そうか、それでもあれのおかげてムショ行きは減ったし、
確実に的を殺せるようになったんだよ。昔は多くの仲間が捕まったり、
反撃にあって、殺られたりしたもんだ。」
「第二次新宿抗争の時すね。」
「そうだな、俺が組に入ってすぐのころだ。」
「兄貴、キスの後にまた抱きしめています。
肩から背に手をまわして、抱きしめては、顎を肩に載せ、
耳元に何かをささやいているようです。」
「そうさな、大丈夫、よくやったとか、褒めているんだろう。」
「それも、マニュアルすか?」
思い出すように、
「組に入った頃、当時は若頭補佐だった今の親父に、
大学出てまで、なんでこの水につかると聞かれたな。
若頭補佐を知ったきっかけは、雀荘の喧嘩だ。
チンピラを叱り飛ばし、謝った若頭補佐に一目ぼれさ。
そしたら、若頭補佐がお前の面と頭を使って、
当時、行き詰まっていたこましの上がりをあげろと言われ、
こましで食っていた兄貴たちに聞き取りを行い、
一番、女が落ちやすい手順をまとめて、若頭補佐に報告したら、
それをまとめて、こましの新人に配れっとさ。」
「それがマニュアルで?」
「そうだよ、それのおかげで、俺は親父に認められて、
今の地位にいるんだ。」
「さすがは、兄貴すね。」
「おべっかはいいから、見張っていろ。」
「はい、兄貴。 明かりを消しました。」
「見えるか?」
「暗視カメラを通してみます。
ブラジャーに手を滑り込ませ、腕をつかんで、キスをしてます。
録画してもいいすか?」
「いいよ、好きにしろ。」
「今度は足先から、舐めるようにキスをして、
そうっとさするように腕をなでて、
肩から徐々に、指先までキスをして、
あぁ、ブラジャーを外しました。
細身の体に柔らかそうな乳房が見えます。乳房にキスを。」
「いちいち言わなくてもいい。何かあったら教えろ。」
「踏み込まなくていいんですか?」
「いいよ、どうせ後、2~3時間だ、好きに女の体を堪能させたれ。」

思ったより、早く、2時間後には全員がそろった。


「龍も最後にいい思いもしたし、さらうぞ。
壮一の手下二人は窓の下に置け。一人は車とアパート側で待機。
残りは俺と一緒に踏み込む。」

キムがバールで扉をこじ開け、すぐに隆二が飛び込み、
壮一とで龍をぶん殴りながら取り押さえる。
「メイさん、龍の命を助けたかったら、ブツはどこかな?」
メイはぼこぼこにされた龍を見て、恐る恐る、ベッドの下を指さす。
「いいかい、これは組のシノギの話で、お前さんには関係がない。
誰にも言わずにいると言うのなら、親父も許すと言っている。
いいかい、分かったか?」
小さくうなづくメイ。
「じゃ、行くぞ。」と龍を拉致って、車に運ぶ。
「お前も、最後にいい女の体を堪能出来て良かったな、龍。
壮一がずーっと見ていたぞ。」
「いいおかずになります。」
「だそうだ、龍。 壮一、龍のテクニックは役に立つか?」
「面倒くさそうで、いいス。」
俺の乾いた笑いと天津飯の香と共に、車は組に向かう。

 

これが、俺がメイを知った話だ。
まぁ、どこにでもある話だ。

メイが務めるバーはうちのシマウチにあり、
この後もメイと係わることになるとは、思いもしなかった。


メイと呼ばせる女、うめこ。


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これは創作で、主人公に似た名前の人もフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。 
あくまで、妄想ですので事実と誤認しないようにお願いいたします。
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