メイは、自分の名前が嫌いらしい。 
メイと呼んでねと言うが、本名はうめこと言う。 
三十歳も、とうに過ぎた、いい大人が、 
自分の名前が嫌いだから、違う呼び方をする。 

 

笑い話か? 違うこれは彼女がやらかしたトラブルの話だ。 

 

まぁ、男がらみの話でもある。 
いい女には違いない。 
事務所ではスーツの似合うキャリアウーマン。 
夜の街に居れば、ママか、チーママだ。 
実際、昼はキャリアウーマンらしい、夜は新宿では有名なバーのチーママをしている。 

だから、声を掛ける男も後を絶たず。 

何時も違う男がそばにいる。 


今回は、少し厄介な男と付き合ったようだ、通り名は龍。 
韓国系中国人、脱北者と言うやつもいる。 

まぁ、チンピラだ。 

大きな儲け話をしては、組にでかい額を上納して、補佐に認められると、
意気込んでは失敗して、最近では頭からも見捨てられ始めている。 
そいつが組の金に手を付けて、チャカを手に入れ、
対抗する組織のブツを横取りしたらしい。 
うちとしては、余計なことを、しやがったとしか言いようがない。 
普通に取引をした方がうまみはでかい。 

さっさと逃げるか、組にブツを持ってくれば話は簡単だ。 
逃げれば龍をとっかまえて、ぼこぼこにして、指をつめて、
相手の組織に200万も渡せば、ブツはソシキでさばける。 

ブツを持ってきても同じ、半殺死が無いだけで、指をつめて、
相手に見舞金を払い、ブツをさばく。 
末端価格で2000万円、小せい額だ。
見舞金の分、儲けが減る。 
先月は5億の取引をしているのをしらない、チンピラの考えそうなことだ。 

 

メイの話に戻ろう。 

龍からブツを預り保管してくれと言われ、後生大事に持って歩いている。 
おかげで、隙を狙うしかなく、見張りを言い使った。 
面倒くさいが、一応、素人の女を組織のゴタゴタに巻き込むと、
サツがうるさいので、親父が隙を見てブツを取り上げろと、来た。 
めんどくさいが、親父の言いつけだ、守らなやしゃぁない。 

 

相棒は、壮一。 
バリバリの武闘派で、頭は全くない。 
二人でメイの部屋を見張る。

「何をしているんでしょうね、後生大事にブツを抱えて。」 
「多分、俺らが乗り込むと思って、ブツを抱えて守っているのさ。」 
「いま、飛び込んでブツを取り上げたらどうです?」  
「龍に逃げられるだろうが、お前が代わりに指をつめるか?」 
「イヤです。 勘弁してつかーさい。」 
「じゃ、龍が来るのを待つしかねぇだろうが。」  

ただ待っているのも暇なので、下の中華屋から出前を取る。 

「壮一、おめーは何を食う?」 
「あっしすか? 兄貴は何を食いますんで?」 
「俺か、俺は天津飯にするわ。」 
「じゃ、あっしも同じもので。」 
「これで払え。」と5千札を渡すと、嬉しそうに飛んで行った。
あいつも、それなりに緊張していやがる。 

「兄貴、15分もすれば届けてくれます。」
「そうか、良かったな。」
「さっきから、美味そうな匂いがしていて、
腹が減っていたんですよ、兄貴。」 
これで、壮一もおとなしく待つだろう。 

 

天津飯が届いて、
「兄貴、ナンスかこれ、玉子焼きすよ。 ご飯が無いすね。
忘れたのかなぁ、ご飯取りに行ってきますっ。」
「おい、壮一、天津飯も食ったことが無いのか? 
これでいいんだよ。」と言い、玉子をめくりご飯を見せる。
「なんか、甘酸っぱい匂いで美味そうすね、兄貴。」
「いいから、黙って食え。」

天津飯を食って、腹が一杯になったのか、
こっくりこっくりと居眠りを始める壮一。
起きていてもうるさいだけなので、窓際に寄りかかり、
向いのアパートのメイの部屋を確認する。 

電話でもあったのか、食事の用意を始めるメイ。
動きに気が付いて、起きだし、
「来ましたか?」と聞く壮一。
「まだだな、そのうち来るだろう。」
「寝ちまって、すいません。兄貴。」
「いいよ、変われ。」
「はいっ」の声を聞き、しょんべんに向かう。

「きませんねぇ、兄貴。」
「多少は、警戒しているかもしれんなぁ。」
警戒する頭があれば、組織の金に手を付けないと思う。
それでも、そのうち現れるだろう龍を待ち続ける。

夜は、天津飯の甘い匂いを漂わせ今日も過ぎて行く。 


メイと呼ばせる女
続く

 

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これは創作で、主人公に似た名前の人もフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。 
あくまで、妄想ですので事実と誤認しないようにお願いいたします。
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