鎌倉2022 上 〜 多種多様な点を結び、縁を紡ぐ鎌倉ゲストハウス。 | white noise

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"Nonsensical thoughts that have entered my head." by Yoshida Kenko

こちらの続きです。
7年半前に訪れた時の記録はこちらから。
鎌倉ゲストハウスは古民家を改装して作られた宿だ。
今でこそ鎌倉には、江ノ島、長谷、鎌倉駅周辺、その他にも数多くのゲストハウスがあるが、宿泊をするにしても食事をするにしても何かと高くつく鎌倉において、最初期に生まれた安く泊まれるゲストハウス形式の宿がここであった。
冬には座敷に炬燵が出され、綺麗に整備された囲炉裏に火が灯るのが大きな特徴であり、それらは魅力の一つでもある。
ここに泊まった旅人達は炬燵や囲炉裏を囲み、それぞれが持ち寄った食材で作った鍋物や、焼き物を肴に、思い思いの話をし、親交を深める。


「遂に来たぞ、鎌倉ゲストハウス。」
建物を前にしてそんなことを一人呟き、思わず頬が緩む。

時間は19時頃、中に入ると今夜ここに泊まる客が集まり始める時間ということもあってか、少し慌ただしくしているのが伺えた。
「こんばんは!チェックインですね!」
スタッフの方がすぐに気付いて応対してくれた。
手続きを進めながら少し会話をする。
「ここに泊まられるのは初めてですか?」
いいえ、書類を書きながら答える。
「7年ぶりに、泊まりに来ました。」

2010年7月に開業した鎌倉ゲストハウスは前で述べているように、この地域で最初期にできたゲストハウスだ。ここで見習いや修行をした人々によるゲストハウスは日本各地に存在するそうである。
"そうである"というのも、この話は共に宿泊した旅人から聞いた話だからだ。
私がチェックインした時には既に何組かの客が到着していた。簡単に挨拶をしながら宿の案内を受け、荷を解くと、無事にテイクアウトすることができた麻婆豆腐の入った袋を右手に提げて居間に入った。
囲炉裏の周りに2人の男性、キッチンには2人の女性。まもなく新たに3人の女性も食材を持って居間へやってきた。いきなりその中に入っていくのが憚られた私は炬燵に入って食事をする。
すると、囲炉裏にいた男性から話しかけられた。
「その麻婆豆腐、かかんですよね。私も食べました。美味しいですよね!」


鎌倉ゲストハウスに多くの旅人が集まり、その多くを魅了する理由はここにある。
炬燵や囲炉裏を囲み、皆が肴を持ち寄り、それをつまみながら話を始める。
退職後に日本全国を巡る、やけに各地の学校に詳しい男性、
ゲストハウスをこよなく愛し、休みとなれば全国の宿を転々と回っている男性、
出版関係の仕事仲間で次に書く絵本の題材に、と鎌倉を観光しにやってきた三人組の女性達、
閉業してしまう鎌倉ゲストハウスのことを惜しみ、最近頻繁に泊まりに来ているという女性、
スクーターに乗り、その身一つで転々とホテル暮らしすることを楽しんでいる女性。
それぞれの過ごす日常では、巡り合うことのない人々は、この場所でそれぞれの共通点を見つけ、今宵も話は拡がっていく。


鎌倉でゆかりのある場所、自分が住んでいる場所、住んでいた場所、仕事、大切なもの、理想、様々なものが、鎌倉ゲストハウスの囲炉裏と炬燵を中心にして交わり合う。
そうして多種多様な点を結びつけ、縁を紡いでいく。
それが鎌倉ゲストハウスという場所であり、ここの大きな魅力であった。
スタッフが中心となって、決して押し付けがましくなくゲストを会話の輪に引き入れ、またそうした人々との関わり合いが大きな魅力となっている宿。
建物や部屋、ホストやスタッフだけでなく、そこに泊まるゲスト一人一人も魅力の1つと化す。
そんな類稀な宿である「鎌倉ゲストハウス」は、2022年12月29日をもって、幕を閉じる。