347 葬儀の後で | プレ介護アドバイザーはまじゅんのおしゃべりサロン

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土曜日の夜、通夜式が厳かに行われた。

 

東福寺のご住職の読経の後、全員が焼香を

済ませると、健太が挨拶する。

 

「今日は、亡き母、佐藤君江の為にお越し

いただきありがとうございました。母は、

認知症になってからも、いつも穏やかで

優しく、子供想いの母のままでした。

 

僕は、母の息子に生まれたことを誇りに

思っています。今夜は、母と共に思い出話を

して、皆さんと仲良く過ごしたいと思います」

 

健太の挨拶が終わると、皆は会館の2階に

ある食事用の部屋に移動する。

 

楓が華江おばさんのお相手をしているので、

みどりが飲み物を配ったり、お茶を入れたり

と裏方の仕事を引き受けていた。

 

1時間ほど談笑した後、健太が皆に声を

かける。

 

「今夜は、皆さんお疲れでしょうから、

そろそろ終わりにしましょう。

浩介と颯介たちは、ホテルまで移動がある

から、気を付けて行くようにな。

 

華江おばさんと七海ちゃんは、控室の奥の

部屋でお休みください。

 

今夜は、姉貴と僕が、おふくろの側にいます

から、皆さんゆっくり休んでください。

明日の葬儀は10時からですので、9時半

ごろまでにお集まりください」

 

浩介達は駅前のホテルに向かい、華江と七海

は奥の部屋に入り、哲也とみどりは自宅に

帰る。楓と健太は、棺に入った君江の側に

いた。

 

「こうして棺に入っているおふくろを見ると、

本当に死んでしまったんだなあと思ったよ」

 

健太の言葉に、楓がうなずく。

 

「そうよね、寝かされているだけだと、

今にも起きて来そうな気がしていたけれど、

棺に入ると、もうお別れが近いのかって、

思うわね」

 

「姉ちゃん、昨日から葬儀の事まで、全部

段取りしてもらってありがとう。

華江おばさんに恥をかかずに済むのも、

姉ちゃんのお陰だよ」

 

健太は、素直に楓に感謝の気持ちを伝える。

 

「健太、まだまだ、四十九日に納骨するまで、

気が抜けないわよ。

 

東福寺さんが、日程を決めて欲しいそうよ。

7月27日の土曜日にしたけど良かった?

日曜日は、もう予定が入っているそうだから」

 

「俺は良いよ。四十九日は、颯介も華江

おばさんも来ないだろうから、

土曜日でも大丈夫だよ」

 

「そうね、華江おばさんには一応、

日程を知らせておくわね」

 

健太と楓は、時々うたた寝しながら、君江の

思い出話をしながらその夜は過ごした。

 

翌日の日曜日、葬儀・告別式は予定通り進む。

霊きゅう車に君江の棺が納められると、健太

が一緒に乗り込み、その他の参列者は会館の

用意したバスに乗り込む。

 

火葬場では、親族控室で軽食を食べたり、

お茶を飲みながら談笑して、収骨の時間まで

を待つ。

 

華江おばさんが、幼い頃の話を色々と話して

くれた。楓と浩介、颯介、みどりは、上ノ山

小中学校跡地のグランピング施設に泊まった

時のことを思い出しながら、君江と華江の

子供の頃に想いをはせていた。

 

連日の疲れが出たのか、健太は待っている間

うたた寝をしている。

 

楓が孫の紫織と遊ぶのに夢中になっていると、

みどりがさりげなくお茶を入れ替えたりする。

 

やがて、場内アナウンスがあって、全員で

収骨場に向かう。

 

健太は、東福寺さんから、納骨壇用の小さい

骨壺に最初からしても良いですよと言われて

いたが、どうしてもその気になれなかった。

 

今は、大きな骨壺に、出来るだけ母親の骨を

入れて、家に連れて帰りたかった。

 

収骨を終えると、今度は健太も含めた全員が

バスに乗って、会館に戻った。

 

初七日の法要を終え、精進落としの食事に

なると、皆一様に安堵した様子だった。

 

「華江おばさん、お疲れ様でした。

ビールを召し上がりますか」

 

楓が聞くと、華江は飲みたいと言った。

楓も健太も飲みたい気持ちだったので、運転

をして帰る浩介と哲也、みどりをのぞいて、

皆で君江に献杯することになった。

 

精進落としの場でも、みどりは裏方の細々と

した用事を片付けいく。ちょうど、華江の側

のビール瓶を片付けようとした時、みどりに

華江が言った。

 

「身内でもないのに、最後まで色々と

お世話になって、申し訳ないわね」

 

華江にとっては、みどりをねぎらう言葉

だったが、みどりの心にはとげが刺さった。

 

少しお酒が回ってきたころ、華江が健太に

向かって言った。

 

「健太、今までは君江お姉さんのお世話が

あったから仕方なかったけど、これからは

自由なんだからね。

 

あなたはまだ50歳前でしょう。

20歳ぐらい若いお嫁さんをもらって、子供

をたくさん作って、佐藤家の繁栄を築きな

さいよ。それが、佐藤家の長男としての

あなたの役目よ」

 

「健太おじさん、今時は20歳くらいの年

の差、若い子は関係ないみたいよ。

頑張ってね」

 

続けて七海が言った。その言葉を健太は否定

せず、あいまいに笑ってごまかす。

 

その様子を、みどりはじっと見つめていた。

 

健太!  大丈夫なの?

 

TO BE CONTINUED・・