ロシアの新世代オリガルヒ、ウクライナ戦争機に台頭 | ヒラテツのブログ

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ロシアの新世代オリガルヒ、ウクライナ戦争機に台頭

コラム:ロシアの新世代オリガルヒ、ウクライナ戦争機に台頭

6月5日、プーチン政権下のロシアで、新世代の大富豪が誕生しつつある。写真は3月、モスクワのクレムリンの塔にかかる月(2024年 ロイター/Marina Lystseva)

プーチン政権下のロシアで、新世代の大富豪が誕生しつつある。

四半世紀前に権力の座に就いたプーチン大統領は、まず1990年代に台頭した新興財閥(オリガルヒ)を手なずけ、次いで新たな世代の大物たちを指名していった。その多くは、ロシア情報機関の元同僚たちの間から選ばれた。

そして今、オリガルヒ候補の「第3の波」が現れつつある。接収した西側企業の資産を保有・管理するためにプーチン氏が選んだ有力者たちだ。これまでのオリガルヒよりビジネスの才覚はあるかもしれないが、ロシアの指導者への従属度は旧世代と変わりはない。

初期のオリガルヒは、1990年代初頭、当時のエリツィン大統領による強引な民営化に乗じて資産を築いた。そして、プーチン大統領の命令に従っている限り、その巨富を維持することを認められた者もいた。たとえば、時価評価額240億ドルの金属大手ノリリスク・ニッケルを保有するウラジーミル・ポターニン氏や、アルミニウム資源関連の資産を基盤とする巨大工業グループを率いるオレグ・デリパスカ氏などだ。

 

第1世代のオリガルヒの中には、こうした幸運に恵まれなかった者もいる。石油や自動車、メディア産業で財産を築いたボリス・ベレゾフスキー氏は、その後プーチン氏と対立して英国に移住し、そこで命を落とした。かつての石油大手ユコスの創業者で、ロシア一の資産家だったこともあるミハイル・ホドルコフスキー氏は、政治に足を踏み入れ、シベリアの刑務所で10年間服役した。資産の大半を海外に移しつつロシア政府と良好な関係を維持しているオリガルヒもいる。たとえば石油産業の大物だったミハイル・フリードマン氏の資産は、現在同氏がルクセンブルクに設立した持ち株会社レターワンによって管理されている。

プーチン氏としては、大統領就任後に取り立ててやった第2世代の富豪や資産家については特に心配するべき理由がない。彼らは、プーチン氏が旧ソ連国家保安委員会(KGB)で諜報員として、あるいはロシア第2の都市サンクトペテルブルクの地方官僚として働いていた時期の友人や同僚で、「シロビキ」と呼ばれ、20年以上前にプーチン氏によるエネルギー関連の国有資産の分配の恩恵にあずかった。

その1人がイーゴリ・セチン氏だ。プーチン氏により副首相に任命された後、2012年には国有石油大手ロスネフチのトップに任命された。プーチン氏と同じくKGB諜報員だったニコライ・トカレフ氏は、2007年に世界最大のパイプライン企業トランスネフチの社長に任命された。天然ガス大手ガスプロムのトップを務めるアレクセイ・ミラー氏もこのグループの1人だ。

こうした旧世代もまだ力を失っていないとはいえ、どうやら「衛兵交代」の時期が来たように見える。

数カ月前、アレクサンドル・バルシャフスキー氏やアレクサンドル・ゴボル氏といった実業家の名は、ロシア国外ではほとんど知られていなかった。バルシャフスキー氏はドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)のディーラー網を経営していたが、現在ではVWが長年ロシア北部で操業していた工場のオーナー兼経営者で、韓国自動車大手の現代自動車の資産も手に入れた。ロシアの独立系ニュースサイト「ザ・ベル」によれば、西側企業から没収され同氏の管理下に入った資産は、2021年には70億ドル近い収益をもたらしていたという。

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ゴボル氏は、米ファストフード大手マクドナルド)がロシアで展開していたフランチャイズのオーナーだった。パートナーのアルセン・カノコフ氏とともにマクドナルドの店舗網を継承した他、米コーヒーチェーン大手スターバックスとドミノ・ピザの店舗も手中に収めた。これらの資産は、ウクライナ侵攻前には年間約30億ドルの収益をあげていた。

西側企業各社がロシア撤退を急ぐなかで、今後数カ月間に接収される資産は膨れ上がる可能性がある。プーチン氏が配分するパイもじきに大きくなると考えられる。キーウ・スクール・オブ・エコノミクスによる最新の統計では、ロシアで今も事業を続ける西側企業は1679社とされている。

新世代のオリガルヒ候補たちは、旧世代とは多くの点で異なっている。大半はビジネス分野での実績があり、それぞれの分野で相当の能力を発揮してきた者もいる。また、闇の部分が多く腐敗したロシア社会のシステムはもちろん、損益計算や市場競争の基本にも精通している。デンマークのビール大手カールスバーグ子会社であるバルチカのトップにタイムラズ・ボロエフ氏が抜擢されたのは、プーチン氏との長年の盟友関係ゆえかもしれない。とはいえ、同氏は2014年まで13年間にわたり同社を運営してきた実績がある。

もちろん例外はいる。ロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長のおいであるヤクブ・ザクリエフ氏が仏食品大手ダノンのロシア国内資産を引き継げたのは、プーチン氏との人脈のおかげだろう。過去にザクリエフ氏がヨーグルト製造やミネラルウォーター販売に関して優れた手腕を示したという話は聞かない。

1990年代や2000年代のオリガルヒたちとのもう1つの違いは、活動の舞台が消費財やサービス、小売といった分野であることだ。プーチン氏ががっちりと握っている鉱業資源やエネルギーセクターについては、すでに旧世代のオリガルヒが山分け済みだ。

ところで、新世代オリガルヒの主要な特性として目を引くのは、まったく新しい状況のもとで台頭していることだ。

これまでのビジネス特権層が足場としてきた国内の経済部門は、国際貿易に参入し、グローバル金融システムにどっぷりと浸かっていた。

今日のロシアは海外の金融システムから切り離されており、プーチン氏は、かつて輸入に依存し、あるいは西側企業の傘下で国内生産していた消費財全般に関してロシアの自立度を高めることに注力している。プーチン氏は昨年、ロシアを撤退する企業が売却する資産に関して、買い手が見つかった場合に売却額の50%値引きを義務付ける措置を導入した。西側先進諸国が来月、凍結したロシア資産3000億ドルをウクライナ支援に使うことに合意した場合には、さらに広範囲に及ぶ措置を導入することとなっている。

ビジネス界出身の新たな大物たちは、かつてのオリガルヒのように政治に参加してはいない。ロシア政府に多少なりとも影響力を競えるほどの地位に達した者は1人もいない。短期的には、プーチン政権下で過熱する戦時経済の追い風に乗って迅速な成長を遂げる可能性はある。政府支出のおかげで、賃金だけでなく、年金や社会保障給付も上昇しているからだ。だがその先となると、ロシア経済の孤立という壁にぶつかることになるだろう。

またこれまで同様、プーチン大統領が自分が与えたものを自分で奪うことがあり得るだけに、新世代オリガルヒの野心にも歯止めがかかるだろう。旧世代がやっていたように、政府の指示と自由なグローバル市場の要請との間で均衡を保つことはできないだろう。ほとんどのリソースが戦争遂行のために動員され、それ以外の部門が残り物を分け合うようなシステムのもとで活動しなければならない。

ウクライナでの戦争と経済制裁、西側投資家の逃避という構図の中で、プーチン氏には新たな取り巻きたちを指名する以外の選択肢がなかったとも言える。ロシアが石油・天然ガス輸出への過剰依存からの脱却につながるような産業を育てていくのであれば、新たな大物たちが経済に貢献できる場合もあるだろう。結局のところ、過去の対ロシア経済制裁は、特に2014年のクリミア半島併合以降、ロシアが食料消費において自給体制を確立する契機となったのだから。

とはいえ、ロシアの孤立のせいで新世代の大物たちが今後の展望を思い描けなくなる可能性は高い。旧世代に比べ、「オリガルヒ」と呼び得る存在になれるかすら危ういかもしれない。

翻訳:エァクレーレン

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)